医者にとって他人事ではない大塚家具のお家騒動

2015.03.31

医者にとって他人事ではない大塚家具のお家騒動


2015/3/26日経メディカル

東謙二
 

大塚家具の創業者で会長の父親と、社長の長女とが経営権を巡って対立している。父親が長女に一旦手渡した経営権を、もう一度取り戻そうというお家騒動であるが、社員を巻き込み、マスメディアの前で親子喧嘩を繰り広げるなんて言語道断だ。

ただ、お家騒動の背景にある親子での経営権の継承には思うところがある。

 今でこそ、経営者が実の息子や娘に経営権を譲る企業などは少なくなったが、未だに世襲が当たり前という業界も存在する。
その最たる例が医療界だろう。そして、かくいう私も、理事長で院長だった父親から、その座を引き継いだ息子の1人である。

 私が大学の勤務医を辞めて東病院に戻ってきたのは1999年。
勤務医としてまだまだやりたいことがあったし、病院の経営に興味もなかった
内心、嫌々ではあったのだが、理事長で院長の父親を助けるつもりで、しょうがなく帰ってきたのだ。

 早々、父親から「帰ってきたのなら、院長を譲るぞ」と言われ、私は「冗談じゃない。まずは一般の医師の立場で勤務したい」と言って、あっさり断った。

翌年になっても、父親から「もう変われ。俺が理事長になり、お前が院長を務めればいいじゃないか」と提案された。
私は「俺はオヤジを手助けしようと思って帰ってきたんだ。まだまだオヤジは元気だし、ずっと院長をやってくれ。もしもオヤジが死んだら、その時は代わる」と断った。この時は、父親が納得しなかったため、副院長になることで手打ちした。

 それから毎年、この手の会話は繰り返された。そして副院長になって4年目に入ろうというある日、しびれを切らした父親から呼び出され、「もういい加減に代わってくれ。俺は疲れた」と詰め寄られた。

そこで私は、ある条件を出した。「理事長と院長、一緒に代わるならやるよ」と言ってみたのだ。父親は「よしよし、何でもやるから代われ」ということで、私は理事長と院長に同時に就任した。

 なぜ私がこんな提案をしたのか――。それは、父親と私の両方が経営に関わることに無理があると分かっていたからだ。

いくら息子や娘といったって、創業者の苦労や熱意、心の中まで、二世には分からない。
自分で作ったプラモデルと、誰かに作ってもらったプラモデルに対する愛着の差を想像してみて欲しい。
そもそも父親と私は40歳も年が違う。学んできた医療にも40年分の開きがある。血縁だ、息子だといったって、両者が心を合わせて経営し、病院が一つの方向に向かうとは、到底思えなかったのだ。

 父親が作った病院だから、基本的に父親がやりたいようにやるべきだと思う。
ただ、その父親がその経営権を手放すときは、愛着のあるプラモデルを息子がどう扱おうが、壊されようが、我慢してもらわなければならない。
だから安易な気持ちで手放してもらっては困るのだ。

 そこまでの決意を求めるならば、そもそも世襲ではなく、もっと経営に向いた優秀な医師が引き継げばいいという意見もあるだろう。
確かにその通りである。
ただ私は、病院の経営で最も重要なのは、単に利益を上げることではなく、病院を継続し、長年父親の病院を支えてきた職員や、その病院をかかりつけにしている患者のために存在し続けることだと考えている。
そして、おそらくこうした価値観は、長年父親が病院を経営する姿を見て、私の中に芽生えたものだろう。

大塚家具の父親と長女はどっちが正しい!?
 たとえ優秀な医師であっても、利益ばかりが優先されて、自分の意に沿わない職員が切られたり、長年病院を頼ってきた患者が冷たくされたりしないとも限らない。

そもそも私には、リスクを取って経営を続けるのではなく、土地から建物からベッドから、病院の資産全てを売り払って、潤沢な資金を持ちながら、何の不自由なく勤務医を続ける選択肢もあった。

でも実際私は、病院の職員や患者のため病院を継続したいと考え、胃が痛くなるような病院経営者の道に進むことを決意したのだ。

 おそらくこうした考えは、一般企業にも通じるものだと思う。

だからこそ今も一部の企業で経営権の世襲が残っているのではないだろうか。さて、大塚家具のお家騒動に話を戻そう。週刊誌では、果たして父親と長女のどちらが正しいのか、喧々諤々の議論がされている。その中には、会員制を廃止して誰もが安い家具を変える方針を打ち出し、今期黒字の業績予想をしている現社長の長女を評価する論調が目立つ。

 しかし、本当にそうだろうか。確かに、父親が経営権を手放す際の決意が、そこまで強固なものでなかった感は否めない。

また、企業にとって収支は重要であり、外野から見れば一時期の収支回復が際立った成果に映るのだろう。

長女も、経営コンサルタント会社を運営していたそうだから、自分の方針によって結果がついてきたことに自信を付けたのであろう。

 ただ、先述したように、経営の最重要事項は目先の利益ばかりではないはずだ。

経営者として常に念頭に置かなければならないのは継続性だ。
もちろん、父親が赤字経営を続けるばかりでは、大塚家具は続かない。だからといって一時期V字回復を遂げた長女だけが正解というのは思慮に欠けるというものだろう。

 家具業界が今後、どうなるのかは分からない。業界全体が安売り競争に突入し、外資系企業などと戦わなければならなくなった場合、大塚家具にどの程度勝ち目があるかも未知数だ。お家騒動に、世襲の難しさを改めて感じた虎なのであった。