(列島をあるく)移り住む 生涯活躍のまち、実現へ 地方創生

2016.04.18

(列島をあるく)移り住む 生涯活躍のまち、実現へ 地方創生「日本版CCRC」/東京・共通
2016.04.12 朝日新聞



 高齢者が元気なうちに地方に移住して活動的に暮らし、介護や医療が必要になってもそのままケアを受けられる。そんな共同体作りに取り組む自治体が増えている。国が進める地方創生策の一環で、米国発祥の仕組みにちなんで「日本版CCRC=キーワード」と呼ばれる。「生涯活躍のまち」は実現するか。


 2月初旬。岩手県雫石町で移住体験・交流ツアーが開かれた。参加者は首都圏などに住む30代から70代の9人。先輩移住者との交流会では、仕事や医療福祉、人付き合いなど暮らしに関わる意見交換があった。

 東京都練馬区から参加した宮田初代さん(67)は息子が結婚したあと、元気なうちに1人で移住する先を探している。「先々介護が必要になっても1人で暮らしていけるのかしら」

 町職員が雫石で計画している「日本版CCRC」構想の説明を始めた。

 小岩井農場に隣接している14ヘクタールの町有地。ここに、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のほか、障害者の多機能事業所、移住希望の子育て世帯向けの住宅などを順次建設する。2020年度までに温浴施設、図書館なども作り、町民と移住者が多世代にわたり交流できる街を目指す。ただ、サ高住ができるのは約3年後。「ゆっくり考えてみます」と宮田さん。選択肢の一つになったようだ。

 雫石町がこうした体験ツアーを実施するのは今回が初めて。「盛岡まで車で30分、新幹線も止まる地の利のよさも魅力では」と深谷政光町長は胸を張る。

 昨年10月、東京都中央区に開設した「生涯活躍のまち移住促進センター」には、雫石町のほか、北海道厚沢部(あっさぶ)町など自治体7カ所が出展し、事業計画を紹介している。「移住した高齢者が必要な支援を受けつつ、地域の特徴を生かして住民とコミュニティー作りを進めていくのが日本版CCRCの基本です」とセンターの川崎浩子さんは語る。

 昨年11月、政府が自治体に行った調査で、日本版CCRCに関連する取り組みを「推進したい」とした自治体は263で全体の14・7%。昨年3月の202(11・3%)より増えた。国の財政的な支援を受け、取り組みに積極的な自治体は増えている。


 ■近隣住民との共生

 先進モデルの一つで、自治体の見学が相次いでいるのが「ゆいま~る那須」(栃木県那須町)。中庭を囲むように建つ1~2階建ての5棟70戸に、60~90代の77人が暮らす。

 07年に構想が立ち上がり、10年に開設するまで、入居予定者が設計段階から参加。管理費や食事代などは要望を入れて決めた。入居者は施設運営にも関わり「図書」「花と緑」などの部会に分かれて活動する。食堂は近隣住民にも開放、近くの牧場で牛の世話を手伝う入居者もいる。

 そば打ちや美容師など、かつての職業を生かす人も多い。東京都世田谷区で婦人服店を経営していた丸田輝子さん(73)は昨年に移住。「元気なうちは仕事ができて、介護支援もしてくれるところ」という希望に合っていた。今は、衣料や入居者の手作り品の店を担当。利用者のニーズを聞いて、洋服や雑貨などを仕入れる。以前の仕入れ先とパイプがあるのも強みだ。「会話も楽しめるし、働けるのがうれしい」と笑う。

 もう一つ、見学者が絶えないのが14年に開設した金沢市郊外の「シェア金沢」だ。「多世代ごちゃまぜ」をコンセプトにしたこの街には、高齢者31世帯39人のほか、障害者、学生が共存。大学生はボランティア活動の担い手となる。敷地内には誰でも利用できる天然温泉や本格的なレストランなどもあり、近隣住民の出入りも頻繁だ。

 運営する社会福祉法人「佛子園」の雄谷良成(おおやりょうせい)理事長は言う。「CCRCなどの共同体が成功するためのカギは、近隣にいかに溶け込み、同化や融合をしていけるかということだ」

 (斎藤博美)