医師の目線 検証・医療事故調査制度 // 過剰防衛させぬ環境必要

2015.09.30

=医師の目線 検証・医療事故調査制度=藤田保健衛生大医学部救急総合内科教授 岩田 充永(42) 過剰防衛させぬ環境必要
2015.09.29 佐賀新聞

 藤田保健衛生大病院(愛知)には年間約8500台の救急車が患者を搬送してくる。救急患者として自ら病院に来る人も約1万5千人に上る。けがでも病気でも、症状が重くても軽くても、24時間態勢で全ての科の初期診療を行うのが救急医療だ。

 国の方針もあり、研修中の若い医師も多いが、指導する医師は不足している。そんな中、「大丈夫だ」と思って帰宅させた患者の容体が急変したり、注射などによって合併症が発生したりすることもある。死亡も含め患者に不幸な事態が生じたら、現場の責任者として患者側に謝罪し、包み隠さず経緯を説明するようにしてきた。

 つまり医療事故調査制度が始まっても、救命救急の医師として実践してきたことは変わらない、というのが私の実感だ。

 私たちの病院では、事故やニアミスが起きると院内の安全管理室に報告する。事例によっては医療者への聞き取りが行われ、外部委員も招いて問題点が検証される。新制度は院内調査の実施を求めているが、これも基本的には従来の取り組みと同じ。結果を第三者機関である調査・支援センターに報告するくらいしか変化はなく、現場が過敏に受け止める必要はないと考えている。

 結局、調査制度がうまく運用されるかどうかは職場次第だ。事故に直面すると当事者はすごく落ち込み反省するが、一方で自己防衛の感情も出てくる。「上司から怒られる」「訴訟に発展し、逮捕されるかも」。そのような思いが過剰になると、事実を語ることや謝罪に抵抗感が生まれる。

 こうした状況を招かないために、医療機関は医療者個人に責任を押しつけず、部署や組織全体の問題として受け止め、改善策を練るべきだ。医療者も普段から安全管理室と意思疎通を図り、聞き取り調査は自分たちを守るために行われると理解することが大切。そうすれば現場からスムーズに報告が上がるだろう。

 一方、院内調査の報告を受けて情報の整理、分析を行う調査・支援センターには、患者だけでなく医療機関にも信頼される組織であるよう望む。救急医療では一部の施設を除いて24時間万全の態勢を取ることは困難で、当直の医師に専門外の高度な治療まで求めることはできない。現場の実情を把握し「他の病院に転送しようにも周辺の施設は限られる。地域医療の現状はどうなっているのか」といった視点を持ち合わせてほしい。

 さらに、制度の大きな目的は再発防止にあるはずなので、センターに集まる事例を全国の医療機関で共有すべきだ。これまでは裁判で判決が出るなどしなければ表面化しなかったが、医療機関名は匿名にし「救急医療」といったキーワードで検索できるようなシステムを構築するよう願う。


 ■いわた・みつなが 愛知県出身。名古屋掖済会病院救命救急センターなどを経て、2014年から現職。