〔急げ!社会保障改革〕/6 医療 機能分化を目指す病院再編 データ重視で患者置き去りの懸念=真野俊樹

2015.04.09

〔急げ!社会保障改革〕/6 医療 機能分化を目指す病院再編 データ重視で患者置き去りの懸念=真野俊樹
2015.04.14 エコノミスト 


「税と社会保障の一体改革」では、団塊の世代が75歳を迎え、医療や介護の必要度がピークを迎えていく2025年に備えて、医療提供体制の改革を行うとしている。その一つが病院の機能の分化、つまり病院再編である。
 
なぜ病院再編が必要か。まずその背景として、日本では人口当たりの病床数が非常に多い。
そのため、病院が介護施設などに代わり、患者の生活の場や介護サービスを提供する場にもなっているのだ。
 
、現在の日本の医療制度では、重症で医療密度が濃い患者を扱う病院と、リハビリテーションなどを中心にして慢性期の医療を行う病院が明確に区分されていない。

医療の高度化に伴い、病院がそれぞれすべての医療行為を担うのではなく、役割を分ける(機能分化)方が、医療費の抑制にもつながる。
 そのために厚生労働省が14年度から取り組んでいるのが、医療機関にその病床が担っている機能を都道府県に報告させ、自主的に病床の機能を分化させていこうという病床機能報告制度である。その機能は表で示した四つで、高度急性期▽急性期▽回復期▽慢性期、に分けられる。

 ◇かかりつけ医の充実

 病院の専門性と役割を明確にする病床の機能分化とセットで進められているのが、かかりつけ医機能の充実だ。
 かかりつけ医とは、国民一人一人がかかりつけ医を持ち、日常的に病気について相談し、場合によっては、死に方といった死生観まで相談できるような機能として位置づけられている。身近な相談相手であるかかりつけ医を持ち、簡単な診断や治療はそちらでしてもらう。

そして難しい病気になった時に、専門医のいる病院を紹介してもらう。この流れを作ろうということになる。
 また、高齢化社会において必須である医療知識を患者が持つために、かかりつけ医という身近な相談相手を持とうという狙いもある。
 機能分化とかかりつけ医の充実というこの方向性は、絵としては非常に奇麗である。

だが患者の立場から考えてみると、はたしてどこまで実現性があるのであろうか。


 まず、医療へのアクセスの問題がある。日本の今の状況は、患者は病院に対してフリーアクセスだ

いきなり病院の専門医を受診することも可能だ。しかし最初にかかりつけ医、引き続いて病院などの専門医を受診する、という流れは患者の選択の自由の阻害になる面がある。
 この解決には、患者の専門医あるいは大病院志向を変えねばならないだろう。もちろん情報格差がある以上かかりつけ医を持つことは重要であるし、あるべき方向であろう。現実的な問題は、専門意識が強い日本の医師業界において、どこまで真の意味でのかかりつけ医を育てることができるのだろうかという点になる。

 ◇目に見えない部分

 病院の機能分化については、さらに実現可能性に問題がある。
機能としての急性期と慢性期を分けることは比較的容易であろう。

しかし、それを現実に実行に移すには、急性期病院志向が強い病院の意識改革も必要である。
 
さらに、本来の病院の機能である急性期の機能を、高度急性期と急性期に分けることはかなり難しいと考えられる。

この区別については、診療密度の高低で高度急性期と急性期を区分するような言い方がなされている。

この診療密度とは何かというと、患者の状態あるいは疾患の重症度ということになる。

そして、電子カルテのデータやレセプトデータ(医療費の明細書)、あるいは診療報酬の支払い方式のデータを使用して機能を分けていこうという話なのである。

医療のデータ化は急速に進んでいる。
しかしこのデータを使いこなす医療者のマネジメント能力はいかがなものであろうか。これは機能を分化させる立場にある行政にも同じことが言える。
 
さらにデータ、すなわち数字で全てを評価していいのであろうか。

に医療や介護といったヒューマンタッチの部分が多い業界では、患者への心配りなど目に見えない部分が全く評価されなくなってしまう可能性がある。

例えば、高度急性期機能を選択したい病院が、そのために評価される指標のみに気を取られ、真に患者のことを考える医療が行われなくなってしまうかもしれない。
 さらにここでもアクセスの問題がある。地方などでは、機能分化で急性期病院の数が減った場合に、病院と患者のマッチングがうまくいかなくなる可能性もある。これでは患者側からの視点が欠落しているのではないか。

 ◇補助金頼みは禁物

 医療経済学では、(1)高い品質の医療で、(2)低価格で、(3)患者のアクセスが良い、という三つの条件の全てを満たすことは難しいと言われている。

医療で最優先されるのは質であり、超高齢社会で医療費が高額化する中、医療提供体制を改革するにはアクセスの制限はある程度は避けられないかもしれない。

しかし、機能分化をしても医療機関の行動が変わらなければ、患者のための医療とはならないであろう。
 このような点を踏まえて、どのように病院の機能分化がなされるのが適切なのであろうか。
 

過去20年の推移を見ると、総病院数のうち民間の医療法人・個人の病院が多く、その占める割合は一貫して70%を超えており、ここ10年は横ばいである。
民間の医療法人や個人では公立の病院と違い、自らの経営判断で借り入れをしている。従来、病院に変化をもたらす場合には、補助金を使って誘導することが多かった。恐らく今回も再編のため補助金が投入されるであろう。しかし財政難の中で、過剰な補助金頼みは禁物だ。

病院再編は病院数の削減につながる可能性もあるが、やみくもに減少させるのではなく、まさに病床単位で機能再編を行っていくことが望ましいのではないか。

 従来の日本の病院は規模が小さいことが問題とされる面がある。そういった意味で、今議論されている、病院の統合が容易になる地域医療連携推進法人制度などの制度を活用しつつ、過度な負担を民間の医療法人に与えずに、かつ無駄な費用をかけずに病床再編を起こすことが期待される。
(真野俊樹・多摩大学大学院教授、医療・介護ソリューション研究所長)