なぜ「地方の成功事例」はつぶされるのか せっかくの税金はこうして無駄に使われる

2015.04.17

なぜ「地方の成功事例」はつぶされるのか
せっかくの税金はこうして無駄に使われる
木下 斉 :地方再生人、内閣官房地域活性化伝道師 2015年04月14日東洋経済オンライン


疲弊する地方が多いなか、活性化に成功する事例は少なくない。
だが「名ばかりコンサル」や行政関係者が、わざわざ税金を使って、逆にそうした成功者をつぶすことも。なぜこんなことが起きるのか)

「ある地域を活性化する」という時、全国の自治体関係者などが注目するのは、その時々の「成功事例」です。厳しい環境下でも、地元の少数のチームが新たな方法を地道に積み上げ、成果を生み出す地域は必ずあります。その「サクセスストーリー」と実績は、他の地域の人々の「希望の星」になります。

しかしながら、成功事例は時に”政策の道具”として扱われ、数年のうちに使い捨てられてしまうという悲しい現実があります。

「成功事例を皆に伝えるため」という大義名分で行われる、さまざまな行政の施策が実はその地域の負担となり、長期的にはその活動を衰退させていくことになりかねないのです。

成功事例の”調査”事業は、現場を疲弊させるだけ

成功事例に群がる人々が害悪になる可能性があることは「地方を滅ぼす『名ばかりコンサルタント』でも触れたとおりです。今回は、地方創生に携わるすべての方々への警鐘の意味も込めて、「『成功事例の使い捨て構造』がいかに地域をつぶしているか」をとりあげたいと思います。

成功している地域の事業主体の方々は、「他人」から「自分たちの手柄」にするような方法に乗せられないようにしなければなりません。重要なのは、一時的な注目を集めることではなく、自分たちの地域の取り組みが持続することなのです。一方で「その他の地域の人々」は、成功している主体に配慮しながら、取り組みをする必要があるのです。

では、成功している事業主体は、どういうプロセスで疲弊していくのでしょうか。まず、地域で、地道な努力を重ねながら活動が徐々に拡大し、成果が目に見えてくると、地元紙から全国紙へとその取組が掲載され、多くの人が知ることになります。

その時期になると、「成功事例集に掲載させていただきたいので調査にご協力ください」といった連絡がきます。「事例集を作成するうえで、必要な資料がほしい」などと言われ、資料を手渡します。後日、作成された事例解説の内容を確認し、修正を行って返送。そして、成功事例集が世に出ていきます。

すると、次から次へと、さまざまな役所の成功事例集に載せたいという話が相次ぎます。同じ国の機関でも、シンクタンクでも共有はされず、毎回毎回同じようなヒアリング対応に追われます。

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ここで問題なのは、こうした成功事例に対して調査協力費などは支払われないことです。タダでヒアリングに対応し、タダで資料を出し、タダでチェックをするのです。

「成功者」はタダ対応、「調査企業」には事業費の矛盾

しかし、その一方で調査に来ていたシンクタンク等には数百万円から数億円の事業費が、行政から支払われていたりします。

苦労して成果を生み出した関係者には一銭も入らず、単にそれを調べている受託企業だけが収入を得る「成功事例調査」が、今も続けられています。

おカネの問題だけではありません。この対応によって、現場は無駄な時間を費やされることになります。

その結果、活動にかけられるリソース(資源)が少なくなってしまいます。「時間だけをとられておカネにもならない、活動も低迷する構造」がここにあります。

成功事例集に掲載されるだけなら、まだましかもしれません。
成功した事業の関係者に対しては、その後「視察見学」、「講演」、そして「モデル事業化にしてうまみを吸う」という、主に「3つの形態」で乗っかろうとする構造があります。どういうことでしょうか。一つ一つ見ていきましょう。
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(1) 視察見学対応で忙殺される成功事例

「成功した取り組みをぜひとも見たい」という、議会や自治体、一般の方々から依頼が増加します。

彼らは「先進地視察調査」の予算を持っているので、話題になっている地域に皆で出かけ、勉強しようとしています。

成功事例集に掲載されると、この「視察見学」の依頼が一気に増加します。
多くの人が訪れて、場合によっては視察見学料をとったり、宿泊や物販などで地域に経済効果がある、ということもありますが、そのような収入は一過性です。

一方で、本来は地域活性化に使っていた時間を、視察見学への対応にとられるようになります。この間、「先進地域」は視察見学対応で忙しくなってしまい、活動は前に進まなくなり、低迷期を迎えてしまうことも少なくありません。

そして、成果が低迷すれば見限られ、翌年は当然新たな「成功地域」に皆が視察に行く。まるで「焼き畑農業」です。このように、成功事例は「視察見学市場」でも使い捨てられます。
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(2)講演会ラッシュで生まれる、成功事例トップの不在

