(迫る2025ショック)県内医療・介護、将来は 日本創成会議「地方移住」提言/神奈川県

2015.08.17

(迫る2025ショック)県内医療・介護、将来は 日本創成会議「地方移住」提言/神奈川県
2015.08.15 朝日新聞



 民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)が6月に発表した首都圏の高齢化問題への提言=キーワード=は、地方移住を盛りこみ大きな話題を呼んだ。移住先を考える「指標」として、全国の医療・介護の余力を調べる作業を担った高橋泰・国際医療福祉大大学院教授に神奈川の将来像や移住への考えを聞いた。


 ■高橋泰・国際医療福祉大大学院教授に聞く

 ――発表の狙いは何ですか。

 利用者目線に近い形で、自分が住む地域は将来、医療や介護が大丈夫かどうかを評価出来る指標を作りたかった。自分にとってどこが最適な土地か、移住を意識して、数値化して出した最初の例だと思います。このものさしが良い悪いの議論はありますが、ないと議論が進まない。

 ――神奈川をどう評価しますか。

 病院と診療所の医師数の合計では、人口10万に対し、全国平均は254人で、神奈川は239人。埼玉(179人)や千葉(197人)に比べ、医者は多い。ただ、高齢者の増え方が激しい。現在は介護は余力があるが、今後の高齢者の増え方は尋常じゃない。横浜北部は良い病院も多いし、川崎南部は昔から病院がある。今は充実しているが、人口が多いだけに老いていくと大変なことになる。

 今まで起きたことがないことが東京周辺で起きるわけで、その余波は考えている以上にきついんじゃないかと。

 ――危機回避策の一つに移住を挙げましたが、希望する人はいますか。

 これまで私から人口や医療に関するデータの提供を受け、分析した複数のメディアのスタッフが「退職後、地元に戻る」と言い始めました。今年の5月に私のおばが、相模原の家を売却して金沢に移住しました。自らデータを解析したり、東京圏の医療介護の状況を勉強したりすると、東京圏のリスクの大きさや医療介護の地方の格差が分かり、自発的に移住を考える人が少なくないようです。

 ――縁もない場所に住めないとの批判もあります。黒岩祐治知事は「違和感がある」と反論しています。

 強制移住じゃなく、移った方がより良い人生を送れると考える人が移ればよいということです。横浜の価値観が好きで、先祖代々という人はそれでいいわけです。

 黒岩知事と私の差は、神奈川の後期高齢者の増え方をどのように捉えられているかの差だと思います。埼玉や千葉に比べると、神奈川の現状はまだ恵まれています。だから、現状を見ている知事がそういうことを言うのは分かりますが、データを分析をすると、そう安泰じゃないと思います。

 ――今後、行政に必要な取り組みは何でしょうか。

 今回の発表は、魅力的な街を作り、人が寄って来るところは生き残るが、住みづらい地域は生き残りが難しくなるというメッセージなんです。

 石川県に川北町という町があります。そこは(昨年の日本創成会議の発表で)2040年の若年女性人口増加率が日本一です。子育てしやすく、あそこに行ったらいいと評判です。川北みたいな町になれば生き残るんです。

 ここはいい街なので来て下さいと、早く手をあげて、整備したところはたぶん生き残ります。だけど、ネガティブなところは沈むんじゃないでしょうか。

 (聞き手・佐藤陽、岩尾真宏)


 ■介護ベッド、地域で差 県外からの流入で不足も

 緊急性や重症度が高い患者に対応できる能力を示す「急性期医療レベル」は、川崎南部と湘南西部が、全国平均レベルの「レベル5」だったが、残りの9医療圏は、平均より少ない「レベル4」だった。

 2040年に介護ベッドの余裕がどの程度あるかを示す介護ベッド準備レベルをみると、11医療圏でレベル2~6と開きが出た。県西が最も余裕があり、横浜西部、横須賀・三浦が続く。一方、横浜南部や湘南東部、県央は最も不足していた。横浜市内の3医療圏では、西部は比較的余裕があるが、北部と南部は、かなり不足する予測だ。

 2015年と比べた25年の介護入所施設の収容能力(ベッド数)は、横浜西部、川崎北部、県西を除く8医療圏で、1410~7301床マイナスになる予測。介護ベッド準備レベルなどで、比較的余裕のある数字が出ていても、今後、介護施設が圧倒的に足りない東京都などから高齢者が流入してくる可能性が高い。


 ■病床数1万床増、必要 在宅患者、最大で倍に 県推計

 団塊世代が75歳以上になる2025年に向け、県は医療需要や目指すべき医療提供体制を記す「地域医療構想」の策定を始めた。まず25年の必要病床数や在宅医療患者数を推計し公表した。これらのデータなどを基に、県はどんな施策が必要かなどの議論を進める。

 7月30日、横浜市内で開かれた県保健医療計画推進会議で、地域医療構想に関する議論が始まった。県医療課から、初めて25年の必要病床数と在宅医療患者数が示された。レセプト(診療報酬明細書)のデータや将来の人口推計などを厚生労働省の計算式にあてはめ、県が推計した。

 25年の必要病床数は、14年に比べ約1万900床多い約7万2200床。(1)高度急性期(ICU=集中治療室=など)(2)急性期(手術直後など)(3)回復期(リハビリテーション)(4)慢性期(長期療養)といった機能別にみると、高度急性期や急性期を減らし、回復期を約1万6500床増やす必要があるとの結果が出た=グラフ。中でも横浜市は約6900床増やさないといけない。土地や人材を確保できるかが課題になる。

 今後焦点になるのは、神奈川と周辺の都県との患者の流出入をどう考えるかだ。例えば、横浜市から都内の病院に通うケースは少なくないが、できるだけ県内で完結するようにするか。それによって必要な病床数も変わってくるからだ。県の担当者は「今後、東京都などと調整するが、現段階ではどちらの考え方をとるかは白紙」という。

