核心リポート01--新日本に下る"鉄鎚" 顧客流出のクライシス

2015.12.25

核心リポート01--新日本に下る“鉄鎚” 顧客流出のクライシス
2015.12.26 週刊東洋経済 

核心リポート01

新日本に下る“鉄鎚” 顧客流出のクライシス

新日本監査法人に金融庁の処分が下る。旧中央青山の二の舞いを避けられるか。

 「他人事とは思えない」──。ある公認会計士が口走るように、東芝の不正会計に関連する新日本監査法人の責任問題の成り行きをかたずをのんで見守る、監査法人関係者は少なくない。

 特定の監査法人の問題に終わるのか、それとも監査法人制度全体の経年劣化というテーマに発展するのか。たとえ特定事案としても、信頼という、会計監査制度の根幹部分が揺るぎかねない。

 「当監査法人の運営が著しく不当なものと認められた」

 12月15日。公認会計士・監査審査会が新日本に下した判定は厳しかった。

 同審査会は金融庁の傘下にあり、監査の品質管理や公認会計士の処分など、調査審議を行っている。監査の品質管理レビューとして、監査法人への検査を2年ごとに実施。「繰り返し指摘してきた改善内容が満たされていない」という理由で、金融庁長官に対して新日本への行政処分を講ずるように勧告した。

 「社員及び監査補助者のうちには、監査で果たすべき責任や役割を十分に自覚せず、監査会検査等で指摘された事項を改善できていない者がいる」。理由は多岐にわたり、いずれも監査の心臓部に当たる項目ばかり。新日本にとっては監査の品質に失格の烙印を押されたのに等しい。

 審査会が厳しい勧告を行った背景の一つには、国内最大級の監査法人に「改善を浸透させるのは生半可ではできない」、という判断がある。

 新日本は公認会計士だけで3504名(2015年9月末)、全6250名の人員を抱える。規模に見合わない生半可さ。新日本の品質管理はこの危うさの中にあった。

東芝で緩んだ“懐疑心”

 そういった体質が露呈したのが、今回の東芝による不正会計にほかならない。

 問題発覚後、東芝の第三者委員会は、7月21日に報告書を提出。「経営トップを含む組織的な関与」とする見解を明確化したうえ、不正な利益水増し策として工事原価の過小評価や費用計上の先送りなど、四つの手口を明らかにした。東芝はこうした手法を部門横断的に駆使、トップ3代にわたって、虚飾の決算を作り上げてきたのである。

 東芝の実態が明るみに出るや、批判の矛先は、監査を担当した新日本へも向かった。

 当然ながら、公認会計士・監査審査会も動いた。9月中旬に同審査会は、新日本への検査に着手。検査が終了したのは12月上旬である。

 浮かび上がった問題は、東芝と監査チームのなれ合いだ。東芝への監査は何十年間も、新日本や前身の監査法人によって行われてきた。

 その過程で監査チーム側には、東芝に対する過剰な信頼感が形成された。会社側の説明や提出資料について、監査人の立場から疑いを持つという、「職業的な懐疑心」による検証が緩んだのだ。東芝は監査チームの傾向をつかんだうえで、長期間、不正な会計を企てており、東芝の手の内にはまった監査体制だった、という言い方すらできる。

 公認会計士・監査審査会が、新日本に繰り返し指摘してきた業務管理体制全般への改善も、結果的に怠ったと言わざるをえない事態だった。上図で示したように、新日本の監査先では、これまでも不祥事が相次ぐ一方。今回の東芝はそのドン詰まりで発覚したにすぎない。

 同審査会の勧告を受けて、金融庁が打ち出す行政処分はいったいどうなるのか。参考となるのが、過去に公表した、「公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方(処分基準)について」という資料である。

 資料によると、監査法人の社員が相当の注意を怠ったケースにおいては、「課徴金(監査報酬の1倍)、契約の新規の締結に関する業務停止6カ月、業務改善命令」という、3点セットが処分内容の基本となる。これをベースに、事案の個別事情を勘案して、新規業務の締結停止期間を加減するのが骨子だ。

 いずれ、新日本に下される行政処分が、到底「軽い内容とはなりえないこと」が理解できるだろう。

他の監査法人に交代も

 そして勧告や行政処分を通じ、新日本の監査品質の低さが知れ渡れば、次は自社の信用に敏感な企業が他の監査法人に交代させる可能性も否定できない。近年では旧中央青山監査法人がカネボウの粉飾に加担したとして、全面的な業務停止命令2カ月を受け、顧客が流出。その後も、日興コーディアル証券や三洋電機など監査先の不祥事が続き、07年7月末に解散した。

