ベッド数削減、懸念の声 10年後視野に地域医療構想策定へ

2015.11.11

ベッド数削減、懸念の声 10年後視野に地域医療構想策定へ /東北・共通
2015.11.10 朝日新聞



 10年後の医療態勢を示す地域医療構想(ビジョン)の策定作業が始まった。国は都道府県に、救急治療やリハビリ、退院に向けた療養など機能ごとの病床(ベッド)数を定め、軽度の入院患者は在宅医療に移すよう促している。高齢化で増え続ける医療費の抑制を国は目指すが、地域医療の現場からは懸念の声が出ている。


 過剰とされるベッド数は、岩手県は約4400、青森県は約4700、秋田県は約3500、東北6県はすべて過剰という結果に=図上。全国では15万以上という規模になった。

 2025年時点で適正とされるベッド数(必要病床数)を推計し、それを上回る分は過剰なベッドとして、政府の社会保障制度改革推進本部の専門調査会が6月に公表した。

 国はベッド数が適正な数を上回ると不必要な入院治療が増えるとしている。このため、病状が落ち着いた入院患者は、自宅や特別養護老人ホームなどの介護施設に移ってもらう考えだ。

 専門調査会の推計結果について、岩手県の千葉茂樹副知事は10月、県議会定例会でベッド数削減の考え方を問われ、「試算は参考値。国も削減は強制ではなく、医療関係者と協議のうえ自主的な取り組みが基本という考えだ」と答弁した。

 質問に立った県議は「医療費削減のためにベッドを減らせというのは乱暴な議論。在宅医療を支えるには介護のサポートが必要だが、施設も人手も不足している」と指摘した。


 ■深刻な担い手不足

 地域の医療、介護の担い手からも、ビジョンの実現に懐疑的な声が相次いでいる。

 岩手県が国の考え方をもとに、今後在宅医療で受け入れる人数を試算したところ4627人だった=図下。県は今年度中のビジョン策定に向けて、県内9ブロックに分かれている2次保健医療圏ごとに医療、介護の担い手と意見交換を重ねた。相次いだのは、在宅医療の受け皿が脆弱(ぜいじゃく)な現状を指摘する声だ。

 沿岸南部の中核都市、釜石市。約20年前から在宅医療に取り組んできた釜石医師会の小泉嘉明会長は在宅医療を支える家族の介護力の低下を懸念する。「患者を在宅で受け入れようにも、家族の体力が落ちている。誰かが患者に気を配る必要があるけれど、家族は日中、働きに出て不在のところが多い。寝たきりの人が在宅医療を受けるのは難しい状況となっている」

 高齢化に伴い、65歳以上の一人暮らし世帯、夫婦ともに65歳以上の高齢夫婦世帯が増えている。二つ合わせると世帯全体の2割を超すとみられる。

 老老介護には、介護サービスのサポートが不可欠だが、介護スタッフの人手不足は深刻だ。岩手県では10年後、約5千人の介護人材が不足する。東北各県も同様の見込みだ=図中央。

 退院患者の受け皿は、自宅に加えて特別養護老人ホームや介護老人保健施設などだ。しかし、建設費の高騰や、必要な人材確保が困難なことから事業者が施設建設を見送るなど市町村が定めた整備計画の目標に達していない。岩手県内では早急に施設入所が必要とされる高齢者約1千人が空きを待っている。


 ■医療も態勢不十分

 医療を担う側も人手不足が深刻だ。地域の医療ニーズに応えるのに必要なスタッフをそろえるのが優先課題だ。

 沿岸北部、久慈市を中心とする医療圏域では、常勤医が不足し、産科やリハビリ、透析治療の態勢を十分に確保できていない。「この地域は医師の絶対数が少ないために、病院での診療で手いっぱいで、国がめざす在宅まで手が回らない」と、圏域の基幹病院、県立久慈病院の吉田徹院長は話す。

 産科では、リスクの高い分娩(ぶんべん)は車で約1時間かかる二戸病院に引き受けてもらっている。

 「安心して分娩できるということは、若い人を呼び、子どもを安心して産みやすくなる。人口減に悩む地域にとって医療提供態勢の確保が最重要課題」

 増え続ける認知症患者の対応も問題だ。

 「認知症患者を在宅に戻そうにも、中等度以上に進行した認知症で妄想や徘徊(はいかい)といった問題行動(BPSD)のある患者さんの場合は、自宅に帰せるのは2割弱ぐらいでは」。こう指摘するのは久慈圏域で認知症治療の中核施設、北リアス病院の長岡重之院長だ。

 岩手県内の65歳以上の認知症高齢者は約3万8千人と、10人に1人の割合だ。国の推計では、国内の認知症高齢者は462万人(12年)から25年には約700万人となる見込みだ。

 「問題行動がある認知症患者を在宅で受け入れるためには家族が四六時中つきっきりにならないと難しい。この視点が国の地域医療構想の策定方針から抜け落ちている。医療財源ありきで、現実を見ていない」(角津栄一)