JCIの認証取得は夢じゃない! 医療現場で押さえたい9つのポイント

 足利赤十字病院(栃木県足利市)が3月、医療機関の国際的な評価機関である「Joint Commission International」による認証を取得した。日本国内では13番目、全国に92か所ある日本赤十字社の病院としては初めてのケースだ。スタッフのモチベーション向上などの効果を狙って受審に踏み切ったというが、人知れぬ苦労もあったようす。準備段階で重要になる対応は? 実際の審査の流れは? 認証取得までのポイントを小松本悟院長に聞いた。

 

日赤の病院では初めてJCIの認証取得した足利赤十字病院(同病院提供)

 

 

―JCIの認証取得にチャレンジする病院がなかなか増えない。

  関東地方でJCIを取得済みの医療機関は、当院を含めてもまだ数か所。亀田メディカルセンターやNTT東日本関東病院、聖路加国際病院など、これまでに認証取得したのは全国的に有名な病院が多く、大半の病院にとっては敷居が高い印象だっただろう。こうした病院のケーススタディーを聞いても、「われわれには無関係」という意識をますます強める人も多かったのではないか。

 

 病院としてのわれわれのステータスは、これらとは明らかに異なる。それだけに今回、われわれが認証を取得できたと前面に打ち出せば敷居を下げられるのではないか。

 

 審査の過程で講義もしてくれるし、サーベイヤーたちは、国際標準の医療の質向上システムの構築を支援したいと意識している印象だ。すべての病院が受審する必要はないとしても、日本の医療全体の質を底上げさせるため、もっと多くの病院がJCIの認証取得を目指すべきだと思う。

 

初回審査の準備は10か月前に本格化

 

―JCI認証を取得する構想はいつごろから温めていたのか。

  2012年7月に新築移転した後にJCIの講演会に参加し、医療と看護の質向上、患者安全を推進する上で、チャレンジする価値があると判断した。病院の国際化を目指すというよりもむしろ医療の改善が念頭にあり、13年秋ごろ受審を正式に決めた。

 

 当初はその半年後の14年春に受審しようと考えたが、「いくらなんでも早過ぎる」という意見が強く、「2015年2月受審」にあらためて照準を合わせた。キックオフは2014年4月。院内の講堂に全スタッフを集めて受審の方針を伝え、それ以降、本格的な準備を進めた。実際に認証を取得するまでに10か月をかけたことになる。

 

 あらかじめスタッフに方針を伝えたのは、JCIの認証取得に向けて意識を高め、結束を強めるため。JCIとは何かを理解してもらうため、JCIの概要を院内広報や動画で毎週、訴えた。

 

1146項目を4人でチェック、審査では現場主義を徹底

 

―JCIの審査はどのような点が特徴か。

  医療の質向上と患者安全につなげるために横のつながりをどう強めているのかを重視するのが最大の特徴。審査では現場主義を徹底して、多職種がどう連携しているかをチェックし、院内の各部署を患者がどう移動するかをトレースする。

 

 日本の医療現場では、ITをはじめハード面に依存する場面が多い。認知症がある入院患者の転倒を防ぐための離床センサーもそう。しかしJCIの審査では、センサーを設置しているかどうかよりも、センサーのブザーが本当に鳴るのか、もしも鳴らなかったらどうするのか、そもそもセンサーの設置よりも、患者さんを転倒させないために医師や看護師が患者さんにどう接しているのかを見る。単にハードを整備するだけでなく、むしろそれを使って病院全体で「患者安全」をどう確保しようとしているのかを重視するイメージだ。

 

―審査はどのように進むのか。

  このため医局、看護、事務、施設管理部門などが縦割りで審査に対応するには限界があり、医師も含めてスタッフ全員の協力がないと難しい。組織の結束をいかに強め、いかに走らせるかがポイントだ。

 

