映画「いしゃ先生」 郷土の先人、功績を発信

2015.11.26

社説 映画「いしゃ先生」 郷土の先人、功績を発信
2015.11.25 山形新聞


 西川町大井沢で地域医療に生涯をささげた志田周子(ちかこ)をモデルにした映画「いしゃ先生」が県内で上映されている。来年1月からの全国公開に先駆け今月7日に始まり、20日までに観客1万人に達した。「先行上映としては非常に理想的なペース」(配給会社)という。

 1910(明治43)年生まれの志田周子。東京女子医学専門学校(現東京女子医科大)卒業後の35(昭和10)年、旧大井沢村長を務める父からの懇願に応じて、無医村だった大井沢の診療所の医師として着任する。51歳で亡くなるまで、豪雪地の地域医療に貢献した。59年には全国規模の保健文化賞を受けている。

 当初は3年間の予定だったが、自らを奮い立たせて村に残り、献身的に尽くした。私生活では、27歳で母親を亡くした後、幼いきょうだいたちの母親代わりとなり、生涯独身を通した。

 映画は本紙で連載執筆中のあべ美佳さん(尾花沢市出身)が脚本を担当、永江二朗さんが監督を務め、周子役は女優平山あやさん。県内でロケが行われた。

 若い女性医師など珍しかった当時、東京で医学を修め、農村で職業人として働くその姿は斬新だったろう。

 東京から帰郷して開業した若い女医に無理解や偏見も多く、受け入れられるまで時間を要した様子が映画で描かれている。それが次第に打ち解け、村に掛け替えのない存在になっていく。多数の県民がエキストラで出演。コミカルな場面、方言も数多く盛り込まれ、泣き笑いの中に人情味も伝わってくる。

 救急車などなかった戦前の村。冬場は急病人を箱ぞりに乗せて病院まで運ぶ姿は、厳しい自然、貧しい暮らしぶりの中で懸命に生きた往時をしのばせる。そして輝くように描かれた月山や寒河江川、田園地帯の中で咲き誇る満開の桜など山形の自然美も見どころの一つだ。

 映画化は、町内外の有志と各種団体などが「志田周子の生涯を銀幕に甦(よみがえ)らせる会」を組織して実現させた。製作費の捻出で多数の有志が募金に応じ、ボランティアとしても支えた。

 西川町では、映画の舞台となった旧大井沢診療所を一般公開中だ。今月28、29日には女性医師への支援の在り方などを考える「全国女医JOY!サミット」の開催を予定している。地方創生が叫ばれる中、実在の人物に焦点を当てることで“資源”として創生を図っている。

 一方、医師の偏在による医師不足は、高齢化が進む昨今も地方に深刻な影を落としている。産婦人科医不足という少子化を反映した課題にも直面している。

 周子はまた、医師だけでなく、婦人会長や村(町)議会議員を務めるなど女性の社会参画の先頭に立ち、山村における住民の意識改革も推進した。

 女性の活躍促進も近年の課題。管理職登用や議員など指導的立場に就く女性の割合を社会の中で引き上げる取り組みが全国的に行われている。周子の足跡はその意味でも先進的だったといえる。

 今日的なテーマも内在した「いしゃ先生」。周子が苦労の中で抱き続けた“医の心”とその実践は郷土の先人として誇らしくもある。広く功績を発信し、先人と歴史の再認識につなげていきたい。