<アングル>独法化巡り院長退職*松前病院 迫る診療縮小*10月以降*常勤医 6人から4人に

2016.08.17

  <アングル>独法化巡り院長退職*松前病院 迫る診療縮小*10月以降*常勤医 6人から4人に
2016.08.14 北海道新聞


 【松前】積極的な研修医受け入れなど先進的な地域医療を進めてきた渡島管内松前町の町立松前病院(100床)が、事業縮小の危機に直面している。病院の地方独立行政法人化(独法化)を巡って町と対立し、木村真司院長が7月末に退職。他の医師の辞職も決まり、一時10人いた常勤医が10月以降4人に減るからだ。研修医受け入れや人工透析の治療体制は見直さざるをえず、独法化も困難な情勢だ。後任院長さえ決まらない状況に、町民らは不安を募らせている。(木古内支局 石橋崇)

 「後任院長の選考を急ぎ、新たな医療体制確立に努めたい」。木村院長退任後の病院運営について石山英雄町長は強調するが、具体的なめどはついていない。

 木村氏は、2005年に院長に就任。少子高齢化が進む地域での新たな医療サービスを目指して「全科診療(総合診療)」制度を導入し、無料送迎バス運行や人工透析治療に積極的に取り組んできた。研修医や医学生の育成事業も確立し、15年度は全国から60人を受け入れた。同病院が事務局のインターネット中継で行う学習会には、全国約400の病院や個人などが登録している。

 こうした地域医療の充実に加え、地方交付税の増額もあり、09年度決算以降、黒字経営を続けてきた。ただ今後、社会保障費の見直しで交付税が減額される懸念がある。木村院長は、経営基盤強化策として、道内市町村で初となる独法化を町、町議会に要望。《1》適材適所の職員配置、採用《2》病院独自の中期目標・計画策定-が可能などと利点を訴えた。

 町、町議会も「持続可能な病院運営が必要」とする点では、病院と一致する。町は、17年度の独法化を目標に行政改革室を設置し、町議会は調査特別委で議論に着手した。ただ、委員からは「経費が膨大」「人口減の中で収入を増やせるのか」と慎重意見が続出した。

 石山町長は、こうした経緯を踏まえ定例町議会を控えた6月初旬、木村氏と会い、病院職員の意向調査を行うと伝える一方、独法化に必要となる定款について、議会提案先送りの意向を示唆した。木村氏はこれに反発し、即座に辞意を表明した。病院経営に詳しい城西大経営学部(埼玉県坂戸市)の伊関友伸教授は「木村氏の努力を評価すべきなのに、町側の評価が低かった」と指摘する。

 病院と町、町議会の対立は、13年の騒動にさかのぼる。当時、定年退職した事務局長の雇用継続が認められないことに反発した木村院長と常勤医8人が辞意を表明。石山町長と町議会議長が陳謝し、独法化検討を約束して辞意は撤回されたが、双方に不信感や感情的なしこりを残した。一部町民は、事務局長の雇用を継続する条例案を否決した当時の町議会の議長(現町議)が「一連の混乱を招いた」として解職請求(リコール)を模索する。

 病院改革を主導した木村氏の辞職で、松前病院の求心力低下は否めない。現在6人の常勤医のうち1人が他の病院に移るほか、将来を不安視した1人が辞職を決めた。市立函館病院と函館協会病院は、医師派遣を9月末までに取りやめる。

 診療体制見直しを迫られる松前病院は、7月末に研修医受け入れを停止。人工透析の診療数や老人ホームへの訪問回数を減らす方向だ。ある病院関係者は「独法化を町に要望する余裕などなくなった」と吐露する。町は後任院長について、八木田一雄副院長を軸に病院側と調整しているが、町民からは「対応が遅すぎる。患者不在の混乱にうんざりだ」との声が漏れる。

*町立松前病院をめぐる主な動き

2013年3月 病院事務局長の男性町職員が定年退職

     6月 前事務局長を「嘱託員」として再雇用できる条例改正案を町議会が否決

     9月 木村院長が辞職願提出

    12月 常勤医10人中8人が12月までに辞意。石山町長と前町議会議長が謝罪し、木村院長と常勤医が辞意撤回

2014年1月 前事務局長が病院事業副管理者に

2015年4月 病院事業副管理者が事務局長兼任に

     6月 町が行政改革室を設置

    11月 町議会の調査特別委員会が始まる

2016年4月 町長選で石山町長が再選

     6月 木村院長が石山町長と会談後、辞職願提出

     7月 常勤医1人が辞職願提出