〔名門・亀田病院で何が起きたのか!〕内幕スクープ 全国の医師不足は"人災"だ 千葉・鴨川

2015.11.04

〔名門・亀田病院で何が起きたのか!〕内幕スクープ 全国の医師不足は“人災”だ 千葉・鴨川
2015.11.15 サンデー毎日

 ◇「首相の主治医」元副院長が実名告発 「私をクビにした厚労省のゴーマン」


▼「行政批判」で補助金打ち切り通告、突然の解雇通知


 日本最大級の規模を誇る私立病院「亀田総合病院」(千葉県鴨川市)。東日本大震災の被災地支援でも名を上げた名門病院の副院長が突如、懲戒解雇された。「厚生労働省の横暴によってクビになった」。元副院長がその内幕を実名で告発する。


 太平洋を臨む外房の海岸沿いにある亀田総合病院。医療法人「鉄蕉(てつしよう)会」の基幹病院だ。34の診療科をそろえ、一般病床は865床。千葉県の災害拠点病院や総合周産期母子医療センターなどに指定され、「県南部の医療を担う中核施設」と呼ばれる。

 広大な敷地に病棟群が林立する中、ひときわ目立つのが地上13階建ての「Kタワー」。2005年4月に完成した“巨塔”は350床全てが個室で「オーシャンビュー」。ラウンジやレストランまで備えており、ホテルのような豪華さを誇る。常勤医は約450人、1985~91年には「天皇陛下の執刀医」として知られる天野篤・順天堂大教授が勤務していた。

 南房総の医療を支える名門病院を舞台に、突如として内紛が勃発した。

「亀田病院は補助金のカットをチラつかせた厚生労働省の圧力に屈し、私をクビにしたのです。納得できず、懲戒解雇の無効を求め訴訟を起こすつもりです」

 本誌にこう明かしたのは、9月25日まで亀田総合病院副院長を務めていた小松秀樹医師(66)。「鉄蕉会」理事長、亀田隆明氏(63)に請われて2010年に副院長に就任したが、来年3月の任期満了を前に、突然の懲戒解雇処分を受けた。

「亀田病院は11年の東日本大震災では、発生からわずか6日後には、事故が起きた東京電力福島第1原発に近い福島県いわき市に医師やスタッフを送り、人工透析が必要な患者45人を亀田病院に受け入れた。その後も同県南相馬市立総合病院に亀田病院所属の若手医師を長期派遣した。こうした被災地支援を指揮したのが小松副院長でした」(地元の医療関係者)

 小松氏は74年東大医学部卒。歯に衣着せぬ行政批判で知られる有名医師だ。保険外診療も認める混合診療の解禁を提言するなど、意欲的な言論活動を展開してきた。医療事故に過剰な刑事罰を与えることの危険性を指摘した『医療崩壊』(06年)など著書も多い。

 虎の門病院泌尿器科部長などを歴任し、複数の首相経験者の主治医を務めた凄腕(すごうで)のエリート医師。そんな小松氏がなぜ、亀田病院から突然の解雇通知を受け取る事態に陥ったのか。

 小松氏によると、すべての発端は、小松氏が心血を注いできた事業の「補助金打ち切り通告」だった。

 小松氏は12年、地元で働く看護師育成を目的とする亀田医療大を鴨川市内に設立に尽力。医師不足の地域で活躍する医療集団を作ることが目的だった。そして13年からは「地域医療再生臨時特例交付金」、つまり厚労省の補助事業を利用し、超高齢化社会に対応するための研究講座を始めた。医療従事者が不足する地方において、医師や看護師を養成して人材を確保し、地域包括ケアを実現させる。そのためのソフト作りを行う事業だった。

 ところが、今年5月になって事態は急転する。小松氏が語気を強める。

「私は県庁に呼び出され、医療整備課職員らから『14年度分の補助金は300万円減額し、15年度分は打ち切る』と宣告されました。事業予算の削減や停止は、地域医療を疲弊させる。到底納得できなかった」

 3年間で計5400万円の補助金が交付される同事業では、研究成果の書籍化、映像ソフト化が順調に進んでいた。打ち切り通告に反発した小松氏は「医師、看護師を確保する取り組みを行政に邪魔された」などと県とのやり取りを周囲に暴露、反論を始めた。


 ◇打ち切りは撤回されたものの…


 小松氏の剣幕(けんまく)に圧倒されたのか、県側は同月内に打ち切り通告を撤回。だが、小松氏の一連の言動を問題視した亀田病院側は「指示命令に反抗し、職場の秩序を乱した」として9月25日の懲戒委員会で小松氏の懲戒解雇処分を決定した。

