■アングル2015  県内求人倍率 最高更新中  景気回復の実感なき上昇 実態は少子高齢化?  介護、医療、建設... 「若者が誰も来ない」

2015.07.31


■アングル2015  県内求人倍率 最高更新中  景気回復の実感なき上昇 実態は少子高齢化?  介護、医療、建設… 「若者が誰も来ない」
2015.07.25 夕刊 1頁 夕政1  
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 県内の有効求人倍率が過去最高を更新し続け、1倍に近づいている。景気回復の実感が乏しい中での上昇。働く現場で何が起きているのか。(片岡昭夫、福田一昂)

 この6月、衝撃的な数字が示された。

 「経済センサス」と呼ばれる統計の速報値がそれ。2014年の県内就労者が5年前に比べ、32万2993人と6200人余り減った。その中にあって「医療・福祉」は1万人余り増の約6万4千人。ほとんどの産業分野で働く人が急速に減る中、病院や介護の職場だけは増えている、というのだ。

 これはどういうことだろう。有効求人倍率の上昇=グラフ参照=と、どう関係しているのだろうか。

 香美市の介護施設で副施設長を務める佐井健二さん(44)を訪ねた。県介護福祉士会の会長でもある。

 「今は『街を歩いたらコンビニかデイサービスに当たる』と言われるぐらいですから」。それほどまでに介護事業所が増えた、という意味だ。この4月時点で1492。過去5年間で実に200余りの増加だ。

 「職員が少ないのはどこも同じです。特に若手。少子化が進む中で、少ないパイの奪い合いですよ」

 若者が足りない、の声は介護の世界では当たり前になってきた。

 高知市にある介護施設の男性施設長(65)の話。

 「業界の将来のため若い人を採用したいが、応募はあまりありません。結果、パートが増える。現場のリーダーや管理職の育成が急務なんですが」

 店舗の増加で人手不足が際立っているコンビニ業界でも「何年も募集しっぱなし。最近はもうほぼ若い人は来ません」(高知市内の40代男性経営者)という声が消えない。

  ■上位は福祉やコンビニ

 高知県の有効求人倍率は10年後半から上昇軌道に乗った。13年10月には0・77倍と22年ぶりに過去最高を更新し、14年度は0・8倍台で推移。この4月は0・92倍、5月には0・96倍と順調に改善が進む。

 一方で、「好景気の実感なき倍率上昇」に首をかしげる人も少なくない。

 高知労働局の佐井克好職業安定課長も慎重だった。

 「確かに有効求人倍率は景気の指標の一つです。しかし、高知では好景気の実感は薄い。なぜこうした動きになるのか、はっきりとはつかめていません」

 実は、県内の求人は「医療・福祉」と、コンビニに代表される「卸・小売り」が圧倒的に多い。

 人口の減少につれ、働き手(労働力人口)も減る。その半面、高齢化の進展で病院や介護の職場が増えている。つまり、少子高齢化が生む人手不足こそ倍率上昇の“正体”ではないか。

  ■全国規模で人材争奪

 医療機関では、特に看護師が足りない。全国的な人材の争奪戦なのだという。

 高知市の医療法人「近森会」はこの春、長期的な人材確保のため看護学校を創設した。待遇改善も進め、正看護師の年収は新卒で400万円超。それでも、県外や公立病院に人は流れる。

 県内勤務を望む看護師も高知市近辺に集中する。郡部はもっと大変だ。

 田野病院(安芸郡田野町)の吉松誠爾事務長(41)は語る。

 「東部には看護師養成機関がありません。高知市の学校にも東部出身の生徒がいない。すごいですよ(人材の)偏在は」

 ハローワークを通した看護師の就職はここ数年、1件もない。求人広告を出しても反応はほとんどない。学生への奨学金支給で新卒者を年1、2人確保しているほかは、県外の職業紹介業者を通じて、何とか人手を確保する。

 急場をしのぐため、半年契約で県外から来てもらう看護師も増えたという。

 「高知の新卒看護師は4割が県外に出るんです。雇用の場は高知にあるのに」

  ■10年後は「大ごと」に

 求人の伸びが目立つ「建設」も事情は同様だ。

 高知市内で土木建設会社を営む男性(47)は「仕事はいっぱいあるが、設計する人がいない。応札を頼まれても断っている状況。技術者の引き抜きもあり本当に苦しい」と頭を抱える。

 高知市の尾崎建設も訪ねた。敷地にトラック数台。その奥の事務所で、尾崎盛裕社長(58)は力説した。

 「公共事業が落ち込み続けた時期、倒産や事業縮小をした県内大手では、若手がほとんど他業種へ移りました。『失われた20年』の影響は本当に大きい」

 そこに東日本大震災があり、復興、防災事業が急増。一気に人手不足に陥った。

 「もう有資格者や技術者は限られた数しかいない。未経験でも若手を採用したいけど…」

 社員15人の大半は50歳以上だ。コンビニや医療・福祉と同じで、募集を続けても若者は来ない。技術者の育成を考えると、「先は本当に暗い。もう10年たったら大ごとになる」と言う。

 求人倍率の上昇は「大ごと」の前兆かもしれない。