(教えて!医療事故調査制度:1)「予期しない死亡」が対象

2015.10.29

(教えて!医療事故調査制度:1)「予期しない死亡」が対象
2015.10.28朝日新聞



 第三者機関が医療事故の原因究明と再発防止を図る「医療事故調査制度」が今月1日から始まりました。万が一、大切な家族を医療事故で失ったときに、どうすればよいのでしょうか。制度の仕組みと課題をシリーズで読み解きます。


 「いろんな問題はあるが、医療界とともに国民から信頼される制度となるようこれからも役立ちたい」

 1999年に東京都立広尾病院で妻を医療ミスで亡くし、制度創設を求める活動を続けてきた永井裕之さん(74)は今月2日、厚生労働省での会見で思いを語った。

 制度は昨年6月に成立した地域医療・介護推進法に盛り込まれた。調査の対象となるのは、診察や検査、治療といった医療に起因(疑いも含む)する「予期しない死亡と死産」だ。意識不明といった重体のケースや生涯抱える後遺症は対象にならない。全国に約18万あるすべての医療機関・助産所で10月1日以降に起きたものが対象だ。

 仕組みはこうだ。病院など医療機関の院長が「予期しない死亡」が起きたと判断した場合、第三者機関の「医療事故調査・支援センター」に届けて院内調査をし、結果を遺族とセンターに報告。遺族らが結果に納得できなければ、センターに調査を依頼し、センターが独自調査をして、それを遺族と医療機関に報告する。

 届け出は年1千~2千件と推定されている。センターは、得られた情報を集め、事故の共通点を探り、再発防止策を様々な医療機関に知らせる。防止策が病院などの医療機関に浸透しているかも調査する。


 ■実施は医療機関側が判断

 ただ、医療機関側が医療事故でないと判断すると、事故調査は始まらない。遺族側からセンターに届け出ることはできない。医療機関側が自らに都合よく解釈して、調査しないのではないかと、遺族側は懸念する。昨年11月に発覚した群馬大病院(前橋市)で腹腔(ふくくう)鏡による肝臓切除手術を受けた患者8人が死亡した事故では、死亡してから事故だったと知るまでに数年もかかった遺族もいた。

 そこで、厚労省は医療機関側が恣意(しい)的な判断をしないように、「予期しない死亡」について、(1)事前に患者らに死亡リスクを説明(インフォームド・コンセント)(2)カルテなどに死亡リスクを記録(3)担当医らから事情を聴き、院長が死亡が予期されたと認定――のいずれも該当しない場合と定義した。

 (3)は救急などの緊急時に説明や記録をする時間がない場合を想定。(1)と(2)については、「高齢のため何が起きるかわかりません」といった一般論ではなく患者の病状を踏まえて言及していなければならない、と厚労省の担当者は説明する。

 だが、判断するのはあくまで医療機関側だ。

 東京都看護協会の嶋森好子会長は「不可解なことがあったら、患者側から病院側に説明を求めてほしい」と助言する。結果に納得がいかず、事故調査を望む場合は、主治医のほか、担当の看護師や看護師長らを経由し、院長に求めることも有効だという。「自分や家族が受ける治療に、どのような危険があるか、日ごろから医師に細かく説明してもらうことも大事」

 永井さんが代表を務める「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」は今月、遺族のための相談窓口を設置した。電子メール(info@genkoku.net)などで相談を受け付ける。自身の体験をもとに、医療機関側と交渉する方法を助言する。医療機関の対応に疑問を抱く医療者から情報提供を受け付ける窓口(kan-iren-info@yahoogroups.jp)も設けた。

 永井さんは「遺族は納得するためにも、医療機関に調査をしてほしいと願う。事故から時間がたてばたつほど、対応は難しくなるので、疑問を感じたらすぐに相談してほしい」と話している。

 (富田洸平、桜井林太郎)