人口減を越えて/随時掲載/65歳超が半数、1万カ所/老いる集落どう支える/地域包括ケア住民参加が鍵/ズーム/高齢者住宅財団理事長/高橋紘士氏/営みや歴史に教訓/

2015.12.08

人口減を越えて/随時掲載/65歳超が半数、1万カ所/老いる集落どう支える/地域包括ケア住民参加が鍵/ズーム/高齢者住宅財団理事長/高橋紘士氏/営みや歴史に教訓/
2015.12.07 宮崎日日新聞 


 政府は、医療や介護が必要になっても、住み慣れた地域で暮らし続けられる社会を目指す政策を掲げている。しかし、65歳以上の高齢者が半数を超える「限界集落」では、医療や介護などの十分なサービスを受けるのが難しいケースも。「ふるさとでの生活」を維持するため、地域住民同士が助け合う現場を追った。



65歳超が半数、1万カ所/老いる集落どう支える

 町役場がある町の中心部を抜け、蛇行する険しい山道を車で1時間半ほど走ると、段々畑から太平洋を見下ろす小さな集落が見えてくる。

 九州の南端、大隅半島にある鹿児島県肝付町大浦地区。平家の落人が隠れ住んだとの言い伝えが残る。約50年前は人口300人を超えていたが、10月末には7世帯10人のみ。高齢化率100%で、消滅が懸念される「限界集落」だ。

 自治会長の白坂義信さん(72)は「大浦で暮らし続けたいというのがみんなの願い。それを支えるのが一番若い自分の役目だ」と、急病人の医療機関への搬送から災害時の避難誘導まで担う。

 ▽思いとは裏腹

 白坂さんらの思いとは裏腹に、政府は過疎化が進む地域の住民に都市部への移住を促している。高齢者が点在していると、医療や介護、生活支援などのサービスの提供コストがかさむ。そのため、病院や商業施設などを集めて、そこに集住させる構想だ。利便性は高まるが、地域コミュニティーからは切り離される。

 大浦地区は最寄りの医療機関や介護施設まで車で約1時間。訪問診療の対象地域でさえない。それでも白坂さんらは大浦にとどまる。10月には93歳の1人暮らしの女性ら2人の高齢者が病院や介護施設から戻ってきた。正月を自宅で過ごしたいとの思いからだ。

 ▽自助努力だけでなく

 十分な医療や介護が望めない地域での暮らしをサポートするのは、町の職員や地域包括支援センターのスタッフらだ。四半世紀にわたり集落の健康管理に関わってきた保健師能勢佳子さん(46)は「長年の農作業で培われた体力と健康維持への意識の高さが生活を支えている」と話す。90歳を超える住民も毎日畑に出て、年1回の健診は毎回ほぼ全員が受診する。

 ただ、地域は確実に老いていく。鹿児島純心女子大の八田冷子教授は「自助努力は必須だが、それに頼るだけでなく、最低限の医療、介護サービスを提供するための制度設計を政府は明確に描くべきだ。限界集落も例外ではない」と指摘する。高齢者の割合が50%超の集落は全国で1万カ所を上回る。限界集落をどう支えるかは、大浦特有の課題ではない。

 ▽地域ぐるみで連携

 国の借金が膨らみ、現役世代の人口が減り続ける中、医療、介護に投下できる資源は限られる。この解決策として政府が打ち出したのが、なるべく住み慣れた地域で暮らし続けられる仕組み「地域包括ケアシステム」の整備。在宅サービスを充実し、住民のボランティアも巻き込んで、費用を節約しながら高齢者を手助けするのが狙いだ。

 それを実践する滋賀県東近江市の永源寺地区。花戸貴司医師(45)の診療回数は年1500回を超え、昨年は33人のみとりに立ち会った。「高齢化のピークは越えた。訪問診療医が私だけでも何とか乗り切れるはず」

 過疎地で医療や介護の担い手が限られる中、地域医療の鍵となっているのが、多くの職種の人たちの連携だ。強い地縁に加え、住職や警察官なども高齢者の見守り活動に参加し、地域ぐるみで高齢者の在宅生活をサポートしている。花戸医師は「専門性という枠を外れて、いろいろな人とつながることで、専門家の間の隙間をなくせるのではないか」と指摘する。



写真説明/定期健診で、大浦地区に暮らす白坂義信さん(左)の血圧を測る保健師能勢佳子さん=10月、鹿児島県肝付町



地域包括ケア住民参加が鍵

 「地域包括ケアシステム」は、団塊の世代が全て75歳以上となる2025年までに、高齢者が病院や施設にとどまることなく、住み慣れた地域で最期まで暮らし続けることを目指す国の政策だ。