 JCIの審査項目には14のカテゴリーがあり、初回には計1,146項目が審査される。サーベイヤー4人が5日間をかけて院内を徹底的にチェックする。そこで、われわれは組織横断型の14のワーキンググループを立ち上げた。メンバーは医師や看護師など各グループ10人前後。既存のすべての委員会にワーキンググループのメンバーを参加させて対応を話し合ってもらった。

 

 サーベイヤーはカルテをすべてチェックする。例えばインフォームドコンセントを実施したか、採血をいつ誰がどこで実施したか、生検ではどうかなどあらゆることを抜き打ちで確認して、そうかと思うとその後すぐに病理部門の審査を始めたりする。

 

 例えば採血では、たくさんいる患者さんを取り違えないように、どのタイミングで検体にラベルを貼っているか、検体の鮮度を保つため常温での保存をどう短縮させているか、検査の結果を医師が何月何日の何時何分に確認し、それを治療にどう結び付けているかなどが細かくチェックされる。電子カルテを見たらこれらの情報はすべて確認できる。検査データを2-3日も確認しないままでいるようでは駄目。

 

スタッフはもちろん、患者にも抜き打ちインタビュー

 

 セキュリティー会社やコンビニエンスストア、清掃会社など委託先のスタッフも審査の対象で、例えば巨大地震が起きたり、院内で火事が発生したりした際、どう行動するかがやはり抜き打ちで確認される。このため、緊急時の対応をあらかじめ決めて、委託先に伝えておく必要がある。

201.6.1医療現場をウォッチ 足利日赤JCI図表

  抜き打ちでの質問が誰に飛んでくるか、病院側には分からない。放射線部門の審査の際にサーベイヤーは、治療の説明を事前に受けたかなどを患者にもインタビューしていた。審査には病院幹部も立ち会うが、代わりに質問に答えようとすると「この人に答えてほしい」と拒否される。このことからも、いろいろな部門をまたいで患者安全にどう対応するのか、委託先も含めて文字通り組織全体で理解することが重要になる。

 

2015.4.21医療現場をウォッチ 足利日赤・小松本先生②―3年後の審査ではハードルがより高まりそう。

  更新の審査では初回よりもハイレベルを目指す必要がある。その意味では、3年後の更新審査こそが本番かもしれない。初回の審査で及第点をもらえていない項目もあるので、ここには特に注力しなければならない。準備期間は3年。1年目には、これまでに構築できた患者安全のシステムを浸透させながら、今回の審査で明らかになった課題を改善し、2年目から準備を本格化させようと考えている。

 

「すべてにパーフェクト対応」よりも着実な改善を

 

 

―初回の審査で及第点を取れない項目があったとしても、不合格になるとは必ずしも限らないのか。

  審査の際に厳しい質問を投げ掛けられたのは確かだが、これらすべてにパーフェクトに対応しないと認証を取得できないわけではない。しかし更新の時までに改善が認められなければ認証を取り消すと明言されている項目が幾つかあり、むしろ今後の着実な改善が重要になってくるだろう。

 

―初回審査をクリアできた最大のポイントはどこか。

  医師を含めて組織全体を巻き込めるかどうかがカギだと思う。事前審査の段階で断念する病院もあるようで、こうしたケースでは、おそらく事務部門主導で乗り切ろうという姿勢が強過ぎたのではないか。

 

―費用対効果の面で、JCI認証の取得をどう受け止めているか。

  費用はそれなりに掛かったが、医療の質向上と患者安全に向けて組織のつながりを強められたことは何にも代えがたい。さらに、医療を改善させるシステムをつくれれば、地域の患者さんや住民に支持されるはずだしスタッフのモチベーションも上がる。高齢化の進展に伴って市場は大きく変化する。

 

 そうした中で病院の付加価値を高められたことで長期的には経営改善につながると思う。そのための不可欠な投資だと受け止めている。

 

