【社説】高齢者地方移住 数合わせでは無理がある

2015.06.11

【社説】高齢者地方移住 数合わせでは無理がある
2015.06.10西日本新聞


 東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川の4都県)は急速な高齢化で医療や介護施設が不足するため、余力のある地方へ高齢者の移住を促す-。有識者でつくる日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が、こんな提言を出した。

 東京圏の介護問題や地方の人口減少の深刻さは分かる。だが、提言は高齢者対策を単なる地域間の数合わせでしのぐような印象を拭えない。

 提言によると、東京圏は今後10年間で75歳以上の高齢者が推計175万人増える。不足する医療・介護の施設や人材を高齢者が奪い合う事態になるという。対応策として地方移住を打ち出し、候補地に北九州市や長崎市、大分県別府市など全国41地域を示した。

 東京圏の「介護危機」への警鐘としては意義があろう。元気なうちに移住を望むのであれば、後押しする政策はあっていい。経済効果などで期待する地方もある。

 だが、高齢者が長年の生活環境から離れるのは簡単ではない。地方暮らしになじめるか個人差もある。受け入れる地方では医療費など財政負担が増加しかねない。医療や介護の担い手は地方でも不足が指摘され、41地域に本当に余力があるのか疑問も禁じ得ない。

 政府は高齢者が住み慣れた地域で暮らし続ける「地域包括ケア」を基本に、在宅医療や在宅介護を提唱してきた。提言はこうした理念とどう整合性を図るのか。

 戦後、東京圏は地方から大量の若者を吸収して発展した。その若者層の高齢化問題はまず東京圏の努力と責任で対応すべきだろう。

 地方の優先課題は若者層の呼び込みだ。高齢者に偏る移住を地域活性化につなげるには、より工夫が要る。高齢者向けの雇用確保、地域医療機関の維持など周到な環境整備が欠かせない。過去の移住の成功事例や失敗事例を検証して生かすことも重要である。

 高齢化や人口減少は暮らしの基盤に関わる。大切なのは東京圏だけの都合ではない。地方の実情や国全体としての方向性なども踏まえて、丁寧な議論をすべきだ。