 高齢化の進行に伴う医療・介護ニーズの高まりで、専門職の人材不足は深刻。高齢者に在宅生活を続けてもらうためには既存のサービス提供体制を見直し、地域の実情に応じて再構築しなければならない。

 そのため地域包括ケアでは医師や看護師、ケアマネジャー、薬剤師といった専門職が連携し、高齢者の日常生活に必要なサービスを提供するのが原則だ。しかし、専門職のマンパワーには限りがある。成否を握るのは「住民参加」だ。

 厚生労働省は、地域にとって必要なサービスを住民自らが専門職とともに考える「住民会議」を設置したり、見守りなどのボランティアを配置したりして、地域ぐるみで地域包括ケアに関わるよう促している。

 特に、人材や、医療・介護サービスなどの社会資源に乏しい限界集落で暮らし続けるには、住民同士の助け合いや、厳しい環境下で暮らし続けることへの合意形成が必須。地域包括ケアを成立させるには「地域をどうつくっていくか」という主体的な視点が求められそうだ。

 限界集落 65歳以上の高齢者が住民の半数を超え、共同生活が困難になった集落。総務省によると、2010年4月時点で全国の1万91カ所が該当し、06年度の調査からは2千カ所以上も増えた。本県では、県が08年度から自主的に集落の活性化に取り組む中山間地域を「いきいき集落」と認定(現在19市町村・127集落)、助成金などを支給している。



 人口減の中で限界集落をどう考えるべきなのか。高橋紘士・高齢者住宅財団理事長と椎川忍・地域活性化センター理事長に聞いた。



高齢者住宅財団理事長/高橋紘士氏/営みや歴史に教訓

 人口減少がこのまま進めば、限界集落の消滅は避けられない。個人だけでなく集落の終末期をいかに充実させ、みとるかを本気で考えなければならない時代が到来した。

 安倍政権は人口減少に歯止めをかけ、1億人を維持する目標を掲げている。そのために補助金や公共事業による「延命装置」の量産に躍起になっているが、集落のターミナルケア(終末期のみとり)には必要ない。数十年後、老朽化したハコモノがあふれるだけだ。

 終末期の限界集落に求められるもの。それは、医療や介護資源が極めて少ない厳しい環境で暮らし続けるため、健康や体力を維持する住民の自助努力や、何かあったとき周囲に気軽に助けを求められる地域住民同士のつながり、ボランティアによる見守りだ。

 地域包括ケアシステムはそれらを有機的に働かせられる仕掛けで、既存の医療・介護の在り方を変えるのが狙いだ。限られた資源の中で必要なサービスをどう選択していくか、住民の知恵と覚悟が問われる一方、支え合いは資源不足を補う力になる。

 今の大浦は、将来の日本の至る所で見られる姿。集落が穏やかな死を迎えるために、何をすればよいのか。彼らの営みや歴史には、多くの教訓が詰まっている。

 たかはし・ひろし 1944年大阪市生まれ。専門は地域ケア論。立教大教授などを経て、11年から現職。



地域活性化センター理事長/椎川忍氏/住民の行動不可欠

 規模の小さい集落同士を一つにまとめるのは、窮余の策だ。そもそも、日本人の多くは先祖伝来の土地に定住して稲作を営んできた農耕民族。住民を郊外や過疎地から都市中心部に集める「コンパクトシティー」の発想は、町がとりでに囲まれたヨーロッパ型の考え方で日本の農山村にはなじみにくい。

 これからは消える集落と残る集落との選別が進み、格差が広がっていくだろう。人口を維持するため、限られた子育て世代の奪い合いが地域間で加速するからだ。何もしないで手をこまねいている集落は、消滅の可能性が高くなる。

 農山村地域には、お金をそれほど使わなくても、自給自足やお裾分けで豊かに暮らせる文化が残っている。そうした文化の価値を住民が発信し、芸術家など会社勤めをしなくても生活できる若い世代を取り込んで限界集落を再生させた地域も出てきた。子育て世代が毎年少しずつ移住してくれれば、集落の存続がより確かになる。

 住民が立ち上がらなければならない。ただ、集落の再生には最低でも20年かかる。どこで行動を起こすか。タイミングと継続の努力が不可欠だ。

 しいかわ・しのぶ 1953年北九州市生まれ。総務省自治財政局長などを経て14年から現職。

宮崎日日新聞社