連載[かごしま再生-人口減を超えて]第4部[命を守る-医療・福祉の現場から]3・お産事情(下)

2015.05.04

連載[かごしま再生-人口減を超えて]第4部[命を守る-医療・福祉の現場から]3・お産事情(下)/減る施設、少子化加速
2015.05.03南日本新聞 


 3月中旬、阿久根市赤瀬川のホテル。「子育てしやすいコミュニティーづくりを」「助産師のネットワーク構築が必要」―。出水地域(出水市、阿久根市、長島町)のお産や子育てを考えるイベントが初めて開かれた。子育て世代の父母や高校生、大学生、首長、医療関係者ら150人が垣根を越えて意見を交わした。

 企画したのは、地元の母親らでつくる、発足1年の産後ケア・子育てコミュニティサロン「ままがある」。骨盤教室やお産を語る会など、地域の母親を支える活動を展開している。イベントは「出水地域から将来、お産施設が消え、安心して出産や育児ができなくなる。子どもを中心に人口が減ることを、市民に知ってほしい」との思いからだ。

 世話人代表の田村由美さん(46)が、企画の中心人物。「行政、保育コースの高校生、助産師を目指す学生など、同じ思いを持った人が集まってくれた。今日が終わりではない。一緒に知恵を絞ってやっていきたい」と力を込めた。

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 田村さんは出水市で中・高校生時代を過ごした。県外で結婚後、2児を福井県勝山市にある私立小学校に通わせるため、夫を茨城に残し、2008年に福井に移り住んだ。その直後、第3子を授かったが、自宅周辺に産科はなかった。身寄りのない土地に移り「お産難民」となっていた。

 当時、いろいろ調べるうちに、地方の「お産事情」が急激に悪化し、全国的な課題であることを知った。それは、大好きな古里・出水地域も同じ。分娩(ぶんべん)医療機関は出水市内の2カ所だけで、阿久根市と長島町にはない。阿久根市に戻り、父親の仕事を手伝いながら「地域の産科をどう守るか。私たち母親にもできることがある」と立ち上がった。

 ままがあるのイベントに参加した、阿久根市の西平良将市長(42)は「子は宝。笑顔のあふれる2市1町になるように頑張る」と誓った。

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 しかし、突き付けられている現実は厳しい。出水市の医療機関の男性産科医はともに50代。今のところ後継ぎはおらず、十数年後、地域から産科医がいなくなる可能性がある。同市昭和町にある広瀬産婦人科医院の広瀬正典院長(55)は13年に、589人の分娩を取り扱った。全国の医師1人当たりは年間平均124人で、5倍近くに上る。

 今年4月は1日8人を経験。「さすがにきつかったし、外来を3時間待たせるときもあった。緊急事態のときも困る。もっと助産師がほしい」と広瀬院長。「産科医は(件数が多くても)やる気があれば大丈夫。だが、後継者がいないから困っている。赤ちゃんの誕生は感動の瞬間。みんながうれしくなるのだが」と無念そうに語る。

 田村さんは「出水のお産事情はレッドゾーンに入っている。気付いていない住民が多い」と危機感を募らせる。「産科減少と、人口減の問題は密接に関係している。地域医療は街づくりにもつながる」と強調する。「若い世代が産み育てやすい環境でなければ、子どもを産もうとしない。自分やみんなの行動一つで、街は変わる」と信じている。