※JCI(Joint Commission International)は、医療の品質向上と患者安全の確保を目的とした国際的な認定機関で、本拠地は米国のシカゴにある。海外の審査員(サーベイヤー)が1146項目に及ぶ内容を審査する。2015年3月現在、欧州、アジア、南米などで740の医療施設が認証を取得しており、国内では亀田メディカルセンター、NTT東日本関東病院、聖路加国際病院など13施設が認証を取得している。

 

 日赤の病院では初めてJCIの認証取得した足利赤十字病院(同病院提供)

日赤の病院では初めてJCIの認証取得した足利赤十字病院(同病院提供)

―JCIの認証取得にチャレンジする病院がなかなか増えない。
 関東地方でJCIを取得済みの医療機関は、当院を含めてもまだ数か所。亀田メディカルセンターやNTT東日本関東病院、聖路加国際病院など、これまでに認証取得したのは全国的に有名な病院が多く、大半の病院にとっては敷居が高い印象だっただろう。こうした病院のケーススタディーを聞いても、「われわれには無関係」という意識をますます強める人も多かったのではないか。

 病院としてのわれわれのステータスは、これらとは明らかに異なる。それだけに今回、われわれが認証を取得できたと前面に打ち出せば敷居を下げられるのではないか。

 審査の過程で講義もしてくれるし、サーベイヤーたちは、国際標準の医療の質向上システムの構築を支援したいと意識している印象だ。すべての病院が受審する必要はないとしても、日本の医療全体の質を底上げさせるため、もっと多くの病院がJCIの認証取得を目指すべきだと思う。 

初回審査の準備は10か月前に本格化

―JCI認証を取得する構想はいつごろから温めていたのか。
 2012年7月に新築移転した後にJCIの講演会に参加し、医療と看護の質向上、患者安全を推進する上で、チャレンジする価値があると判断した。病院の国際化を目指すというよりもむしろ医療の改善が念頭にあり、13年秋ごろ受審を正式に決めた。

 当初はその半年後の14年春に受審しようと考えたが、「いくらなんでも早過ぎる」という意見が強く、「2015年2月受審」にあらためて照準を合わせた。キックオフは2014年4月。院内の講堂に全スタッフを集めて受審の方針を伝え、それ以降、本格的な準備を進めた。実際に認証を取得するまでに10か月をかけたことになる。

 あらかじめスタッフに方針を伝えたのは、JCIの認証取得に向けて意識を高め、結束を強めるため。JCIとは何かを理解してもらうため、JCIの概要を院内広報や動画で毎週、訴えた。 

1146項目を4人でチェック、審査では現場主義を徹底

―JCIの審査はどのような点が特徴か。
 医療の質向上と患者安全につなげるために横のつながりをどう強めているのかを重視するのが最大の特徴。審査では現場主義を徹底して、多職種がどう連携しているかをチェックし、院内の各部署を患者がどう移動するかをトレースする。

 日本の医療現場では、ITをはじめハード面に依存する場面が多い。認知症がある入院患者の転倒を防ぐための離床センサーもそう。しかしJCIの審査では、センサーを設置しているかどうかよりも、センサーのブザーが本当に鳴るのか、もしも鳴らなかったらどうするのか、そもそもセンサーの設置よりも、患者さんを転倒させないために医師や看護師が患者さんにどう接しているのかを見る。単にハードを整備するだけでなく、むしろそれを使って病院全体で「患者安全」をどう確保しようとしているのかを重視するイメージだ。

―審査はどのように進むのか。
 このため医局、看護、事務、施設管理部門などが縦割りで審査に対応するには限界があり、医師も含めてスタッフ全員の協力がないと難しい。組織の結束をいかに強め、いかに走らせるかがポイントだ。

 JCIの審査項目には14のカテゴリーがあり、初回には計1,146項目が審査される。サーベイヤー4人が5日間をかけて院内を徹底的にチェックする。そこで、われわれは組織横断型の14のワーキンググループを立ち上げた。メンバーは医師や看護師など各グループ10人前後。既存のすべての委員会にワーキンググループのメンバーを参加させて対応を話し合ってもらった。

