人口減福井 県内産科医 減少続く

2015.07.29

◎人口減ふくい 県内産科医 減少続く 過酷さ背景、平均60歳超 進む晩婚化 高リスク 人材不足拍車 10年後 地域格差深刻に 県、医療機関支援へ
2015.07.28 福井新聞


お産を扱う産科医が県内で減っている。2004年には82人だったが、14年には68人に、出産取扱機関も27施設から19施設に減った。奥越では07年以降、ゼロの状態が続いている。産科開業医の平均年齢は60歳を超え、後継者不足も深刻だ。加えて女性の初婚年齢は上がり、医師にとっては出産と訴訟両方のリスクが高く、人材不足に拍車をかけている。(堀英彦)


  ■お金で示談に■

 「開業医になってから、外泊は一度もない」。県内の産科医、小林春樹さん=仮名=は言う。妊婦の体調が急変したときに即対応しなければならないからだ。連休を取るには、医師を雇う必要があるが「どこの病院より給料を高くしても、リスクが高く、なり手はいない」。家族旅行は夢のまた夢だという。

 あるとき、近くの助産所から、体調が急変した妊婦が運ばれてきた。この時点で死産は確定的だったが、すぐに総合病院に搬送した。結局、妊婦は子宮破裂で子宮を摘出。妊婦側は現在、訴訟の動きをみせているという。小林さんは「自分は適切な対処をしたと確信している。でも裁判になるぐらいなら、数百万円払ってでも示談にしたい。忙しい中での裁判は耐えられない。評判だって気になる」と打ち明けた。

 小さな命を失ったときの家族の失望は計り知れない。だから、医師としての仕事をまっとうしても納得してもらえないことがある。小林さんは「もう分娩(ぶんべん)はやめようかなと思うときもある」と話す。

 13年に改訂された県医療計画では、県内の産科開業医の平均年齢は63歳で「分娩取扱医療機関は今後さらに減少することが懸念される」と指摘している。

  ■高齢出産増加■

 女性の初婚年齢は上昇傾向にある。13年の県内女性の平均は28・7歳で、95年比で2・8歳アップ。これに伴い第1子の平均出産年齢は27歳から30歳に上がった。

 13年版厚生労働白書によると、女性の自然妊娠力は30歳ごろから低下し、35歳前後からは流産率も上昇。妊娠高血圧症候群など、妊娠・出産のリスクも高くなる。

 県は04年、リスクの高い妊婦や新生児に、高度で専門的な医療を提供する総合周産期母子医療センターとして、県立病院を指定した。数百グラムの低体重児などを受け入れる新生児集中治療管理室(NICU)は11床備える。小さな体の新生児の心拍数などは24時間チェックされ、1人の新生児を、複数の看護師が担当する。

 現在、産科医は8人だが、同病院母子医療センターの野坂和彦センター長(60)はそれでも「医師の数は足りない」。精神的にも肉体的にもつらい仕事だけに、人材確保はままならない状態が続く。

 県内には産科医療の中核となる周産期母子医療センターが7病院ある。これらの病院で出産する割合は06年度は36・5%だったが、13年度には44・2%と、大幅に上昇した。

 野坂センター長は「産科医不足の中、出産は中核の病院に集約されていくだろう」と見通す。


10年後 地域格差深刻に


県、医療機関支援へ


 日本産科婦人科学会は昨年11月、お産を扱う産科医の数が10年後に、26府県で減少するとの試算を公表。東京都や大阪府は増えるが、本県はほぼ横ばい。一方で石川や福島など11県は10%以上減り、地域格差が深刻化すると予測した。「状況は極めて危機的」との認識だ。

 県は15年度の新規事業として、胎児の画像を立体的に見られる超音波診断装置などを、地域の医療機関に整備するため、6月補正予算で5319万円を計上。県地域医療課は「出産リスクに備えることで、身近な病院、診療所で安心して出産できる環境を整えたい」と話す。

 女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す14年の全国の合計特殊出生率は1・42。本県は平均よりやや高いが1・55にとどまる。昨年末に政府がまとめた「長期ビジョン」は、出生率が30年に1・8程度、40年に2・07程度上昇すれば、60年に人口1億人を維持できるとしている。

 一方、同学会は昨年12月、「都道府県は(中略)産婦人科新規専攻医の増加のための施策を緊急に実施すること」などを求める緊急提言を発表した。

 野坂センター長は「国として人口増に取り組むのであれば、当然産科の医師数を増やす必要がある。産科医の人材確保には、社会のパラダイム(価値観)が変わらなければならない」と訴える。

福井新聞社