集落医療支える助け合い 「準無医地区」旧佐久間町・吉沢地区/静岡県

2016.02.08

(Shizuokaリポート35)集落医療支える助け合い 「準無医地区」旧佐久間町・吉沢地区/静岡県
2016.02.07 朝日新聞



 旧佐久間町(浜松市天竜区)の山あいにある小さな集落、吉沢地区。過疎と高齢化がかなり進み、医師が近くにいない「準無医地区」=キーワード=だ。住民は互いに助け合い、約20キロ離れている浜松市国民健康保険佐久間病院も巡回診療で健康を支える。顔と顔が見える関係が力になっている。


 ■高齢者、月2回顔合わせ 「しゃくなげ会」自ら急患搬送も

 1月下旬、廃校となった吉沢小学校の旧職員室。高齢者約10人がこたつに入り込んでお弁当を食べ、笑い声を響かせていた。月2回の「吉沢しゃくなげ会」の集まりだ。

 吉沢地区には13戸が点在し、25人が暮らす。ほとんど高齢者で「ここでは60歳なら若い」と、しゃくなげ会会長の田高良治さん(84)は言う。田高さんによると半世紀ほど前には林業が盛んで約60戸、約400人が暮らしていたという。

 しゃくなげ会は約20年前、地区の過疎が進み、一人暮らしの高齢者が増える中で作られた。「気兼ねなく助けを頼みたい」「年老いてから、子どもらが住む慣れない都会で暮らしたくない」。そんな思いで定期的に顔を合わせている。難しい活動はない。一緒にお昼を食べて世間話を楽しんでいる。

 「体のどこが悪いのか、どんな家族と住んでいるかなど、互いに分かっているよ」。田高さんが言うと、みんながうなずいた。

 吉沢地区では救急車を呼んでも来るまでに30~40分かかる。車を運転できない住民も多い。そのため急患が出たら病院と相談の上、仲間内で連絡を取り合い、誰かが運転して佐久間病院まで送る態勢も整えている。「お礼なし、事故でも責任を問わない」が約束事だ。

 田高さんは5年ほど前、一人暮らしの森山睦子さん(85)を佐久間病院まで送ったことがある。

 田高さんの妻の節子さん(79)が森山さんに電話した際に、いつもと違う話しぶりに気づいたからだ。診察の結果は軽い脳梗塞(こうそく)。森山さんはすぐ入院した。

 「自分自身では気づかなかった。命の恩人です」と森山さん。今では元気に集まりに顔を出している。

 住民の年齢はさらに上がり、車を運転できる人は減った。若者の定住も期待できない。不安はあるが、田高さんらは、こう話す。

 「自分たちの生まれ育った吉沢の地でできるだけ長く、できれば死ぬまで人間らしく暮らせるように知恵と力を出し合いたい」


 ■巡回診療、人を診る魅力 佐久間病院、看護師確保にも努力

 佐久間病院の巡回診療は月1回、しゃくなげ会の集まりにあわせて、旧吉沢小学校へ来る。1月下旬、寺田修三医師(32)が現れると、住民から一斉に明るい声があがった。

 「夜は眠れますか」「坂道は登れますか」。寺田医師はかつての教室で一人ひとりの話を聞いて診察する。一人暮らしの大野すずさん(92)は「先生はいろいろ教えてくれて安心します」。1カ月分の薬も受け取った。

 寺田医師は自ら車を運転し、山道を約40分かけて来る。「臓器別ではなく、人を診る医療はいいなと思う」。患者との距離の近さが仕事の魅力だ。

 佐久間病院は県内5カ所あるへき地医療の拠点病院だ。医療圏は旧佐久間町、旧水窪町と、旧龍山村の一部。約6400人が住み、高齢者が過半数を占める。

 山間部にあるため、スタッフの確保、特に看護師(必要数38人)の確保が課題だった。そこで佐久間病院に勤めれば月15万円の奨学金が返済不要となる制度を始めたところ、昨春、6年ぶりに新卒者が入った。

 新卒で入った看護師の竹下朝菜さん(21)は旧佐久間町出身。「地元の高齢者と関われる仕事がしたかった」と話す。奨学生のうち今春に3人、来春には5人が卒業予定だ。

 35人いる看護師の平均年齢は約47歳。看護師長の前野英子さん(58)は「若い看護師は新しい内容を勉強しており、刺激になる。貴重な存在です」。

 地域には退院後も一人暮らしだったり、高齢の夫婦だけの生活だったりする世帯が多い。「患者さんの生活も頭に入れて一生寄り添うような看護が必要。若い看護師に少しずつ伝えたい」と前野さんは話した。

 (張春穎)


 ◆キーワード

 <無医地区・準無医地区> 県地域医療課によると、おおむね半径4キロ以内に50人以上が住み、容易に医療機関を利用できない地区を無医地区といい、住民が50人未満の場合は準無医地区という。これらの地区が県内には浜松、島田、川根本町、西伊豆、南伊豆の5市町に計18地区ある。