 サーベイヤーはカルテをすべてチェックする。例えばインフォームドコンセントを実施したか、採血をいつ誰がどこで実施したか、生検ではどうかなどあらゆることを抜き打ちで確認して、そうかと思うとその後すぐに病理部門の審査を始めたりする。

 例えば採血では、たくさんいる患者さんを取り違えないように、どのタイミングで検体にラベルを貼っているか、検体の鮮度を保つため常温での保存をどう短縮させているか、検査の結果を医師が何月何日の何時何分に確認し、それを治療にどう結び付けているかなどが細かくチェックされる。電子カルテを見たらこれらの情報はすべて確認できる。検査データを2-3日も確認しないままでいるようでは駄目。 

スタッフはもちろん、患者にも抜き打ちインタビュー

 セキュリティー会社やコンビニエンスストア、清掃会社など委託先のスタッフも審査の対象で、例えば巨大地震が起きたり、院内で火事が発生したりした際、どう行動するかがやはり抜き打ちで確認される。このため、緊急時の対応をあらかじめ決めて、委託先に伝えておく必要がある。
201.6.1医療現場をウォッチ 足利日赤JCI図表
 抜き打ちでの質問が誰に飛んでくるか、病院側には分からない。放射線部門の審査の際にサーベイヤーは、治療の説明を事前に受けたかなどを患者にもインタビューしていた。審査には病院幹部も立ち会うが、代わりに質問に答えようとすると「この人に答えてほしい」と拒否される。このことからも、いろいろな部門をまたいで患者安全にどう対応するのか、委託先も含めて文字通り組織全体で理解することが重要になる。

2015.4.21医療現場をウォッチ 足利日赤・小松本先生②―3年後の審査ではハードルがより高まりそう。
 更新の審査では初回よりもハイレベルを目指す必要がある。その意味では、3年後の更新審査こそが本番かもしれない。初回の審査で及第点をもらえていない項目もあるので、ここには特に注力しなければならない。準備期間は3年。1年目には、これまでに構築できた患者安全のシステムを浸透させながら、今回の審査で明らかになった課題を改善し、2年目から準備を本格化させようと考えている。 

「すべてにパーフェクト対応」よりも着実な改善を


―初回の審査で及第点を取れない項目があったとしても、不合格になるとは必ずしも限らないのか。
 審査の際に厳しい質問を投げ掛けられたのは確かだが、これらすべてにパーフェクトに対応しないと認証を取得できないわけではない。しかし更新の時までに改善が認められなければ認証を取り消すと明言されている項目が幾つかあり、むしろ今後の着実な改善が重要になってくるだろう。

―初回審査をクリアできた最大のポイントはどこか。
 医師を含めて組織全体を巻き込めるかどうかがカギだと思う。事前審査の段階で断念する病院もあるようで、こうしたケースでは、おそらく事務部門主導で乗り切ろうという姿勢が強過ぎたのではないか。

―費用対効果の面で、JCI認証の取得をどう受け止めているか。
 費用はそれなりに掛かったが、医療の質向上と患者安全に向けて組織のつながりを強められたことは何にも代えがたい。さらに、医療を改善させるシステムをつくれれば、地域の患者さんや住民に支持されるはずだしスタッフのモチベーションも上がる。高齢化の進展に伴って市場は大きく変化する。

 そうした中で病院の付加価値を高められたことで長期的には経営改善につながると思う。そのための不可欠な投資だと受け止めている。

※JCI(Joint Commission International)は、医療の品質向上と患者安全の確保を目的とした国際的な認定機関で、本拠地は米国のシカゴにある。海外の審査員(サーベイヤー)が1146項目に及ぶ内容を審査する。2015年3月現在、欧州、アジア、南米などで740の医療施設が認証を取得しており、国内では亀田メディカルセンター、NTT東日本関東病院、聖路加国際病院など13施設が認証を取得している。