〔医療に強い介護施設〕/1 関東編 木谷百里

2016.06.01

〔医療に強い介護施設〕/1 関東編 木谷百里
2016.06.12 サンデー毎日 


 ◇胃ろうでも経管栄養でも住み続けられる 24時間看護OK 看取りも行う施設


 急性期病院における在院日数の短縮、公費を圧迫する社会的入院…。介護の背景にある医療現場の現実は、いっそう厳しくなっている。一方、思わぬ急病に家族が入院施設を探さざるを得なかったり、あるいは高額な入居金を支払った後、退去せざるを得ない状況になることも。そんな中、医療に強い施設というのはどんな環境で、どんなサービスを行っているのか。本特集において、ひもといてみたい。


 ◇居室にいながら、透析が可能! 代表のネットワークから、全9科目の医師が訪問 アグリケアガーデン(茨城県・つくばみらい市)


 ◆隣接するクリニックに19床の入院施設


 施設に入ると、杉の木の香りが漂う。内装は、木材を縦に並べて組んだ〈縦ログ工法〉。独特な意匠をもつのが、昨年9月にできたばかりの住宅型老人ホーム「アグリケアガーデン」(茨城県・つくばみらい市)だ。

 施設はログハウスのため、断熱材を一切使っていないのだという。木の温(ぬく)もりだけで、冬はじゅうぶん暖かいのだそうだ。

「21世紀の省エネ基準に合致したつくりになっています。国産の林業は斜陽にあり、それを何とかしたいという考えもありました。それで今回、林野庁から補助金をいただき、つくらせていただいたのです」と語るのは、メドアグリケアグループ代表の伊藤俊一郎氏だ。

 病院から施設へ。ともすると、建物から建物へ移動するだけの日々を送っている高齢者の方も多い。しかし伊藤氏は、

「入居する方々には、別荘にいるようなイメージで、最後の時間を過ごしてほしいという思いもある」とログハウスへの思いも語ってくれた。

「当施設は〈アグリ(農業)〉と銘打っていることもあり、食材はできるだけ、茨城県産の野菜と畜産物を使っています。ブランド豚肉やブランド鴨肉も近隣の、私たちの理念に賛同してくれる生産者から仕入れ、提供しているのです。地のものを摂(と)るというのは、特に地元の高齢者には意義のあることなのではないでしょうか」

 栄養管理が行き届いていると、褥瘡(じよくそう)になることも少ない。地産地消で、新鮮な食材をいただくことは、よりよい介護を行う上で、欠かせないことだ。

 ところで本題の医療については、どんな強みがあるのだろうか。

「まずは居室で、テレビを見ながら透析ができます。透析を行うために、入居者が病院へ通う必要がありません。もちろん家族も職員も、病院へ送迎する必要がなくなります。また当施設では、在宅酸素療法も可能です。何かあれば患者さんの居室で酸素も吸入できます」

 看護師は24時間対応可能。夜勤は看護師1人、昼間は看護師5人を配置。代表の伊藤氏が医師ということもあり、気管切開や人工呼吸器装着などの重篤な入居者も多い。オープンして約8カ月だが、現在まで7人を看取(みと)ったのだという。

 また向かいの棟には、「メドアグリクリニック」という診療所があり、入院施設も用意してある。入居者に医療が必要であれば、訪問診療という形で受診可能。これだけの環境で、敷金15万円、月額利用料19・8万円は、格安だ。

「坪5万円程度で、非常に安い土地です。しかし近隣の有料老人ホームに比べると、やや高め。ただ都内や千葉県、埼玉県に比べると、安いのではないでしょうか」

 近隣の施設に比べ、若干高い理由は、医師や看護師などの人員が手厚いからなのだという。

「つくばみらい市の人口は約5万人。市内には有床の病院が1軒もなく、建設される予定もなかったのです。国が病床を減らしていこうという方針であること。また、近隣のつくば市や守谷市に入院施設があるから、必要がないという判断だったようです。在宅医療を行う診療所には、入院施設を許可するという特例があります。それで今回、市内にはじめて、19床の入院施設ができたのです」

