特報インサイドみやざき/宮大麻酔科医が不足/手術数伸び負担増す

2016.02.23

特報インサイドみやざき/宮大麻酔科医が不足/手術数伸び負担増す/宮大の麻酔科医不足/派遣体制 維持危うく/人員確保へ県事業期待
2016.02.22 宮崎日日新聞 


 県立3病院など県内11カ所の病院に対し、麻酔科医33人を常勤医として派遣している宮崎大医学部麻酔科が医師不足にあえいでいる。人員の確保が進まない中、麻酔科が管理する全身麻酔などの手術数が年々増えているのが原因。現場の多忙化や手術数の制限など影響が広がっている。

 県によると、県内全ての麻酔科医は2010年81人、12年78人、14年81人と近年ほぼ横ばいで推移。同麻酔科の医局員数も10年度以降は目立った増減がなく、派遣医師と、付属病院に勤務している27人合わせて現在60人いる。

 一方、同麻酔科が担当した麻酔件数は00年度が2595件だったのに対し、10年度は4120件と10年間で約1500件増加。医師数の変動が少ない10年度以降も増え続け、13年度は4711件に達した。14年度は患者の安全を担保するため手術数を「約4500件まで」に制限し、4511件だった。

 日本麻酔科学会(神戸市)によると、手術数の増加は全国的な傾向だ。高齢化が進んでいるのに加え、医療技術や麻酔技術の進歩によりリスクが高い高齢患者の手術も受け入れるようになったことが背景にある。「麻酔科医の役割が市民のみならず研修医にも知られていないのが現状。手術数の伸びに医師確保が追い付いていない」。同学会は指摘する。

 同大医学部麻酔生体管理学の恒吉勇男教授は「絶対数が足りていない。医師を派遣している病院も含め、人員不足による厳しい環境下で踏ん張っているが、この状態が続けば市民のニーズに応え切れなくなる」と危機感を募らせる。



 「全診療科の手術を担う麻酔科医の不足は大きな課題」。延岡市の県立延岡病院の柳辺安秀院長は力を込める。

 同病院は2002年12月、麻酔科医5人全員が辞職したものの、03年度は3人を確保、09年度から5人に増やした。しかし10~12年度は4人、13年度以降は3人と近年は減少傾向だ。これに対し、07年度以降の全手術数は年間2800~2900件。その大半に麻酔科医が携わり、「5人体制の頃と手術数は変わらず、3人での対応はぎりぎりの状態」(柳辺院長)。

 現在の麻酔科医3人は、7時間以上かかる手術を含む全身麻酔を担当したり、局所麻酔といった30分ほどで終わる手術に一日3、4件携わったりする。2、3日に1回は夜間の緊急手術など時間外勤務となり、多忙を極める。

 柳辺院長は「人員不足で忙しさが増し、医師が集まりにくい悪循環に陥っている。手術を減らすわけにもいかず、負担は大きいが3人に続けてもらうしかない」と悩む。

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 2月中旬の午後7時半すぎ。宮崎市の宮崎大医学部付属病院で麻酔科が管理する4件の手術が行われていた。各手術室に麻酔科医が入り、患者の呼吸や脈拍などに異常がないか確認。午前中に始まった手術もあり、12時間近くほぼ付ききりだ。「人員が足りず、途中で交代もできない」。同大学医学部麻酔生体管理学の恒吉勇男教授は語る。

 麻酔科医の供給元となる同大学医学部麻酔科の医師不足は、各病院への医師派遣の存続に関わる問題だ。県立延岡病院など常勤医の増員を望んでいる病院や、派遣要請に応えられていない病院が10カ所以上ある。

 恒吉教授は「複数の病院に常勤ではなく非常勤医の派遣に切り替えると打診した。地域医療が崩壊しないよう常勤医の派遣を続けているが、このままでは維持できなくなる」と危ぶむ。

 同大学付属病院の初期臨床研修の修了者のうち同大学医学部麻酔科に入局したのは13年度1人、14年度0人、15年度2人。「内科や外科に比べてマイナー。希望者は少ない」と恒吉教授。研修で麻酔科が必修以外の自由選択となっているのも要因の一つという。

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 県も麻酔科医不足を深刻に受け止める。対策として期待されるのが06年度に始めた県医師修学資金貸与事業。へき地の病院などで働く意思のある医学生に、新入時に入学金相当の28万2千円を、その後は毎月10万円を最大6年間貸し付ける。初期臨床研修後、県内の指定された病院や医師不足の麻酔科など特定の診療科で貸与期間と同じ分だけ働けば、返還が免除される。

 県医療薬務課によると、同事業の利用者は現在131人で、2人が麻酔科医として県内に勤務。利用者のうち貸与中の学生は87人、初期臨床研修中の研修医は18人いるためさらなる増加が見込める。

 日本麻酔科学会(神戸市)は「麻酔科医の重要性を研修医に広め、絶対数を増やすことも大切。高度技術を身に付けるトレーニングシステムの構築や優秀な指導者の輩出など行政や大学、病院の地道な対策が求められる」とする。

 「患者を治すのは外科医。安全に手術が終わるよう患者を守るのが麻酔科医」。県立宮崎病院(宮崎市)麻酔科の長嶺佳弘副医長(31)は言う。もともとは内科志望で、麻酔科の研修を受けて重要な役割に気付かされた。手術に臨む患者の決心や不安は大きく、その命を預かる麻酔科医の責任は重い。現場の忙しさは年々増すが、「この道を選んで良かった」。目が覚めた患者の安心した表情を見るたびに、やりがいを感じている。     



メモ

 宮崎大医学部付属病院の初期臨床研修 期間は2年間。必修は国が定める内科、救急、地域医療と、独自の外科、精神科、小児科、産婦人科。麻酔科など必修以外の科は自由選択で、2年目の9カ月間で回る。研修を修了したのは2012年度が22人、13年度が42人、14年度が33人。このうち12人、29人、24人が付属病院に入局している。