 新日本にとって、16年は信頼回復に加えて、既存の監査先の流出をどう防ぐのかという、再生への険しい道のりが待ち構えている。

 さらには、新日本に対し行政処分が下されても、一件落着とはなりそうにない。監査法人制度の経年劣化という問題が残るからだ。金融庁が主催する「会計監査の在り方に関する懇談会」では、過去2回、専門家の委員たちがより有効な監査に向けた、広範な問題提起を行っている。

 特に15年6月に東京証券取引所が導入した、コーポレートガバナンス・コードの監査法人版の導入はその一つ。監査法人は自らのガバナンス・コードを表明、順守状況を開示し、監査の品質向上につなげる考え方である。

 厳しい監査とは本来、株主の利益にもつながるはず。裏返すと、企業の経営陣や監査役、株主、アナリストが、監査の品質を厳しく追求していくためにも、現在は“ブラックボックス”となっている監査のプロセスや品質を、可視化することが重要だ。

 「資本市場においては、ディスクロージャーと受託者責任が重要で、それは監査法人にも該当する」(大手アセットマネジメントの幹部)という観点からも、株主の判断材料の充実化は重要な論点だ。欧米で議論され、一部では実施されている、監査法人のローテーション制の導入もその先にあるだろう。

 監査法人制度が資本市場に組み込まれたのは1966年のこと。新日本の問題を他山の石として、他の監査法人もよりよいものに磨き上げる努力こそ、50年の節目にふさわしい。監査法人は今、転換期を迎えている。

本誌:浪川 攻

監査先の上場企業で問題が相次ぐ─新日本監査法人の顧客で起きた主な不祥事─

金額に見合う監査がされているか─新日本監査法人の主な顧客と監査報酬─

金融庁の処分を受けて謝罪する東芝首脳。次の焦点は新日本監査法人の処分に

旧中央青山の元理事長が激白 「新日本は事件を教訓にしてほしい」

 2007年の中央青山監査法人の解散から10年近く経った。だがすべて過去になったわけではない。あのときに起きたことはいったい何だったのか。別の監査法人に移ったり、独立したりした人もいた。それぞれが当時のことを糧にし、生かして、伸びてくれればいい、という思いが交錯している。

 カネボウでは会計士が粉飾に加担していたという刑事事件だった。一方、東芝では、会計士は加担していない。問題はトップがどこまで関与していたかだ。トップ主導で粉飾をやっていたとすれば、新日本監査法人が見抜くのは難しい。調査委員会の報告書を読んだが、工事進行基準や半導体の在庫評価など、どれも手が込んでいて、会計士にはわからないようにやっていた気配がある。

 もし、中央青山が残っていたら、こうした問題は起きなかったかもしれない。あの頃、カネボウの件で反省して、トップから新入社員研修、QC運動など、すべて体制を変えた。法人が残っていたらうまく稼働していったと思う。

中央青山から1000人移った

 特に新日本には中央青山から1000人以上が転籍した。私の改革が浸透したかわからないが、対応策は伝わっているだろう。直っていないところがあれば改善してほしい。新日本は問題点がないか把握して路線を改革するしかない。東芝のここは把握できなかったが、今後はこうした対応をする、という改善策の「見える化」をすべきだ。

 ただ今回は、東芝が悪すぎた。委員会等設置会社や社外取締役制度など、コーポレートガバナンスのあるべき姿を、すべて先取りしていた超優良企業。肝心要のトップが会計の重要性を意識していなかった。これはモラルの問題である。課徴金の勧告が出たことによって、東芝という法人(の罪を問う部分)は終わり。次は、経営者に対する民事罰や刑事罰を問い、そして監査人に移る。

 結論は15年内に出したほうがいい。12月期や3月期を本決算とする企業も多い。何が問題かわからないままでは、監査法人の選任を株主総会に諮れない。もし問題が明確になれば、「改善するなら協力します」という判断になる。

 監査は毎年同じことを、ルーチンのように繰り返している。そうでなければ、監査法人内で報告を上げる期日には、間に合わない。問題の有無は内部統制に依拠している。こうした状況下、(粉飾決算のような)問題を発見することは、よほどイレギュラーな取引がないかぎり、難しい。コスト的には全然見合わないが、何年かに1度、監査人が発生から集計まで、すべての原価計算を追いかける必要もあるのではないか。

奥山章雄

旧中央青山監査法人

元理事長

おくやま・あきお●1944年生まれ。2005年に理事長就任、業務停止命令を受け辞任。元日本公認会計士協会会長