これも深刻な問題なのですが、成功した地域を率いている重要なトップ(キーパーソン)は、全国各地で開催される講演に呼ばれるようになります。

全国区で注目されると、かなりの件数の依頼が入り、それらに対応しているだけで、地元にいられる時間は当然、以前より少なくなります。

なるほど、講演会などに代表が呼ばれていくことは、関係者にとって誇らしいことでもあります。

また講演料などをもらえば、「一過性の収入」が入るため、どうしても優先したくなってしまいます。講演会に参加した人が、地元を訪れるなどという効果も無視はできません。

しかし「講演会ラッシュ」の間、トップの地元不在が続き、結局のところ成果が低迷しがちなのです。そのうちに、「ジリ貧の活動を続けながら、虚しい講演活動だけ繰り返す」ことになっては悲惨です。

実は成功事例は次々と代わるため、いつまでも「講演会でひっぱりだこ」などということはありません。講演会市場もまた、消耗戦なのです。


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(3)「モデル事業化」採用という「ワナ」にはまるな

さて、3つ目です。実は、最も警戒しなくてはならないのは、行政からの「モデル事業」のお誘いです。

成果が出ている地域には、さまざまな省庁から「モデル事業をやりませんか」、という誘いが入ります。

もちろん、普通に支援をしたいという趣旨の場合もあります。しかし、「単に成果に乗っかりたい」というものが、かなり多くあります。

巨額の予算がつくと、どうなるのか

政策成果が求められる昨今です。成功している地域に予算をつければ、さも「◯◯活性化事業予算」が生きているように見せかけることが可能です。成功地域の事例が、「他の無駄な予算」を隠すために使われるのです。

一方、成功事例といっても、有り余る資金を持っているところなどありません。細々と稼ぎながら事業を育ててきた地域に、一気に数千万円〜数億円の予算が提示されたりします。「国のモデル」になり、さらに予算までくると、やはり引き受けてしまうのです。

「身の丈に合わない一過性の莫大な予算」は、地道に積み上げていた取り組みを破壊します。例えば、これまでは努力してやっていたことを、予算の力で業者に外注するようになったり、華美なものを作ったりしてしまうようになります。

さらに、無駄に膨大な報告書を作成したり、会計検査への対応をしたりと、行政がからむことによる独特の作業にも追われることになります。結局のところは、従来の取り組みは低迷し、モデル事業を「回す」ことに数年を費やすことになります。

事業で稼ぎ、成果をあげていたことが注目されていた成功事例でも、モデル事業に採用されてしまった途端、それ以降、本業は赤字になり、予算依存体質の組織に転落してしまうこともあるのです。おカネがなくて地域がつぶれるのではなく、「急に降ってくる巨額のおカネ」で地域はつぶされるのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・地方創生のリアル

残念ながら、政策担当者がほしいのは「◯◯地域が幸せになること」ではなく、政策で使える「成功事例」なのです。

それゆえ、成功事例でなくなった途端、その地域は見捨てられ、成功事例にも掲載されず、講演会にも呼ばず、モデル事業の対象にさえならなくなります。

そして、担当者は異動で変わり、その事実さえ忘れ去られるということになりかねません。あとに残るのは、せっかく伸びようとしていた「芽」がつぶされてしまった地域なのです。

「情報格差ビジネス」はもう要らない

どこに問題があるのでしょうか。調査業務、視察見学、講演会、モデル事業のほとんどは税金で行われています。

これらが、地域のためではなく、地域活性化政策にかかわる、行政、一部受託企業などの事業のために行われているのが問題です。

地域活性化で成果をあげた地域と、成果をあげられていない地域との間にある「情報格差」のネタにしているだけです。実態としては、税金を使って成功事例をどんどんつぶして回り、後発地域にとっても損失となっている現実があります。

地域活性化は、現場が最先端です。最先端を歩む先進的な地域は自らが情報発信し、関心のある人々に、適切な情報を提供していけばよいわけです。

今はインターネットもあり、各地域の現場が直接的に連携し、情報を交換することが簡単になっています。互いの地域で情報を交換しあえば、税金を使って一部の企業しか儲からないような事例集などの情報格差ビジネスの余地自体がなくなります。フェアな環境ができます。

そして、各地の取り組みのノウハウを知ることができた際に、少しずつでも「お礼」の形で資金を出し合えばよいのです。成功事例を生み出した地域は、その対価を元手に、次なる事業に取り組めば、地域の取り組みは持続的になっていきます。互いに挑戦し、その取組みの内容を教えあい、「出せる範囲」で対価を支払う関係をやっていけば、さまざまな地域課題を解決できる知恵が全国から生まれてきます。

一過性の注目を集めることに重点を置くのではなく、地味でも常に積み上げ続けることができれば、地域の取り組みはもっと発展していくと思います。