(時時刻刻)介護保険、負担増の夏 利用料引き上げ・絞られる施設補助

2015.07.21

(時時刻刻)介護保険、負担増の夏 利用料引き上げ・絞られる施設補助
2015.07.20 朝日新聞



 介護保険の制度改正による負担増が8月から始まる。今回は一定の所得や資産がある高齢者が対象になり、サービスに対する自己負担が初めて引き上がる。現場には懸念が広がるが、介護にかかる費用は膨れる一方で、さらなる負担増の足音も迫っている。


 ■「入居費が倍、生活破壊」

 名古屋市は今月上旬、介護や支援が必要だと認定されている約10万人に「介護保険負担割合証」を送り始めた。サービス利用時の自己負担割合を知らせるもので、65歳以上で一定の所得があれば8月から1割が2割になる。同市では約1万3千人が2割負担の見込みという。負担割合証の発送は横浜市や東京都世田谷区でも始まり、全自治体が月内の発送をめざしている。

 サービスの自己負担引き上げは、2000年度に介護保険制度が始まってから初めて。一人暮らしなら年金収入だけで年収280万円以上で2割負担になる。厚生労働省の推計では、在宅サービス利用者の15%、特別養護老人ホーム利用者の5%が対象となる。

 施設利用者への補助は対象が絞られる。今年5月、横浜市に住む80代男性の手元に特養の補助申請の書類が届いた。特養には認知症の妻が入居。書類にある質問に従って「はい」「いいえ」をたどると、補助対象に「非該当」とされた。

 これまでは補助で負担が軽減され、利用料の自己負担分と個室の部屋代、食費などの請求額は月7万円ほどだった。施設に聞くと、8月から14万円を超える見込みだという。「いきなり入居費が倍になるなんて。生活破壊ですよ」

 今回の見直しで、介護施設の部屋代や食費の補助が認定される条件が変わる。妻が特養に入居した際、男性は妻と住民票の世帯をわけた。男性は市民税を払うが、妻は男性とは別の非課税世帯とみなされ補助を受けてきた。8月からは、世帯が別でも入居者の配偶者が市区町村民税課税なら補助は受けられなくなる。

 この男性は元会社員で、使える年金額は毎月約20万円。妻の年金が約6万円あるが、男性は「夫婦とも持病があり医療費がかさむ」と話す。利用料が安い施設に移れるか問い合わせをしているが、入居待ちが多くて見通しは立たない。

 補助の認定を受けているのは13年度で約113万人。預貯金などの資産も新たな補助条件に加わり、非課税世帯でも一人暮らしで預貯金などが1千万円を超えると補助は受けられない。各地の自治体は補助申請の際に預貯金通帳の写しの提出を求めており、現場に戸惑いが広がっている。

 負担増への理解を求めるため、説明会を開く自治体もある。東京都東村山市は6月末に計2回、市民向けの説明会を開催。榎本文洋・高齢介護課長は「介護保険料も上がり、ダブルの負担増。丁寧な説明が必要だと考えた」と話す。各1時間ほどの説明会に計約60人が参加。会場では「制度なので仕方ないが負担はきつくなる」といった声があがった。預貯金の額を市に教えなければいけないのか、確認する質問も出た。

 東村山市のケアマネジャーはサービスの利用控えが心配だ。25人からケアプランの依頼を受けているが、少なくとも5人は2割負担になると見込む。負担増になりそうな高齢者からは「サービスの回数を減らすしかない」など不安の声がすでに寄せられている。何人かはプランを変更してサービス量を減らし、介護保険が適用されないサービスを代用せざるを得ない可能性もあるという。


 ■「ライフプラン、考え直す必要も」

 介護保険制度が始まった00年度は3兆6千億円だった介護保険の費用は膨らみ続け、14年度は10兆円になった。「団塊の世代」が75歳以上になる25年には約20兆円と、10年程度で倍増する試算だ。今回の制度改正は、昨年6月に成立した地域医療・介護推進法で定められた。

 同法では今年4月から段階的にサービスを縮小。介護の必要度が低い「要支援」向けの一部を介護保険から自治体事業に移していく。さらに8月の負担増は高齢者でも支払い能力に応じて払ってもらおうという「応能負担」の考え方に基づく。制度維持のための本格的な負担増が始まった。

 65歳以上の介護保険料は4月から全国平均で月額5514円となり、初めて5千円を突破。25年度には8千円を超す見込みだ。医療分野でも入院患者の食費など16年度以降に負担増が予定される。

 次の負担増を視野に入れた検討も動き出している。

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会は6月1日、介護保険の「2割負担」の対象者拡大を論点にする建議を出した。6月30日に政府が閣議決定した20年度までの財政健全化目標を盛り込んだ「骨太の方針」には、医療や介護について「負担能力に応じた公平な負担」が検討課題として盛り込まれた。

 こうした流れに対し、年金は実質的に目減りしていく。少子高齢化に伴い、物価が上昇しても年金の支給水準を抑える仕組みが4月に動き出した。厚生年金のモデル夫婦が受け取る年金の実質的な価値は、経済が成長した場合でも、約30年後に今より2割減ることが見込まれる。年金生活者だけでなく、一定の所得がある人でも家計への影響は軽視できない。

 高齢者の家計相談に応じるNPO法人「くらしとお金の学校」代表理事で、ファイナンシャルプランナーの長沼和子さんは「今回の改正は所得が『中の上』の人たちが狙い撃ちされた格好だ。今後、介護や医療の分野でこうした所得層の負担はますます重くなる可能性がある。改正を機に高齢期のライフプランを改めて考え直す必要が出てくるだろう」と指摘している。(森本美紀、立松真文、編集委員・清川卓史)