ニュース最前線ながさき/旧壱岐市民病院の赤字脱却/壱岐支局・植村圭司/今春「県壱岐病院」始動 コスト減奏功

2015.05.26

ニュース最前線ながさき/旧壱岐市民病院の赤字脱却/壱岐支局・植村圭司/今春「県壱岐病院」始動 コスト減奏功、電子カルテ共有模索/地域医療の核 改革進む
2015.05.24 長崎新聞



 4月1日から壱岐市郷ノ浦町の旧壱岐市民病院が県病院企業団(米倉正大企業長)に加入し、病床数228床、17診療科目を維持したまま県壱岐病院(向原茂明院長)として再スタートした。2005年の開院以来、毎年赤字続きだった旧市民病院は、2年間の改革期間を経て13年度に黒字経営に転換。将来を見据え新たな投資も始まるが、安定経営には課題も残る。これまでの経緯と今後の展開をまとめた。

 ■危機的な経営

 旧壱岐市民病院は、公立病院の老朽化に伴い、05年5月に建設された地下1階地上4階建て延べ1万2200平方メートルの中核病院。総工費は約40億円で、ほぼ全額が公営企業債という借金で賄われたが、病院経営はうまくいかず、毎年約2億円前後の赤字を出し続けた。

 悪化する病院経営を立て直し、安定的に大学病院から医師を派遣してもらうため、壱岐市は09年から独立行政法人化を目指した。ところが、肝心の病院経営者にあたる理事長が見つからず計画は頓挫。その上、当時の医療政策で、全国的に大学病院の医師不足が表面化。旧市民病院が依存していた福岡県内の大学病院の医師が次々に引き上げて行った。

 この影響で、患者数は年々減少し、収益が悪化するなか、精神科病棟が休床に追い詰められた。「このままでは中核病院がつぶれるかもしれない」-。危機感を募らせた白川博一市長は、県が進める離島医療政策の枠組みに入れてもらうよう県病院企業団加入へとかじを切る。

 ■黒字への転換

 企業団に加入するには「黒字化経営への計画提示」という高いハードルがあった。開院以来、赤字続きの体質に12年からメスが入る。

 市は旧市民病院とは別に、国から移譲を受けた病院も経営していた。この病院と旧市民病院の統合を進め、警備や宿直などにかける共通経費を大幅に削減。さらに両病院の看護師を効率的に配置転換し、非常勤の看護師を導入するなどしてコストを抑えた。最終的には億単位のコスト削減効果があったという。

 13年度からは、前年度まで県医療政策課参事官で、旧市民病院の経営改善などのアドバイスをしていた向原茂明氏が総院長として就任。5人の常勤医も新たに赴任し内科と外科が充実。この結果、入院、外来とも患者数が伸び始める。同年度末の決算は約1億4千万円の黒字を計上した。

 ■新たな展開へ

 今年10月には電子カルテシステムの運用が始まる。向原院長は、県内の中核病院の医療情報を共有する「あじさいネット」の考案者。このシステムを使って県壱岐病院と島内の民間病院で、患者の医療情報を共有する計画がある。さらに福岡県内の医療機関とつなげば、福岡で治療を希望する島民の利便性向上にもなる。将来的には島内の通所介護施設などの福祉施設や高齢者向け住宅での在宅介護サービスなど地域包括ケアとして連携する方針。医療情報を共有し、タブレット端末などを使って在宅医療に役立てることが視野にある。

 赤字から黒字に転換したとはいえ、米倉企業長は「山登りに例えるなら、まだ半分来たかどうか」と気を抜かない。「壱岐は経済圏も含め福岡市とのつながりが深い」と指摘し「(患者の島外流出が)病院経営にどう影響するか、今まで連携してきた九州大、福岡大、久留米大の各病院とうまくバランスを取らないといけない」と強調し、「人口減少で収益も下がる。企業努力には限界もある」と安定経営に向けた課題を述べた。

 向原院長は「常勤外科医の増員など医療体制の充実に努力したい。まずは身の丈にあった医療を提供し市民に信頼される病院にしたい」と決意を語った。

◎職員研修を進めチーム強化/患者の意見反映 サービス向上

 旧壱岐市民病院の黒字化は、コスト削減だけでなく、来院者へのサービスの向上や病院職員の意識改革も影響している。2013年4月に就任した向原茂明総院長(当時)を中心に始めた主な改革事例を紹介する。

 (1) 病院内に患者から苦情を募る「改善箱」を設置。苦情内容は関係部署で改善策が議論され、対応方針が院内の壁に張り出された。

 (2) 「改善箱」への投書を受け、玄関に無料コインロッカーや入院患者が荷物を運ぶカートを設置。雨の日には何枚ものタオルを置くなど、来院者の好評を得る。

 (3) 教育の一環で、看護師長全員を九州本土の国立病院に派遣。参加者は島外の情報に触れ、改善を意識する。

 (4) 全く参加していなかった学会や研修会に看護師を派遣し発表させた。看護師は必然的に勉強し、島外での情報交換に刺激を受ける。

 (5) 看護師全員に意向調査を実施。資格受験を希望するやる気のある個人を後押し。難関の感染管理認定看護師が誕生し、他の看護師にも上昇志向が芽生える。

 (6) 看護学生の実習を受け入れる。今年度は福岡から5校の予定。島外から看護師採用試験の問い合わせも増え始める。

 (7) 看護補助師、クラークを大幅増員しそれぞれの役割分担を明確化。仕事の専門性を高めた。

 13年度に赴任した米城和美看護部長は「教育を充実した結果、看護師のモチベーションが上がり患者への対応が優しくなった」と説明。「医者、看護師、薬剤師、検査技師などスタッフ全員が上下関係なく何でも話せる環境が出来上がり、チーム医療ができるようにもなった」と成果を強調した。