 一方、25年の在宅医療患者数の見込みは、この10年で約1・7倍に急増することもわかった。最も高いのは相模原市で、2・1倍に増える予想が出た。県央が約1・9倍、川崎北部が約1・8倍だった=表。

 県は、こうしたデータを基に、各地域の実情も加味しながら、来年10月ごろまでに構想を策定する。大まかに(1)25年の医療需要(2)目指すべき医療提供体制の実現に向けた課題(3)その体制を実現するための施策、からなる。11の医療圏ごとの構想も盛り込む。昨年成立した地域医療・介護推進法で、都道府県に構想策定が義務づけられた。

 県医療課の担当者は「既に病院の中には、積極的なリハビリで在宅復帰を促す『地域包括ケア病棟』(回復期病棟の一種)をつくる動きが出ている。県も、急性期から回復期に病棟を転換するためのハード面の補助や、リハビリ人材の育成などソフト面の支援をしていきたい」と話している。(佐藤陽)


 ◆キーワード

 <日本創成会議の提言> 東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)は急速に高齢化が進み、今後10年間で後期高齢者が175万人増加し、介護需要は45%増加する。施設を高齢者が奪い合う事態になるとし、こうした事態への「危機回避戦略」を打ち出した。戦略では「お試し移住」支援など、東京圏の高齢者の地方移住の促進▽利便性の高い地域への集住促進▽医療介護拠点への転用などの空き家の有効活用▽医療・介護サービスでのロボット活用などを提言。具体的な移住先として、医療・介護に余力のある26道府県の全国41地域を挙げた。


 ■県内の医療・介護の余力(1~7段階)と2025年の収容能力(▲はマイナス)

 ◇医療圏(区市町村名)

 急性期医療レベル

 介護ベット準備レベル

 2015年と比べた25年の介護入所施設の収容能力(ベッド数)

     *

 ◇横浜北部(鶴見区、神奈川区、港北区、緑区、青葉区、都筑区)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:3

 収容能力(ベッド数):▲3438


 ◇横浜西部(西区、保土ケ谷区、戸塚区、旭区、瀬谷区、泉区)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:5

 収容能力(ベッド数):748


 ◇横浜南部(中区、南区、磯子区、金沢区、港南区、栄区)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:2

 収容能力(ベッド数):▲7301


 ◇川崎北部(高津区、多摩区、宮前区、麻生区)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:4

 収容能力(ベッド数):941


 ◇川崎南部(川崎区、幸区、中原区)

 急性期医療レベル  :5

 介護ベット準備レベル:3

 収容能力(ベッド数):▲1425


 ◇横須賀・三浦(横須賀市、鎌倉市、逗子市、三浦市、葉山町)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:5

 収容能力(ベッド数):▲1410


 ◇湘南東部(藤沢市、茅ケ崎市、寒川町)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:2

 収容能力(ベッド数):▲3186


 ◇湘南西部(平塚市、秦野市、伊勢原市、大磯町、二宮町)

 急性期医療レベル  :5

 介護ベット準備レベル:4

 収容能力(ベッド数):▲1852


 ◇県央(厚木市、大和市、海老名市、座間市、綾瀬市、愛川町、清川村)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:2

 収容能力(ベッド数):▲3920


 ◇相模原(相模原市)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:3

 収容能力(ベッド数):▲2489


 ◇県西(小田原市、南足柄市、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町、箱根町、真鶴町、湯河原町)

 急性期医療レベル  :4

 介護ベット準備レベル:6

 収容能力(ベッド数):283

 <日本創成会議の資料を基に作成。レベルは数が高いほど余力があることを示す。急性期医療レベルは全身麻酔の実績や、病院への移動時間をもとに算出。介護ベッド準備レベルは2015年の75歳1千人に対する介護ベッド数の全国平均(81床)を基準とし、現在の介護数などから出した。>


 ■医療・介護の受け入れ余力のある地域

 北海道  旭川市、函館市、釧路市、帯広市、北見市、室蘭市

 青森県  青森市、弘前市 岩手県 盛岡市

 秋田県  秋田市

 山形県  山形市

 新潟県  上越市

 富山県  富山市、高岡市

 石川県  金沢市

 福井県  福井市

 京都府  福知山市

 和歌山県 和歌山市

 鳥取県  鳥取市、米子市

 島根県  松江市

 岡山県  岡山市

 山口県  山口市、下関市、宇部市

 徳島県  徳島市

 香川県  高松市、三豊市、坂出市

 愛媛県  松山市、新居浜市

 高知県  高知市

 福岡県  北九州市、大牟田市

 佐賀県  鳥栖市

 長崎県  長崎市

 熊本県  熊本市、八代市

 大分県  別府市

 鹿児島県 鹿児島市

 沖縄県  宮古島市

 (日本創成会議の資料に基づく。過疎地域は対象外。)


 ■2025年の在宅医療患者数の推計

 医療圏   2013年度(人) 25年(人) 増加率(%)

 横浜北部     14909  26738    179

 横浜西部      8068  13877    172

 横浜南部      8658  14058    162

 川崎北部      8013  14721    183

 川崎南部      5808   8818    151

 横須賀・三浦    9908  14252    143

 湘南東部      7150  11898    166

 湘南西部      5324   9348    175

 県央        6826  12705    186

 相模原       4853  10189    210

 県西        4251   6689    157

 合計       83773 143299    171

 (厚労省の計算式に基づき県が試算。東京都などとの患者の流出入が現行のまま継続すると仮定した推計値。小数点以下は切り捨て。そのため合計数が合わない)