◇医療保険と介護保険の併用はできない。どう使い分けるか

2015.12.25

〔上手にやりくり!介護家計簿〕/15 木谷百里
2016.01.03 サンデー毎日 

 


 ◇医療保険と介護保険の併用はできない。どう使い分けるか


 ■介護の種類 在宅介護

*医療面で不安がある場合、看護師の資格をもつケアマネジャーを選ぶこと

*どんなケアマネジャーを選ぶか。まずは、地域包括支援センターに相談する


「2014年3月に父から、『胃潰瘍で手術をするから』と突然連絡が入りました。胃潰瘍で手術というのはおかしいと感じた私は、主治医から話を聞くことにしたのです。すると、『胃がんのステージ2Bです』と言われました」と語る、滝本美貴さん(仮名)。

 13年末に父・啓太郎さん(仮名、当時88)は、検診で胃がんを指摘されていたのだという。しかし啓太郎さんは狭窄(きようさく)があり、いよいよ苦しくなって病院へ行ったのだと思われる。そうでなければ、ずっと放っておいたに違いないと、美貴さんは語る。

 その後、啓太郎さんは、私立大学の病院を紹介されて行ったところ、内視鏡では取れない場所にがん細胞があるとのことだった。転移している可能性もあり、開腹手術をしなくてはならない。「余命1年、うまくいけば余命5年の可能性が半々だ」と医師から告げられる。

「14年5月、手術を行いました。胃の3分の2を摘出する手術です。急性期病院なので、2週間で退院しなくてはなりません。退院後のことも考え、介護保険を申請し、要支援1になりました。申請したのは入院直後のこと。それと同時に介護保険は使えますので、すぐにケアプランを立てました」

 病院は治療の場であるから、治療が終了次第、退院をしなくてはならない。入院期間が2週間と短くなっている昨今、入院してすぐに、退院後の生活を考える必要がある。

「病院には、退院支援看護師がいます。入院前と退院後の生活環境に差が生じ、特にADL(*)・IADL(**)が低下している場合は、相談するといいでしょう。退院後も酸素吸入や痰(たん)の吸引など医療行為が必要になる。あるいは、進行する病状を抱えているなど、退院後の生活に問題があると判断されたら、退院支援看護師はご家族にご連絡し、お話を伺います」

 啓太郎さんは進行する病状を抱えていた。しかし、抗がん剤を使うという選択をしなかった。退院支援看護師でもある美貴さんは、最期まで自由にさせようと思ったのだという。

「私は看護師ですので、父の病状は本当であれば、抗がん剤の使用や入院をすべきだったのでしょう。そうすると急激に体力は奪われ、行動範囲は狭まります。終末期でもあり、治療よりも父の生活を尊重したいと思いました。父は設計士で、図面を描く人。退職後、頻繁に絵を描き始め、絵の会を開くようになりました」

 母のみどりさんのことは考えず、「旅行に行ってもいいよ。私がそこをカバーするから」と伝えたのだという。最後になるかもしれないということで、年末年始は実家に家族揃(そろ)い、初詣もいっしょに行った。15年3月には、啓太郎さんは腹水が溜(た)まるようになり、入退院を繰り返す。原則的に今の日本の制度では、医療保険と介護保険の両方は使えない。啓太郎さんのように医療と介護のはざまにある人は、どのように使い分ければいいのだろうか。

「被介護者が“どういう最期を迎えたいか”にもよります。それを明確にしないと、どこまで医療を使い、介護を使うかがわかりません。たとえば在宅で点滴を打つことも、延命になります。食べないなりに、自然に枯れていくのか。胃ろうを使うのか。それをちゃんと家族で話し合っておくべきです」

 たとえば胃ろうをつくり在宅介護をする場合、痰を引く、経管栄養をつくる、また褥瘡(じよくそう)(床ずれ)の処置をするということが必要になるかもしれない。しかしこれらは家族が病院で学べば、ある程度行うことができる。家族で行うのが物理的に難しい場合は、訪問看護師や、ヘルパーの力を借りるしかない。こうした相談の窓口は、やはりケアマネジャーだ。

「ヘルパーからケアマネジャーになった人か、看護師からケアマネジャーになった人かで、ずいぶん対応が違います。医療面に不安がある方の場合は、看護師からケアマネジャーになった人を選ぶほうが、良いかもしれません。看護師目線で、被介護者の状態を見ることができますから」

