松前町立松前病院の院長辞職 独法化巡り町と対立 住民、医療体制維持に不安 

2016.07.27

ニュースプラス:松前町立松前病院の院長辞職 独法化巡り町と対立 住民、医療体制維持に不安 /北海道
2016.07.26 毎日新聞



 松前町が、町立松前病院を巡って揺れている。地域医療の先進的な取り組みで注目されてきたが、その中心だった院長が今月末で辞職し、他の医師1人も退職を決めた。住民からは、医療体制が維持できるか不安の声が上がっている。最大の原因は、独立行政法人化を求める院長と慎重な町側の溝が埋まらなかったこと。人口減少に直面し厳しい運営を迫られている地方の公営病院改革の難しさが浮かび上がった。【遠藤修平】

 ◇新たなスタイル

 松前病院は1990年11月、道から町に移管された。一般病床が100床で職員約140人。松前、福島両町の地域医療の拠点病院となっており、入院・外来の他、介護施設への訪問診療、夜間救急、休日当番医も担っている。

 2005年に就任した木村真司院長は、医師が少ない地域での新たなスタイルとして、専門科にこだわらずにさまざまな症状の患者を診る「全科診療」制度を導入。医師給与見直しと研修体制の充実▽隣町への無料送迎バス運行▽透析医療の提供――なども手掛けてきた。

 松前病院の取り組みは地域医療を志す医学生や研修医の間で人気が高く、15年は全国から60人を受け入れた。この人材が人手が少ない中での“即戦力”にもなっている。

 ◇戸惑いの声も

 地方交付税の増額もあって09年以降は単年度黒字が続く松前病院だが、施設は築38年と老朽化しており、町人口がこの10年で約2500人減るなど厳しい環境にも直面している。

 木村院長は一層の改革を進めるため、病院の独法化を目指した。「より機動的な経営をするのが目的。薬剤師の給与水準を民間に近づけて人手を確保しやすくし、大型医療機器の導入も可能になる」と説明する。

 ただこの動きに、病院の内外から戸惑いの声が上がった。

 木村院長の提案を受け、町は昨年6月に行政改革室を設置し11月から町議会の調査特別委員会を4回開催。しかし町や議会では慎重な意見が根強く、来年度からの独法化のリミットとされる6月中に結論が出なかった。

 伊藤幸司・町議長は「現状でも必要な措置はできるし、法人化されれば公務員でなくなる職員は強い不安を抱えている。性急な改革は混乱を招くだけ。町の規模に見合った町立病院を目指すべきだ」と強調する。

 ◇医師大幅減に

 石山英雄町長が病院職員の意識調査を実施する意向を示したことが最終的な引き金となり、木村院長は6月7日に辞表を提出。石山町長は慰留したが、今月31日付での退職が決まった。

 常勤医7人のうち、木村院長と他の医師1人も退職することになり、後期研修医1人も9月で病院を離れる。研修医受け入れも停止する方針。新たな医師確保のめどは立っておらず、病院は24時間救急対応や施設訪問などの診療方針の見直しについて8月中に結論を出す。病院関係者は「残る医師の負担が増えれば、さらなる離職を招く」と危機感を募らせる。

 地元住民有志でつくる「地域医療を見守る会」は今月9日、この病院問題でシンポジウムを開催した。250人が出席し、立ち見がでるほど。ぜんそくで通院するという男性(75)は「病院は生活に欠かせない。院長にも残ってもらいたいのだが」とため息をついた。

 病院経営のあり方を巡る考え方の違いから生じた混乱について、地域医療に詳しい城西大の伊関友伸教授(行政学)は「病院の取り組みや黒字化の実績が適正に評価されていない。町や住民は当事者意識を持ち、病院や医師の現状を理解して支えるべきだ」と指摘。見守る会の樋口幸男代表は「医療サービスが低下すれば、高齢者を中心に人口流出が加速するのではないか」と懸念を示した。