[社説]精神保健指定医 不正の常態化は見過ごせない

2015.04.22

[社説]精神保健指定医 不正の常態化は見過ごせない
2015.04.21読売新聞



 医療に携わる者としての倫理観の欠如に、あきれるばかりだ。不適切な診察や治療が行われていなかったのか、徹底した調査が必要である。

 川崎市の聖マリアンナ医科大病院で、11人の医師が「精神保健指定医」の資格を虚偽申請により不正に取得していた。厚生労働省は、指導した上司を含め、計20人の資格を取り消した。

 不正取得による大量処分は、過去に例がないという。

 精神保健指定医は、全国で1万4630人に上る。自分や他人を傷つける恐れがある患者を、知事などの権限で強制的に入院させる「措置入院」の判定に関わる。家族などの同意で入院させる「医療保護入院」の適否も判断する。

 患者の行動を制限する強い権限を持つため、精神保健福祉法に基づき、厚生労働相が十分な知識と経験を持つ医師を指定する仕組みになっている。

 虚偽申請は、資格制度の趣旨を蔑(ないがし)ろにする行為である。

 指定医の申請には、精神科医として3年以上の実務経験と、診断した8症例以上のリポートを提出することが必要だ。11人は先輩医師のリポートの一部を書き換え、自らが診断したように見せかけて申請していた。極めて悪質だ。

 看過できないのは、リポートの使い回しが常態化していたことだ。病院側は、医師間でデータの受け渡しが行われていたと認めた。指導医のチェック機能も働かなかった。深刻な事態である。

 今回、厚労省から酷似したリポートの存在を指摘され、病院側は初めて不正に気付いたという。

 資格を不正取得した医師は、4人の措置入院の判定に関わった。医療保護入院の判定は約100人に達する。誤った判定で患者が措置入院などになっていれば、人権上、大きな問題だ。川崎市と病院には詳細な検証が求められる。

 指定医は診療報酬の優遇を受けられる。資格の不正取得の結果、外来診療で上乗せされた約170万円について、病院側が返還する方針を示したのは当然だ。

 指定医の取り消しにより、聖マリアンナ医科大病院は神経精神科の体制を縮小した。地域医療に影響が及んでいる。

 厚労省は再発防止策として、リポートのデータベース化を急ぐ。類似のリポートを判別できるようにするためだ。他の病院でも同様の不正がなかったかどうかについても調査する。

 精神科医療の信頼回復には、指定医の厳格な審査が不可欠だ。