介護療養病床:廃止、在宅へ転換狙う 医療ニーズ対応、鍵

2016.06.20

介護療養病床:廃止、在宅へ転換狙う 医療ニーズ対応、鍵
2016.06.19 毎日新聞



 医療の必要性が低いのに長期入院している人を減らすのを目的に、介護保険が適用される慢性期の患者向けの「介護療養病床」が、2017年度末で廃止される。廃止後の転換先として厚生労働省が提案しているのが、「住まい」の機能を重視した2種類の新たな施設。来年の通常国会に必要な法改正案を提出する方針だが、現場では患者の医療ニーズに応えられるか懸念の声もある。【有田浩子、細川貴代】

 「元気そうね」。東京都八王子市内に住む大里快子(よしこ)さん(73)が、市内の「永生病院」を訪ねると、なじみの看護師や介護士らが次々と近寄ってくる。大里さんは永生病院の一般病床と医療療養病床に入院し、昨年10月に退院。今は2カ月おきに1週間、介護療養病床の個室を使ったショートステイを利用している。

 3年前、自宅で突然倒れた。大動脈解離と脳梗塞(こうそく)。一命はとりとめたが気管切開し人工呼吸器を付け、鼻から胃までチューブを入れて栄養を取らねばならなくなった。市内の別の急性期病院で3カ月過ごした後に永生病院に移った。

 退院は、気管切開の処置が終わり「医療依存度が低くなった」との判断によるが、要介護度は5。左半身にまひが残り、胃ろうもある。自宅では夫(82)が全般的な介助を担い、限度額まで使った介護サービスのほか、病院の法人が運営する訪問診療や訪問看護も受けている。介護療養病床のショートステイ利用は、夫の介護負担を減らすのに役立つ。

 だが、全国の介護療養病床(14年度末で6万3000床)は、来年度末までに廃止される。長期入院を減らし社会保障費の削減につなげるのを狙って06年に決まった方針で、一度先送りされたものの、法律で決まった期限が迫りつつある。

 利用者はどこへ行けばいいのか。国が期待するのが、介護施設を含めた在宅への移行だ。厚労省は昨年3月にまとめた「地域医療構想策定ガイドライン」で、25年までに慢性期病床に入院する医療必要度の低い患者の7割が自宅や特別養護老人ホームなどに移ると見込んでいる。一方、国が実施した特養、老人保健施設、療養病床の利用者の医療ニーズ実態調査では、自宅などへ移行できるのは3~4割程度とされ、大きな差がある。

 永生病院の場合、介護療養病床の入院患者の要介護度は平均4・3。医療療養病床の患者と比べれば医療への依存度は低いが、中心静脈栄養など医療と切り離せない人もおり、食事、排せつなど日常生活にはさまざまな困難を伴う。自宅に戻れるかどうかは、家族や地域の医療・介護体制に左右され、在宅復帰に力を入れる同病院でも大里さんのようなケースはまれだ。

 同病院の運営法人の安藤高朗理事長は「7割を在宅にというのは難しく、3~4割が実感に近い」と話す。在宅移行が4割にとどまる場合、25年の慢性期病床は今よりむしろ増やさなければならない計算になる。

 ◇新施設「住まい」を重視 厚労省検討、医師常駐型と訪問型

 自宅や既存の介護施設に移れない療養病床入院患者らの受け皿として、厚労省は病院とは違う新しいタイプの施設を考えている。今月1日から、社会保障審議会に特別部会を設置し、新施設の位置付けや面積、人員配置などの基準の検討を始めた。

 厚労省が提示しているのは、(1)医師が常駐して必要な治療ができる「医療内包型」施設(2)居住スペースに医療機関が併設され、外から医療が提供される「医療外付け型」施設。いずれも「住まい」の機能を強化し、終末期の緩和医療やみとりにも対応した「ついのすみか」をイメージしている。

 「医療内包型」は、医療の必要性が比較的高い人が利用対象で、医師が同じ建物内に24時間常駐して、たん吸引など日常的な管理に対応する。医療を強化した特別養護老人ホームと考えると分かりやすい。「医療外付け型」は、施設に診療所が併設され、医師が訪問診療する形態。病院だった建物を階などで居住スペースと診療所に区切ってもいい。健康状態が比較的安定した人を想定し、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」に近い施設と言える。

 こうした受け皿作りについて、村上正泰・山形大教授(医療政策学)は「医療依存度が高くても在宅で暮らしているケースもあり、慢性期の入院患者と在宅患者の境界線は引きにくい。多様なニーズに対応できるよう、幅を持って考える必要がある」と指摘。外付け型では入院に比べてサービスの自己負担が増える可能性があるとして、低所得者への対策を求める。

 一方、特別部会委員で、高齢者の身体拘束廃止に長年取り組んできた吉岡充・上川病院理事長は、施設の転換に伴って人員が縮小されることを懸念し「同じ状態の患者を少ない職員でみることになれば、身体拘束や虐待が増え、現場が荒廃・疲弊する」と訴えている。

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 ■ことば

 ◇療養病床

 長期にわたる療養を必要とする患者のための病床。2000年の介護保険制度導入時に「医療療養病床(医療型)」と「介護療養病床(介護型)」に分けられた。06年の医療制度改革で11年度末での介護型全廃と医療型の4割削減が決まったが、民主党政権が方針転換し、廃止期限が17年度末に延期された。15年3月時点の病床数は医療型が27万7000床、介護型が6万3000床で、医療型は06年当時より増えている。