(私の視点)医師不足対策 学部新設より偏在解消を 

2016.03.29

(私の視点)医師不足対策 学部新設より偏在解消を 森山寛
2016.03.26 朝日新聞


 長く凍結されてきた医学部の新設が昨年、医師不足解消のためとして決まった。東北地方では震災からの復興を旗印に、被災自治体などの要望に呼応する形で東北薬科大学での新設が37年ぶりに認可された。一方、千葉県成田市では国家戦略特区での特例措置により、「国際的な医療人の育成」をめざすとして国際医療福祉大学に認められた。

 ともに政治色の強い決定で、とくに後者は、アベノミクスの目玉の一つとして「岩盤規制に穴をあけた」規制改革の象徴とされているようだ。推進側の自治体、事業主、内閣府の3者を中心とする成田市分科会の5回、4時間程度の非公開の審議で決まった。医学部の内容についても東北のような構想審査会は開かれず、異例の経過だった。

 日本の医学・医療界を代表する全国医学部長病院長会議、日本医師会、日本医学会は再三、医学部新設に反対の声明を出してきた。医師不足の解決にはつながらないからだ。

 地域での医師不足が社会問題化したのは、2004年の新臨床研修制度を機に、研修医の大学離れが加速し、大学病院の地域への医師派遣が困難となったためだ。このため08年から既存の80医学部・医科大学の入学定員を地域枠を中心に全国で1500人以上増やし、今では9200人を超えるまでになっている。

 地域枠の学生はこれから卒業し、地域医療への貢献が期待される。しかし、18歳人口が減少する中での急激な定員増加で、1、2年生の留年数が約1・6倍、休学者が約1・4倍となるなど学力低下もいわれる。

 入学定員がこのままだと、25年には医師数は現在の1・3倍以上となり、以後増加し続ける。少子化と団塊世代の高齢化などにより医療ニーズのピークは30年前後とされ、その後は明らかに医師過剰となる。

 医学教育は2年間の臨床研修を加えると最短でも8年、専門医取得にはさらに3、4年を要し、今医学部を新設しても、実際に働けるのは10年以上先だ。医師の養成数は時間軸を考えて調整すべきであり、医師の質の確保のためにも入学定員をむしろ削減する時期に来ている。

 現在いわれる医師不足の主因は、地域や診療科、あるいは勤務医と開業医の割合などの偏在にある。偏在の解消と、卒業生の3分の1を占める女性医師の力を生かす方策こそが真の解決策となる。

 また、医師の事務負担を軽減して本来業務に専念できる体制作りもきわめて重要だ。

 限りある財源の中、医療機関の機能分化や医療と介護のすみわけなど、少子・高齢社会の現実を踏まえた議論こそが必要なときだ。

 (もりやまひろし 東京慈恵会医科大学名誉教授)