 こうした地域の厳しい医療環境の中、伊藤氏は一念発起し、メドアグリケアグループを開設。しかし医療的な魅力は、これだけにとどまってはいない。

「私は1年半ほど前まで、筑波大附属病院の心臓血管外科グループの一員として働いていました。実は私以外にも、約15人のアルバイトの医師がいます。たとえば消化器外科、皮膚科、精神科、泌尿器科、婦人科など全9科目。これが実現できるのも、筑波大附属病院の先輩や同級生、後輩が力を貸してくれるからです」

 伊藤氏のネットワークが功を奏し、医療的な体制は盤石のようだ。今のところ入居を断った患者さんはいないのだとか。また近隣の施設で医療的な援助が必要であれば、そこへもメドアグリケアグループのスタッフが訪問診療・訪問看護、あるいは入院という形で、受け入れることもある。

 患者をできるだけ早く自宅に帰すためには、地域医療の充実が必要不可欠。その一方で、地域医療に貢献したいという医師も、最近は多い。こうした医師の気持ちもくみながら、「アグリケアガーデン」は成り立っているようだ。


 ◇“病院の上に住もう” MRIやCT、内視鏡が揃った施設 シルバーヒルズ八王子(東京都・八王子市)


 ◆最新医療機器で、一命を取り留めたケースも


 1階は病院。検査から診断、診察までを行う。2階は、ナースステーション。そして居室は3~6階の4フロア。病院と施設が一つの建物にある。それが、株式会社斗南堂運営のサービス付き高齢者向け住宅の「シルバーヒルズ八王子」(東京都・八王子市)だ。

 こちらの施設が何といっても魅力的なのは、1階の八王子クリニック新町にMRI、CT、内視鏡、超音波検査などの先進医療機器を完備してある点だろう。

「居室で転倒し、頭を打たれた入居者がいらっしゃいました。すぐに1階でCTの検査を行い、外傷性のくも膜下出血という診断がくだったのです。それで救急車ですぐに、最寄りの大学病院へ行きました。おかげで、搬送で一命を取り留めたこともあります」と語るのは、社長秘書の中本達哉さん。

 こうした話は枚挙にいとまがないようで、入居の際に疾患が見つかり、家族としては遠距離介護にならず、助かったという事例もある。

 検査については、すぐ予約が可能。場合によっては、予約なしで受けられることも。これは本人にも家族にも、非常に負担が少ない。

 しかしなぜ、これだけ充実した施設をつくろうと思ったのだろうか。

「現在の高齢化社会の中で、〈終(つい)の住(す)み処(か)〉は重要な問題です。核家族化や少子化、女性の社会進出は家族力を低下させ、高齢者の自宅での介護や看取りを難しいものにしています。市場調査では、高齢者が〈終の住み処〉に求めるものは

 1医療が身近にあること

 2行き届いた介護が受けられること

 3家族や友人がたずねてきてくれること

 4経済的な負担が少ないこと

 の四つを挙げています。2000年4月に介護保険制度が作られ、医療と介護は分けられました。しかし医療と介護を一つのものに戻すことから発想し、先の四つの要望を満たすように、当施設をつくったのです」

 これも「シルバーヒルズ八王子」を運営する、斗南堂グループ代表の井藤尚文氏が、現在の医療・介護の姿を読んでいたからだという。

 もちろん看護師が24時間常駐。胃ろうやIVH、人工呼吸器や末期がん、気管切開などの医療依存度の高い人、介護度は要介護5の人まで入居が可能。医療度・介護度が上がっても、住み続けることができる。しかも価格が敷金30万円、月額利用料が17・2万~23・7万円と格安だ。別途医療費や介護費用がかかったとしても、高額な人でプラス5万円くらいだろうか。

「経済的な負担が少ないということ。これが当社では、非常に重要であると考えました。月額利用料につきましては、設備維持管理・人員などを含めても、決して運営は楽なものではありません。ただ入居者、ご家族の経済的負担を考慮し、当施設ではこの費用で行っております」

 ほかにも居室に、IHや備え付けの家具、テレビ、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、乾燥機付き洗濯機などが全て揃(そろ)っている。衣類を持参すれば、すぐに生活をはじめることができるとのこと。「シルバーヒルズ八王子」はサービス付き高齢者住宅なので、3階にある居宅介護支援事業所に頼めば、掃除や洗濯も行ってくれる。

