労省、通院困難な高齢者増に対応 診療所、訪問専門もOKに 厳しい開設条件が課題

2016.05.20

労省、通院困難な高齢者増に対応 診療所、訪問専門もOKに 厳しい開設条件が課題

2016.05.19 朝刊 

   医師が患者の自宅や介護施設などを訪ねて診察する訪問診療だけを専門に行う診療所の開設を、厚生労働省が4月から認めた。急速に進む社会の高齢化に伴い、在宅での医療を望む人が増えることを見込んだ対応だ。こうした診療形態は今後地域に増えていくのか、注目される。

  「腰の痛みはどうですか」「まあまあですね」。今年3月、川崎市にある有料老人ホーム。西山葉子医師が、高血圧など複数の持病がある女性(99)の居室を訪れた。定期検査の数値をチェックしながら女性を診察し、薬の種類を体への負担が少ないものに変更した。

 

 この日ホームで20人弱を診察した西山医師は「要介護で通院が難しい高齢患者への訪問診療は、持病の悪化や体調の急変を予防する意味もあります」と話す。

 

 西山医師が所属する横浜市の「青葉アーバンクリニック」は昨年の開設以来、月平均約330人の在宅患者を医師7~8人で診る。外来患者は月に数人と少なく、その分、訪問診療に集中し、在宅で最期を迎えるみとりまで対応する。

 

 厚労省はこれまで、訪問専門の診療所を公式には認めてこなかった。「公的医療保険制度の中で診療する医療機関は外来患者に対応するのが基本」との考え方からだ。ただ実際には、ごく短い時間でも外来に対応していれば、開設を容認する例もあった。

 

 背景にあるのは、通院が困難な高齢者の急増だ。厚労省の推計によると、2014年に急病時の往診を含む訪問診療を受けた患者は1日当たり15万6400人。1996年の7万2300人から倍増した。

 

 厚労省は在宅での医療を充実させるため、外来に加え訪問診療も担う「在宅療養支援診療所」の普及に力を入れてきた。だが、日中に外来患者を診た診療所の医師が、深夜や早朝にもニーズがある訪問診療もこなすのは負担が重く、訪問専門の解禁を求める声もあった。

 

 こうした中、政府の規制改革会議が2014年、厚労省に規制緩和を要請。同省は解禁へとかじを切った。

 

 日本医師会は解禁に原則反対の立場だったが、都市部で在宅医療に取り組む医師が不足している現状があることから、国の方針転換を消極的ながらも受け入れた。

 

 しかし、訪問専門の診療所には「同じ施設を巡回するだけで、効率よく軽症者ばかりを診察して荒稼ぎするのでは」と、医療の質低下を懸念する声も根強い。このため厚労省は「地域医療に貢献してほしい」と、開設に厳しい条件を付けた。

 

 具体的には(1)緊急時にいつでも連絡できる態勢づくり(2)患者の半数以上は重症者(3)みとりは年20人以上(4)施設入居の患者は全体の7割以下-など。これらを満たさなければ診療所が受け取る報酬は2割減となる。

 

 青葉アーバンクリニックは条件をほぼ満たすが、施設患者の割合が高いため、訪問診療専門でやろうとすれば報酬が減るという。長瀬健彦院長は「規制強化と言えるほど厳しい条件。クリアできる所は少ないのではないか」と話す。

 

 「本来は、患者の状態に合わせて外来から在宅医療まで手掛ける診療所が理想」と話すのは、全国在宅療養支援診療所連絡会の新田国夫会長。だが、患者に身近なかかりつけの診療所であっても、スタッフが手薄でケアに手が回らないこともある。補完する形で24時間態勢の訪問専門診療所が連携すれば、患者のメリットになり得ると指摘する。【共同通信 秋田魁新報】

 

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