高齢者の薬 どう減らす

2016.01.03

[スキャナー]高齢者の薬 どう減らす
2015.12.28 読売新聞


 ◇SCANNER

 ◆多剤投与 副作用増/薬局 出すほど利益

 高齢者の多くが不適切な薬の処方を受けている可能性が、厚生労働省研究班の調査で明らかになった。複数の持病のある高齢者には多剤投与が行われている実態もあり、薬の副作用で健康を害する例も少なくない。無益な薬の処方で体調を崩せば、さらに医療費、介護費もかさむ。今後、必要な対策は何か。(医療部 赤津良太、社会保障部 辻阪光平、本文記事1面)

 ■入院中に削減

 「薬を3種類減らしました。時々、病棟に様子を見に行きます」

 宇都宮市の国立病院機構栃木医療センター。内科の矢吹拓医師(36)は、骨折で入院中の95歳女性に語りかけた。60歳代の次女は「こんなにたくさん薬を飲んで大丈夫かと思っていた」と胸をなで下ろした。

 矢吹医師らは今年1月、同病院に「ポリファーマシー(多剤)外来」を開設、入院してきた高齢者の薬を減らす取り組みを始めた。65歳以上で5種類以上の薬を飲み、同意を得た患者を呼び、院内の薬剤師、看護師らと共同で体調を見ながら必要度の低い薬や副作用のリスクの高い薬を減らす。10月までに37人(平均年齢81歳)を診察。入院時に平均8・6種類だった薬が同4・6種類になった。

 退院時にはかかりつけ医に患者の診療情報とセンター長名で薬の削減に協力を求める文書を送る。地域の患者を診る宇都宮協立診療所の関口真紀(まさのり)所長(60)は「病院全体の取り組みとわかり、診療を見直すきっかけになる」と話す。

 ■副作用の背景

 総合診療医の徳田安春・地域医療機能推進機構顧問は、「特に影響を受けやすい80~90歳代の患者が増えているにもかかわらず高齢者特有の薬の作用や副作用に対する知識が医師の間に浸透していない」と指摘する。薬の代謝機能が衰えた高齢者が一般成人と同じ量の薬を飲むと副作用が出やすい上、薬同士の相互作用の影響も受けやすい。

 高齢者は飲む薬の種類が増えると、副作用が起きやすいというデータがある。だが、内科、整形外科など細分化した診療体制では患者が飲む薬の全体像を把握しにくく、薬の種類も増えやすい。近年、新薬が相次いで開発され、使える薬が増えたことも背景にある。

 薬局は、薬を処方するごとに調剤料が入るため、積極的に薬を減らそうという動きが起きにくい。

 ■「収益より信頼」

 薬の削減に取り組む薬局もある。首都圏で約140店を営む調剤薬局チェーン「薬樹(やくじゅ)」(本社・神奈川県)は約9割の薬局で医師の指示のもと、通院が難しい在宅患者や介護が必要な高齢者宅に薬剤師が薬を届ける。

 「訪問薬樹薬局 保土ヶ谷」(横浜市)の訪問薬剤師、高橋麗華さん(38)は痛み止めなど6種類を飲んでいた神経因性疼痛(とうつう)の90歳代女性の薬を、医師と相談しながら3種類に抑えた。

 薬樹は店舗の3割に管理栄養士を置く。服薬と栄養両面のサポートを通じて、症状が落ち着き、薬が減った糖尿病患者もいる。薬剤師の訪問事業は約5年前に本格化させた。地域の在宅医や訪問看護師らとの情報共有を徹底し、往診にも同行する。「薬が減れば目先の収益は落ちるが、かかりつけ薬局としての信頼が得られ、リピーターになってもらえる」と小森雄太社長(51)は説明する。

 だが、こうした取り組みは一部の薬局で始まったばかりだ。「薬を出すほど利益が出る、今の仕組みは問題だ」と小森社長は語る。

 ◆「かかりつけ薬局、医師に連絡」 厚労省が対策検討 「上下関係あり困難」指摘も

 厚生労働省は来年度の診療報酬改定で不適切な多剤投薬を減らす方針を掲げ、今年度中に具体策を詰める。

 いくつもの病院に通う高齢者の服薬情報を集めて管理する「かかりつけ薬局」が多剤投薬を見つけて医師に連絡する。国内外の学会などが作成した高齢者には避けるべき薬のリストを参考に医療機関が不適切な投薬を自ら減らしたり他の医療機関に連絡したりする--などが検討されている。投薬を減らした医療機関や薬局への診療報酬を手厚くする方針だ。

 不適切な処方を減らせば、膨張する社会保障費の削減にも結びつく。副作用の治療費が浮くだけでない。高齢者がいったん体調を崩し入院すると、体力が弱り、自宅に戻れず介護施設に移らざるを得ない例も少なくない。大量に処方された薬の飲み残しも多く、これを減らすことで年間100億円超の薬剤費が削減できるという試算もある。

 だが、医師からは「他の医師の処方に口を出せない」との声が根強い。全薬局の7割が医療機関近くに開設する「門前薬局」で、どこまで汗をかく薬局が出てくるかは不透明だ。「医師と薬剤師は上下関係があり、連携は難しい」との指摘もある。

 徳田安春・地域医療機能推進機構顧問は「本来はかかりつけ医が責任を持って薬の調整をすべきだが、当面は高齢者の薬に詳しい総合診療や老年医学の医師が専門外来を作って適切な処方に変える方法もある」と話す。いかに実効性のある仕組みを作れるかが課題となる。(医療部 米山粛彦)