病床削減、地方困惑 「25年に1割」政府目標 医療機関は反発

2015.07.06

病床削減、地方困惑 「25年に1割」政府目標 医療機関は反発
2015.07.04朝日新聞



 2025年の医療提供体制を示す都道府県の「地域医療構想」づくりが本格化し始めた。政府は全国で入院ベッド数をいまの1割ほどにあたる16万~20万床削減できるという目標を公表した。だが、医療機関側の反発は強く、自治体も及び腰。患者がどこで暮らすことになるのか不透明だ。▼2面に「いちからわかる」


 日本医師会は2日、都道府県医師会の担当理事を集め、地域医療構想の研修会を開いた。横倉義武会長は政府の入院ベッド削減の目標公表を批判した。

 「地域の医療関係者や住民の方々が不安を持ったと思う。誤ったメッセージが政府や関係者から発信されないよう対応する」

 地域医療構想は、膨らみ続ける社会保障費の抑制のために在宅医療・介護を推進するのが狙い。都道府県が17年度までにつくらなければならないが、早くも医療機関側がクギを刺した。

 政府は高齢者らが長期入院する「療養病床」を介護施設に転換するよう病院側に促してきたが、一向に進まない。ある医療関係者は「介護施設は医師や看護師の人員配置基準が緩く、職を失う人が出る。転換には費用もかかる」と明かす。医師のプライドが転換の壁になっているとの指摘もある。厚生労働省は今後の療養病床のあり方の議論を近く始めることにした。

 一方、25年の目標を示した内閣官房の担当者は「都道府県が推計しても数値が大きくずれることは考えられない」とする。ただ、病院の8割を占める民間病院には削減を強制できない。鹿児島県の担当者は「病床削減は念頭にない。県に強制権限は何もない」と言い切る。北海道は4月に地域医療構想づくりの方針案をまとめ、5月にも決定する意向だったが、まだ関係者の意見調整がつかない。

 政府も揺れる。厚労省は、25年の目標について「削減しなければならないといった誤った考えにならないように」という担当課長名の通知を先月18日付で都道府県に出した。地方の医療機関から不安の声が相次いだためと説明する。

 2日の日医の研修会では、中川俊男副会長が「大変勇気のある紙を出してもらった」と評価し、出席した厚労省の担当課長の前で通知の全文を読み上げた。


 ■「家で面倒みられぬ」

 高知県は、人口10万人当たりの入院ベッド数が2473(13年度)と全国で最も多い。全国平均の2倍、最少の神奈川県の3倍だ。患者1人の平均入院日数は最長の約50日。1人当たり医療費(12年度)も最多の62万5千円で、全国平均を14万円近く上回る。

 高知市中心部の上町病院は、坂本龍馬の生家跡地に立つ。7階建ての中規模病院で、179床の入院ベッドはすべて療養病床だ。

 5月下旬、田中誠院長(70)がベッドで寝ている患者に声をかけて回っていた。反応はあまりない。8割が寝たきりで、多くが気管切開や胃ろうをしている。

 25年目標では、高知県は現在の1万6200床から少なくとも5千床削られ、その半分が療養病床だ。

 田村裕仁さん(41)は8年ほど前、自転車で出勤途中にトラックにひかれた。1年2カ月の間に約10回の手術を受けた。一命は取り留めたが意識は戻らず、上町病院に来たのは4年前。いまの状態なら田村さんは入院を続けられそうだというが、父親の琢三郎さん(70)は「ここで見てもらえるから私たちは安心して暮らせる。家で面倒をみるとなれば生活が維持できない」。

 病床削減に伴う患者の受け皿に政府が想定する介護施設の整備は遅れている。75歳以上の人口千人当たりの特別養護老人ホームの定員数は全国37位、有料老人ホームは45位だ。療養病床が高齢者を受け入れてきたことが背景にある。田中院長は「療養病床は高知県の文化。おじいちゃん、おばあちゃんを預けることで周りの人が仕事ができる。生活の基盤になってしまっている」と話す。(小泉浩樹)


 ■各都道府県の入院ベッド数と25年目標に必要な増減数(床)

     入院ベッド数(2013年) 25年目標に必要な増減数

 北海道       8万3600       ▼1万0300

 青森        1万6500         ▼4700

 岩手        1万5000         ▼4400

 宮城        2万1100         ▼2400

 秋田        1万2600         ▼3500

 山形        1万2000         ▼2700

 福島        2万1500         ▼6100

 茨城        2万7000         ▼5200

 栃木        1万8300         ▼2900

 群馬        2万1000         ▼3400

 埼玉        5万0600          3600

 千葉        4万7000          3000

 東京       10万8300          5500

 神奈川       6万2900          9400

 新潟        2万3100         ▼4900

 富山        1万4400         ▼4800

 石川        1万5900         ▼4000

 福井        1万0300         ▼2700

 山梨          9200         ▼2300

 長野        2万0400         ▼3600

 岐阜        1万8500         ▼3500

 静岡        3万4400         ▼7500

 愛知        5万9200         ▼1400

 三重        1万7300         ▼3600

 滋賀        1万2800         ▼1500

 京都        3万0300          ▼300

 大阪        9万1400        1万0100

 兵庫        5万6200         ▼3800

 奈良        1万4200         ▼1200

 和歌山       1万3100         ▼3600

 鳥取          7400         ▼1600

 島根          9200         ▼2800

 岡山        2万6100         ▼5900

 広島        3万5200         ▼6200

 山口        2万3400         ▼7600

 徳島        1万3300         ▼4200

 香川        1万3900         ▼3700

 愛媛        2万1000         ▼6200

 高知        1万6200         ▼5000

 福岡        7万4000         ▼8500

 佐賀        1万3500         ▼4400

 長崎        2万3300         ▼6500

 熊本        3万1800       ▼1万0600

 大分        1万8900         ▼4200

 宮崎        1万6500         ▼5400

 鹿児島       3万0600       ▼1万0700

 沖縄        1万4600           700

 (25年の推計は3種類あり、国全体の削減数が最も少なくなる数値を使った。▼はマイナス)