医師不足、一転「過剰」も 東北医科薬科大、来春スタート /東北・共通

2015.09.09

医師不足、一転「過剰」も 東北医科薬科大、来春スタート /東北・共通
2015.09.08 朝日新聞


 東北で7番目の医学部が来年4月、仙台市の東北薬科大にできる。医学部新設は国内では37年ぶりで、東北の医師不足解消の期待を背負って船出する。一方、医師の偏在を解消できず、都市部での医師過剰を招くことを心配する声もある。


 仙台市青葉区の東北薬科大で8月1、2日にあったオープンキャンパス。今年は薬学部に加え、医学部志望の高校生らの姿もあった。

 「東北医科薬科大」という来春からの大学名を掲げた医学部コーナーには、約90人が列をなし、カリキュラムや学費、卒業後の進路などの説明を熱心に聴いた。震災を経験した仙台市内の高校3年の女子生徒(18)は「災害医療、特に心のケアの医者になりたい」と話した。

 この日は、兵庫県や神奈川県など遠方から訪れた人もいた。河合塾仙台校は「試験日が異なる国立大との併願も可能で、首都圏からも多くの受験生が挑んでくる。地方国立大並みのハイレベルの競争になる」とみる。

 1979年の琉球大以来37年ぶりの医学部を開設する東北薬科大は、震災復興と地域医療の充実を使命に掲げる。


 ■半数超が「地域枠」

 ただ、地方の医学部共通の悩みとして、大都市からの入学者が大学がある地域に残らず、出身地に帰ることを心配する声がある。そこで、東北薬科大は、定員100人のうち55人を「地域枠」として入学させる。

 地域枠は、地域医療の担い手確保のため、すでに各地の医学部が導入している。卒業後、指定する地元の医療機関に一定期間勤める約束で、「一般枠」とは別に入学させる仕組みだ。入学後、大学や県が設けた奨学金の返済免除の条件として、同様に地元で一定期間働いてもらう制度もある。

 東北の6医学部で地域枠は年々増えている。2007年度は入学定員計560人のうち38人(7%)だったが、15年度は定員781人中255人(33%)を占めた。

 東北薬科大では、各県指定の医療機関で8~12年勤務すれば県や大学が貸与する奨学金2600万~3千万円の返済を免除する。6年間の学費3400万円が国立大を少し上回る400万~800万円程度の負担に減る。宮城県で30人、他の5県で最大25人の地域枠を予定する。

 5県の奨学金は、他大の医学生も対象とする従来の制度を利用する。例年、募集人数分がすべては埋まっていないことなどから、「東北薬科大の枠は確保できそう」(同大)という。

 しかし、入学が決まった後にある各県の奨学金への応募が想定以上に多くなると、大学の奨学金1500万円がもらえるだけで県からは貸与されない恐れも。宮城県に定着する医師ばかり増え、かえって医師の偏在が進まないか心配する声もある。

 8月下旬、文部科学省に対し医学部設置を認める答申をした審議会は、留意事項として地域枠の運用を上げ、「地域への医師定着や震災復興など、医学部新設の経緯や趣旨を損なわないように」とクギを刺した。


 ■人材引きあげ懸念

 医学部には約180人の教員が所属する見込みで、6月末時点で採用が固まった174人のうち、43人は東北薬科大病院から移り、残る131人中91人は東北で働く医師。このうち東北大に籍を置く人が64人で、臨床医は46人を数える。

 東北大は付属の病院に44の診療科を持つ。下瀬川徹・医学部長は「一つの科で1人程度。問題ない」という。一方、岩手医科大の小川彰学長は、以前から各地に医師を派遣してきた東北大が与える影響を心配する。

 「医学部の教授や准教授といったポストに医師が応募する気持ちは理解できる。ただその結果、欠員補充のために玉突き的に派遣先から医師を引きあげる動きが出ないとも限らない」

 来春入学する医学部1期生が卒業後、2年の初期臨床研修を終えて独り立ちするのは2024年。団塊の世代が75歳以上になり、医療・介護の提供が追いつかなくなる「2025年問題」の時期と一致する。

 だが、その後は人口減少にともなって医師過剰の時代がやってくる。医師不足の深刻化を受けて、政府が07年度まで7625人に抑制していた全国の医学部の定員を翌年度から年々増やし、15年度には9134人まで伸ばすなどした結果だ。

 新医学部は、地域医療の救世主となるのか、医師過剰時代に苦難の道を歩むのか。小川学長はこう語る。「その評価は、10年後やその先を冷静に見て考える必要がある」

 (森治文)