「経済的に苦しい高齢者や、ご家族も多いのが現状です。たとえば大部屋で、低価格。広さは規定にとらわれず空間をしきり、プライバシーに配慮した施設を、今後は運営できればと考えています」


 ◇入居者の可能性を開く介護を。 要介護4と5が7割を占める施設ならではの工夫 ハートフル稲毛(千葉県・千葉市)


 ◆1.6対1の手厚い介護、10年以上のスタッフ


 2003年のオープン当時から、24時間看護を行っている介護付き有料老人ホーム「ハートフル稲毛」。

 こちらの最大の特長は、要介護者と職員の比率が1.6‥1の手厚い介護である。看護職員は、現在10人。日勤は2人態勢で、夜勤は1人。これも医療依存度の高い入居者が中心となっているからだ。4月5日現在では、入居者の7割が要介護4と5で占められている。中でも経管栄養の人は、9人入居。最高11人まで入居していたのだという。人員態勢の比率が3:1の施設が平均的な中、どのような経営でこれを実現させているのだろうか。

「当施設単独での収支が合うような運営をしていますが、法人全体のスケールで考えてもいます。その中で、ここは開設当時からの役割を重視。夜間看護を行っている施設は、2:1を基準としつつ、若干人員の余力をもたせています。ただ介護報酬は下がっていますし、採用コスト等はなんとか抑えたい部分です」と語る、施設運営課長の丹野敏氏。

 この態勢が組めるのも、「ハートフル稲毛」のスタッフの勤続年数が長いことが裏付けとしてある。介護労働者の平均勤続年数は3~4年といわれる中、「ハートフル稲毛」は10年以上のスタッフが並んでいる。施設長の横内玲子氏、看護主任の後藤恵子氏、入居相談室主任の福田博子氏。みな入社10~15年だという。経験豊富で、入居者の人柄や好みを熟知している。つきあいも長い。だからこそ、実現できることも多いのではないか。

 また「ハートフル稲毛」は、どこの病院や施設でも受け入れてもらえない患者や被介護者、あるいは主治医に見放された入居希望者に対して、横内玲子施設長が、自ら医師を探してきた背景もある。

「訪問診療医を探す中、クリニックと有床医療機関をもっている医師に出会えたのです。それで、緊急時の入居者の受け入れ先が決まりました。たとえば脳神経外科の診療が必要な場合、三次救急ということで、その医師が病院を紹介してくれるようになったのです。こうしたことから、医療のネットワークが広がりはじめました」(横内氏)

 横内氏の行動は、それだけにとどまらない。周辺医療機関の人たちと強固な関係を構築するために、看護主任の後藤恵子氏を積極的に紹介。協力医療機関以外の医師の方々にも、「ハートフル稲毛の後藤」というと顔が浮かぶよう努めている。

 また医療依存度の高い入居者は、ともすると寝かせっきりという施設も少なくない。人員も足りないからだ。ところが「ハートフル稲毛」は、できるだけ離床の時間をつくるようにしている。

「人間の機能が最後まで残るのは、耳だと聞いたことがあります。耳からの情報は脳に伝えやすく、刺激を受けやすいと思うのです。短時間でも食堂に行き、他の入居者の喜怒哀楽に触れる。こうした刺激から、何か奇跡が起こるんじゃないでしょうか」(同)

 離床がないと、どうしても筋力が衰えてしまいがちだ。特に若年層で介護状態になった人の家族は、回復を信じてやまないに違いない。この可能性を無駄にしたくないという。

 さらに排尿・排便についてもできるだけトイレに連れて行こうとするのも、「ハートフル稲毛」の介護の特長だ。

「これも入居者の可能性を広げるためです。トイレに座ると、特に尿意や便意がなくても、排尿・排便をしたくなることがありませんか? トイレに付き添うだけでも、尿意を感じることがあるはずです。もちろん入居者全員が便器に座れるわけではありません。“座ることができそう”と看護師が判断した時は、挑戦してみましょうと思うんです」(同)

 入居者の自立支援のために。医療だけでなく、暮らしの中の些細(ささい)な刺激から。入居者の可能性を常に模索する施設だ。