奈良の針路:'15知事・県議選/3 3病院再編、県南部の医療立て直し 医師不足で分娩休止 /奈良

2015.04.10

奈良の針路:’15知事・県議選/3 3病院再編、県南部の医療立て直し 医師不足で分娩休止 /奈良
2015.04.06 毎日新聞



 大淀町の山あいに位置する近鉄福神駅前に槌音が響く。約4・7ヘクタールの広大な敷地に、鉄筋5階建ての巨大な建造物が姿を現した。建設が進められているのは、来年7月に開業を予定している「南奈良総合医療センター」。県立五條病院(五條市)と町立大淀病院(大淀町)、国保吉野病院(吉野町)の3病院の再編に伴い、救急病院として新設される。県南部の医療立て直しの拠点として期待されている。

 県南部の救急医療体制の整備が強く叫ばれるようになったきっかけは、2006年に起きた大淀町での妊婦転送死問題だ。「産科救急医療の充実を」という声に応え、老朽化が進む大淀病院を廃して救急病院にする一方、五條病院と吉野病院を療養型の病院に改める構想が10年に浮上した。

 南奈良総合医療センターでは、県南部唯一の2次救急病院として、24時間365日態勢で患者を受け入れ、3次救急を担う県立医科大病院(橿原市)と連携する。県の担当者は「3病院で2次救急を維持するよりもセンターに一元化した方が医師の配置などで効率が良い」と説明する。

 ただ、病院再編の契機ともなった産科については課題を残している。センターは分娩受け入れは休止した状態で開業する。分娩に24時間対応するには少なくとも4人の医師が必要とされるが、確保できなかった。県は「県立医大に医師派遣要請を続けたい」としているが、見通しは立っていない。

 県によると、県内の医師数は人口10万人当たり217・9人(12年12月時点)で全国平均の同226・5人と大差はないが、県南部(五條市、吉野郡)に限れば同148人と激減する。この格差は年々深刻化しており、病院の枠組みを変えるだけでは県南部の医療充実にはつながらない。

 鍵を握るのは、県立医大の医学科卒業生だ。毎年100人前後いるが、県内就職率は09~13年度の5年間で平均51%。半数が県外に“流出”している計算になる。さらに県内で働く場合も都市部に偏る傾向があるという。

 この事態を打開する取り組みが始まっている。県は14年度から県立医大に「医師派遣センター」を新設した。県は「県内の公立病院の医師派遣要請を集約して管理することで、卒業生を県内全域へ効率的にあっせんする仕組み」と説明する。県は県内就職率を18年までに60%まで引き上げることを目標に掲げている。

 人口減少社会を迎え、医療資源も限られる中、全てのニーズに応えるのは限界を迎えつつある。県南部の出生数は353人(13年10月~14年9月)と10年前に比べ35%減る中、どこまで分娩受け入れ体制を敷くべきか。南奈良総合医療センターの行方に注目が集まる。【伊澤拓也】

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 ■ことば

 ◇妊婦転送死問題

 2006年8月、大淀町立大淀病院に入院していた五條市の女性(当時32歳)が分娩中に意識不明となり、けいれんを起こした。産科医は妊娠高血圧症の「子癇(しかん)」と診断。病院は産科救急の転送先を探し始めたが、19病院に受け入れを断られ、約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)へ搬送。頭部CT(コンピューター断層撮影)検査で血腫が見つかり、帝王切開で長男が生まれたものの、女性は8日後に脳内出血で死亡した。