 どんなケアマネジャーにお願いするかは、地域包括支援センターに相談すると良いだろう。


 ◇入院施設をもち、往診を行ってくれる病院を


 それでは往診医をどう選ぶかについては、どのように考えていけばいいのだろう。

「入退院を繰り返す可能性のある方は、入院施設をもち、往診を行ってくれるところがいいと思います。介護の事業所をもっている病院など、つながりを大事にしたいのであれば、近所の病院を選んだほうがいいかもしれません。また地域医療連携システム(***)がある自治体の場合は、患者の情報もスムーズに伝わるのでしょうけれど、それがない自治体の場合は、自分たちで往診医を見つけなくてはならないかもしれません」

 その場合は病院の相談室にいるケースワーカーもしくはソーシャルワーカーに相談して、往診医を見つけてもらうといい。あるいは、最寄りの地域包括支援センターで相談してはいかがだろう。ただしこれも、本人や家族が医療と介護の方向性をきちんと決めておく必要がある。


 ◇被介護者の通信機器は、家族名義に。中途解約にならないためにも


 15年5月末、ついに啓太郎さんは逝去。その後、美貴さんは、父の通信機器の解約で苦労したことがあったという。

「父が亡くなり、母の遺族年金や固定資産税、保険類の処理をし、公共料金の引き落としを終えました。さらに通帳を閉じ、クレジットカードを止めたのです。ところがクレジットカードを止めたことで、引き落とせないとの連絡が来たのは、大手通信サービスの会社でした。父は、PHSとルーターを契約していたようです。事情を説明したくともフリーダイヤルではなく、はるか遠方の地域。電話代が非常にかかる上、『中途解約なので、違約金が発生します』と言われたのです。ルーターとPHSの両方で10万円になる、と」

 解約は本人ではないので、書類が必要とのこと。送られてきた書類を見ると啓太郎さんの死亡診断書、美貴さんの身分証明書のコピーを同封するようにと指示がある。それを指示通り送ったにもかかわらず、さらに美貴さんが本当にそこに住んでいるのかを証明する書類が必要だという。住民票を送付する、もしくは公共料金のはがきを送付する必要があるというのだ。

「家族の通信機器は契約した時期がわからず、中途解約になりやすいです。安否確認にPHSやスマートフォンなどが必要な場合、被介護者ではなく、家族名義での契約をお勧めします。解約する際に、費用がかかり、なおかつ書類を揃えなくてはならず、非常に面倒ですから」


 ■通院・訪問診療のメリットとデメリット


 ◇通院


 遠距離介護では、ご家族が実家に帰る新幹線などの交通費がかかります。また病院へ行くためにタクシーを使う必要があるかもしれません。通院は、さまざまなコストがかかるものです。


 ◆メリット


 家族とともに通院する場合は、わがままを言って「行かない」ということになりかねません。これがケアマネジャーやヘルパーなど、他人だから被介護者も通院するというケースもあります。その場合は、ケアマネジャーやヘルパーにお願いするといいでしょう。特にケアマネジャーが病院に立ち会えば、無料です。ケアマネジャーは月に一度は訪問しなくてはならないため、そこに通院を入れてもらうように頼んでみては、いかがでしょう。ケアマネジャーも、診察に立ち会うことで、ご利用者の体調を正確に把握することができます。


 ◆デメリット


 病院内はすべて医療保険です。介護保険は一切使えないため、ヘルパーを利用すると自費になります。特に待ち時間が長い場合は、かなり大きな金額になるので、ご注意を。


 ◇委訪問診療


 訪問診療は介護保険のほかに、医療保険での利用ができることもあります。ただし、がんの末期・急性期疾患増悪・特定疾患などの場合は、医師の特別許可書が必要です。コストがかかり、加算もあります。実際のコストを計算し、通院と比較するとよいでしょう。

 ◆メリット


 仮に自宅で被介護者が亡くなった場合、救急車でかかりつけの病院に運び、異常死かどうかの判断を行うために警察が介入します。検視および、ご家族には事情聴取があるでしょう。この精神的な負担は、ご家族にとって非常に大きいものです。しかし往診の場合は、ご自宅で死亡診断です。医師の判断にもよりますが、警察の介入はありません。そのため、ご家族は安心かもしれません。


 ◆デメリット


 心臓疾患などで突然死の可能性がある場合や、老老介護でご家族が正確な判断ができない場合は、訪問看護をお勧めします。ただし往診はひと月に2回が平均的で、薬代を含め1万円弱。ややコストは高めです。

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