核心リポート05--現代版"姥捨(うばす)て山"か 高齢者地方移住の奇策

2015.07.01


  

核心リポート05--現代版“姥捨(うばす)て山”か 高齢者地方移住の奇策
2015.07.04 週刊東洋経済  



2025年の介護危機を前に、創成会議は「高齢者の地方移住」をブチ上げたが…。

 現代版の“姥捨(うば す)て山”か──。6月4日、民間有識者から成る「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)は、提言『東京圏高齢化危機回避戦略』を発表した。創成会議は2014年に『消滅可能性都市』という衝撃的な提言をしたばかりだ。

 今回の提言によると、25年の東京圏(東京都と埼玉・神奈川・千葉の3県)では、75歳以上の後期高齢者が572万人に増大。入院需要は20%増、介護需要は50%増となり、約13万人が“介護難民”になる。東京圏の高い施設整備費や介護給付費は財政を圧迫するうえ、医療・介護人材の流入で地方消滅が加速するから、20年の東京五輪の前に戦略を持て、という。

 同会議の解決策は、ICTやロボットを活用した「医療介護サービスの人材依存度引き下げ」や、大規模団地再生などによる「地域医療介護体制の整備と高齢者の集住化」。そのためには、「1都3県の連携や広域対応が不可欠」であり、併せて「東京圏の高齢者の地方移住を促進」すべき、とした(左ページ表)。

余力ある41地域とは

 特に注目されたのは、添付資料に記された、医療・介護に余力のある「41地域」だ。

 これは高橋泰・国際医療福祉大学大学院教授が作成。全国を344地域に分けたうえで、医療レベル(1人当たりの急性期医療密度)と介護レベル(40年の介護ベッド準備率)を縦横のマトリックスで掛け合わせ、医療・介護に余力の多い41地域を抽出したもの。北は北海道旭川市から南は沖縄県宮古島市まで、東京圏を除く、大都市・地方都市を挙げた(左ページ地図)。過疎地域は対象外としている。

 だが内容には疑問も多い。

 6月15日には政府の社会保障制度改革推進本部が、25年までに削減可能な全国の入院ベッド数の推計を公表。2割以上削減可能な27県に、前述のお薦めエリアはすべて含まれる。医療の余力は今後減っていくおそれがある。

 「介護ベッド」という考え方も奇妙だ。これは特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設(老健)、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の施設・定員数を指す。一方、介護保険の利用者は566万人(13年度)だが、特養と老健、介護療養病床の介護保険3施設への入居は、2割にすぎない。

 特養の場合、待機者が52万人に上るが、4月から新規利用は要介護3以上と、利用制限が強化された。老健は在宅復帰が目標で平均利用期間は1年未満。サ高住は介護施設でなく、単なる賃貸住宅で、サービスは安否確認と相談支援のみ。食事や家事、介護は別料金なので、介護ベッドとするのには無理がある。

 まともに介護の余力を全国で試算するなら、保険施設やサ高住の数だけでは、指標にならない。ホームヘルプやデイサービス、訪問看護など、在宅サービスの供給予測を織り込む必要がある。どこまで41地域は当てになるのか。

理想は米CCRCだが

 同会議は米国の「CCRC」を理想とする。CCRCは米国に約2000カ所ある、介護付き退職者コミュニティ。同様に、高齢者が元気なうちに地方へ移住するのが、「日本版CCRC構想」である。

 これは官邸の「まち・しごと・創生本部」でも検討中。6月12日、石破茂地方創生相は「ローカルアベノミクス」実現のため、16年度以降、新型交付金による支援が必要と報告した。同構想は年内にまとめられ、素案でもスポットが当たるのはサ高住だ。

 高齢夫婦がサ高住に入居すると、東京都なら月額平均40万円の支出だが、福井・高知・三重県だと27万円で済むという。さらに、介護が必要になったら、病院や施設ではなく、在宅サービスを薦めている。東京圏に住む元気な老夫婦は、ローンの終わったマイホームを処分し、縁もゆかりもない地方の賃貸住宅に越してほしい、とも読める。

 しかし、日本の高齢者世帯は単身も含め、約9割が持ち家暮らしだ。配偶者が先立っても、6割以上は自宅での暮らしを望む。地方で第二の人生を築いてほしい政治の思惑と、当事者の意識の間には、大きな落差がある。改正された介護保険法は、「地域包括ケアシステム」を盛り込んでおり、住み慣れた地域での在宅介護を促進するはずだが、住み慣れた地域とはどこになるか、危ぶまれる。

 日本創成会議による、人材不足の指摘は正しい。増大する介護需要に対して、介護職員は10年後までに、あと100万人増やす必要がある。ただ低賃金改善の歩みは遅く、高い離職率に歯止めがかからない。地方移住を促すよりも前に、介護問題で優先すべき課題が山積みなのだ。

 まるで東京圏から高齢者を追い出そう、といわんばかりの地方移住の構想。それは今そこにある危機からの現実逃避にすぎない。

市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰:小竹雅子