(最後の砦 郡馬大病院事故:上)「手術も冒険に近い」 外科学会、指摘する例も/群馬県

2016.07.21

(最後の砦 郡馬大病院事故:上)「手術も冒険に近い」 外科学会、指摘する例も/群馬県
2016.07.14朝日新聞



 思わぬ再会だった――。

 昨年7月、東毛地区の女性は、急を要する長男の肺の治療で訪れた病院で、担当する医師を見てはっとした。

 その医師とは5年ほど前に何度も顔を会わせていた。群馬大学医学部付属病院(前橋市)の消化器外科で、母の肝臓の手術をした40代の外科医だった。

 母は手術を嫌がり、余生を自宅で過ごしたがった。外科医は「良くなるから手術を」と言ったと記憶している。家族は外科医の言うことは信用していた。母を説得して手術を受けさせた。しかし、母は約1カ月後に亡くなった。原因は「呼吸不全」と聞いていた。

 それから約3年半後の2014年11月、群大病院は、この外科医が執刀した肝臓の腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で、患者8人が亡くなっていたと発表した。そこには、母の名前もあった。病院の発表まで、母は天寿を全うしたと思っていた。医療ミスの疑いが浮上し、がくぜんとした――。

 長男の治療について外科医は、すぐに処置に入ると伝えてきた。「任せたくはなかったけど、真っ青な顔をして、苦しそうにしている長男を見たら……」

 女性は何も聞けなかった。「本当は問いただしたかった。群大だから信用していた。(執刀医として)なぜ、母が亡くなってしまったのか説明してほしい」

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 「全てで過失があった」

 群大病院は昨年3月、独自の調査で、腹腔鏡手術8例の調査結果を発表した。手術前の症例検討や、カルテの記載、患者への説明が乏しいことなどを外科医の「過失」の根拠とした。

 外科医は3月末、病院側に「反論」を提出した。外科医はカルテの記載が不十分だったことを認めつつ、「毎週2~3時間程度の時間をかけてカンファレンス(症例検討)をしていた」「(患者への)説明は1時間以上かけて行うよう努めていた」と主張した。

 群大出身で、外科医を知る複数の医師は話す。「外科医だけに責任を押しつけるのは、トカゲのしっぽ切りだ。病院全体に原因があるのではないか」

 病院側は昨年4月、遺族や調査委内部から批判を受け、調査結果から「過失」の文字を削除した。事故原因や問題の背景の再調査を、外部の有識者による新たな委員会にゆだねた。

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 外部有識者の新しい事故調査委は、手術の医学的な調査を日本外科学会に依頼した。外科学会は、問題があったとされる外科医だけでなく、07~14年度の消化器外科全体の手術を調べ、今年3月、調査委に報告書を提出した。

 朝日新聞が入手した外科学会の報告書によると、手術の詳細を調査した死亡例50例のうち、4例は手術の選択に「問題あり」とされ、20例でも「手術が性急」などと判断された。なかには「手術も冒険に近い」「手術自体の意図が不明」と判断された例があり、37例では、死亡後の検討会を開いた記録を確認できなかった。

 死亡事例の報告もなおざりだった。病院では10年10月から手術後24時間以内に起きた予期せぬ死亡事例の報告などを医師らに求めていたが、報告があったのは7例のみ。報告書は「机上で作られた安全体制の機能と実践が、現場では不十分であった」と指摘した。

 田村遵一(じゅんいち)病院長は「病院の指揮命令系統がきちんと働いていなかった」と管理体制の不備を認めた上で、消化器外科について「同床異夢だった」と打ち明ける。

 群大病院の消化器外科内に併存した第1外科と第2外科。それぞれが閉ざされた世界で、協力せずに独自の指導や治療を行っていた。

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 群大病院で手術関連死が相次いだ問題は、地域医療の頂点に立ち、多くの患者が「最後の砦(とりで)」と頼ってきた大学病院の信頼を失墜させた。群大の新たな事故調査委は7月中に最終報告書をまとめる方針だ。問題の背景や改革の行方、今後の課題を考えた。(この連載は、三浦淳、上田雅文、仲田一平が担当します)

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 最後の砦(とりで)


 ■群馬大病院における手術関連死問題の経過

 2014年 6月 腹腔鏡(ふくくうきょう)手術後の死亡例が複数あることを病院側が把握し、院内の予備調査を始める。7月に、院内事故調査委員会を設置

  14年11月 10~14年に肝臓がんなどの腹腔鏡手術を受けた患者8人が亡くなっていたことを病院が発表

  14年12月 肝臓の開腹手術でも10人が亡くなっていたことが判明

  15年 1月 厚生労働省が立ち入り検査

  15年 3月 腹腔鏡手術の死亡事例8件を「過失」とする院内事故調の報告書を発表

  15年 6月 群馬大病院の「特定機能病院」の承認が取り消される

  15年 8月 外部の有識者だけでつくる新たな医療事故調査委員会が初会合

  16年 6月 遺族が遺族会を結成

  16年 7月 新たな事故調査委が最終報告書を発表する予定