医療行政の舞台裏◎中医協での議論のホントのところ

2015.08.18

医療行政の舞台裏◎中医協での議論のホントのところ

「在宅専門診療所」が来春解禁へ?


2015/8/10

庄子育子=医療局編集委員 
 





 「訪問専門の診療所解禁、厚労省、在宅医療後押し」──。7月10日付の日本経済新聞1面トップに、こんな見出しの記事が載った。厚生労働省が来年4月をめどに、在宅医療を専門に行う診療所の開設を認める方針であるという記事だった。

 実はこのテーマは、今年3月に開かれた中央社会保険医療協議会で一度、議論の俎上に載っている。今回の報道内容は、その際に厚労省が示した資料の範囲を出ないものであり、特に目新しい点はない。だが、そのときの中医協での議論は非常に興味深い展開をたどったので、改めて振り返る形で紹介したい。

 3月18日の中医協総会に、厚労省は「在宅医療を行う医療機関について(案)」という1枚のペーパーを提示した。近年、在宅医療を主力業務とする診療所は珍しくなくなったが、その場合も、外来診療を行わずに往診と訪問診療のみを手掛けることは認められていない。この規制を緩和して、一定の条件を満たす場合には在宅専門の診療所を認めようというのが上記のペーパーの趣旨だった。

 その条件とは、(1)被保険者が容易に相談できる体制と、緊急時も含め容易に連絡が取れる体制を確保する、(2)往診および訪問診療を地理的に区分された提供地域内で行うとともに、当該地域をあらかじめ明示し、その範囲内の被保険者については正当な理由なく診療を拒否しない─ことの2つ。

 ところが、このペーパーの文面は、厚労省が中医協に示す文書としては極めて異例だった。在宅専門の診療所を認める要件を提案する形ではなく、要件を満たせば在宅専門診療所を認めると結論付ける表現となっていたのだ。

 本来であれば中医協では、在宅医療専門の医療機関をどのように位置付けるかといった議論を一通りした上で、それを担保するために厚労省が提案する要件が妥当かどうかを詰める作業を行う。だが、この件に限っては、そうした手順は一切踏まれなかった。

 もっとも厚労省にしてみれば、こうしたやり方を取らざるを得ない事情があった。政府が2014年6月に閣議決定した規制改革実施計画が、「在宅診療を主として行う診療所の開設要件の明確化」について2014年度中に結論を出すよう求めていたのだ。官邸の力が強まっている状況の中、厚労省としては、閣議決定された計画の未達成という「失点」は避けたいところ。3月18日の中医協は年度内の最後の開催であり、ここで結論を出す必要があった。

 だが、中医協委員からは案の定、反発の声が上がった。「今の在宅医療の問題点などを示すことがないまま、いきなり結論だけを出してくるやり方は到底、承服できない」。支払側委員の白川修二氏(健康保険組合連合会副会長)は、こう色をなして反対した。

 一方、この手の厚労省による中医協「軽視」の姿勢に、いつもなら厳しく当たる診療側委員はこの日、意外なほどあっさりとした対応に終始した。診療側委員の中川俊男氏(日本医師会副会長)は、「確かに時間的制約のある中で議論すべき事項ではないため、仕切り直しをお願いしたい」と注文を付けるにとどまった。

 中医協で議論する内容については、前日までに厚労官僚から各委員に事前レクチャーが行われ、時にはその場で根回しや調整が進められる。中医協当日のやり取りを見る限り、在宅医療専門診療所解禁の要件に関しては、厚労省と日医の間で話がついていた可能性が高い。この件に関しては、支払側委員は蚊帳の外に置かれていたというのが実情だろう。

 3月の中医協では結局、必要な追加データをそろえた上で引き続き検討していくことになった。だが、上記の経緯を見る限り、結論はほぼ先のペーパー通りになるとみて間違いない。