 病院の「顔」というべき副院長のクビ切りを目の当たりにした亀田病院の現役医師は怒りが収まらない。

「亀田理事長は元々、小松副院長の数々の主張に共鳴し、だからこそ彼を招聘(しようへい)した。当初は2人で一緒になって厚労省や千葉県の医療行政を批判していた。多くの亀田病院の医師や職員は、小松副院長の解雇処分に憤っています」

 それにしても、打ち切り通告はあまりに唐突だ。同県医療整備課は本誌の取材に対して「補助金の打ち切りを宣告したつもりではなく、事業がうまくいっているのか“打ち合わせ”をしただけ」というが、不自然な釈明というしかない。

 小松氏が調べたところ、補助金打ち切りを仕掛けた人物は、思いもよらぬところにいた。

 小松氏が事業の原資とした「地域医療再生臨時特例交付金」は厚労省の予算が各都道府県に降ろされ、基金にされる仕組みだ。制度上、どの医療機関にいかなる事業で補助金を配分するかは都道府県が裁量を持つとされるが、現実には厚労省から県に出向している医系技官、つまり医師免許を持つ厚労省職員というケースがほとんど。つまり厚労省の意向がそのまま補助金分配に反映されるのが実情というのだ。

「補助金打ち切りを画策したのは、実は厚労省のある官僚だった。亀田病院幹部が『厚労省の医系技官から圧力があった』と周囲に漏らしていたというのです。技官は震災当時は千葉県に出向していたが、私は県の被災者支援策を徹底的に批判していた。それが技官の怒りを買ったのでしょう」(小松氏)

 厚労省のキャリア官僚は小松氏の見解に賛同する。

「小松氏は09年の鳥インフルエンザ騒動の際、厚労省の対応を猛烈に批判したことがあり、省内では“目の上のたんこぶ”として有名です。そして、名前が挙がっている医系技官はインフルエンザなどの感染症の専門家で、小松氏の批判をけむたがっていた。つまり震災前から“因縁の仲”だったのです。省内でも『あの技官が補助金を打ち切りにさせようとしたんだろう』と囁(ささや)かれています」

 本誌は厚労省に事実確認したが、「そうした事実は確認していません」(厚生科学課)との回答だった。


 ◇病院・厚労省と徹底抗戦


 こうした中、小松氏は技官の実名を記した内部調査を求める申し入れ書を橋本岳・厚労政務官を通じて塩崎恭久厚労相に提出。いよいよ厚労官僚との対決姿勢を鮮明にした。亀田理事長をはじめとする病院幹部たちは、小松氏を敵視する厚労官僚との軋轢(あつれき)に耐えられず、解雇に踏み切らざるを得なかった―。小松氏はそうにらんでいる。

 もう一つ、実は冒頭のKタワー建設などで経費がかさんだほか、消費増税のあおりを受け、亀田病院は厳しい経営状態に陥っていた。民間信用調査会社によると、鉄蕉会の借入金は15年3月までに約330億円に膨らんだ一方で、同年の経常利益は3700万円。厚労省の機嫌を損ね、総額10億円以上といわれる補助金がカットされれば、病院経営の悪化は免れない。

「厚労官僚の顔色をうかがって小松副院長を排除したことが事実ならば、明らかに異常です」(前出・亀田病院の現役医師)

 6月下旬、小松氏は亀田理事長の実弟で亀田病院院長の信介氏から厚労省からの圧力があったことを直接聞かされたという。信介氏からは「厚労省関係者から、補助金が配分されなくなるとほのめかされた」と説明があり、メルマガで行政批判をしないよう懇願された。

 補助金を“人質”にした厚労省の圧力。その構造については、別稿の東京大医科学研究所の上昌広特任教授へのインタビュー記事をご覧いただきたい。

 本誌は亀田病院に取材を申し込んだが、「個別の取材には応じられない」と拒否された。そこで、亀田理事長を直撃したが、「裁判をすればはっきりすること。(厚労省の圧力は)全く関係なく、民間企業の普通の就業規則違反というだけのこと」と語るのみだった。海外在勤中のくだんの医系技官にもメールで事実確認を求めたが、10月30日時点で返答はない。

「私の懲戒解雇処分の背景には、厚労省による補助金行政の歪(ゆが)みがあるのは明らかです。医療機関が補助金頼みの依存体質に陥れば、差配する役所の権限が必要以上に大きくなり、利権や癒着の温床になってしまう。亀田病院は安房地域の医療の要。今後に不安を覚えます」(小松氏)

 被災地支援活動などが話題になり、亀田病院での臨床研修希望者は大幅に増えた。小松氏が目指した「地域医療の再生」が実現間近だったにもかかわらず、厚労省の横やりで頓挫した。厚労省のゴーマンは地方医療再生の足かせとなっているのではないだろうか。

(本誌・竹田直人/本田晋作)