【特集 「医学部」「医者」ウラとオモテ】--PART2 「白い巨塔」の裏側 

2015.03.18

【特集 「医学部」「医者」ウラとオモテ】--PART2 「白い巨塔」の裏側 --製薬企業から医師に流れるカネ 有力教授の「副収入事情」
2015.03.21 週刊東洋経済





製薬企業から医師に流れるカネ 有力教授の「副収入事情」

昨年から始まった医師の「謝金」収入の公開。製薬企業からのおカネはやはり高額だった。

 製薬業界の自主ルールが医学界で波紋を呼んでいる。昨年から、医師に対して講演や原稿執筆でいくら支払ったかを公開し始めたのである。

 「あの人はこんなにもらっているのか」「こんなことまで公開されて……」と、医学部教授や医師の間には、さまざまな感情が渦巻く。

 もちろん医師と製薬企業との交際それ自体は何の問題もない。新しい医薬品の情報を得るには製薬企業からのセールスプロモーションが重要な情報源になるし、新しい医薬品の開発のためには、医師と製薬企業との協力が不可欠だ。

 だが世の中、そうしたきれい事だけでは決してない。これまでにも、特定の製薬企業から金品を受け取り有利な取り計らいをしたり、研究論文で企業に有利なようにデータを解釈したりすることが頻繁に起きてきた。

 欧米の一流の医学専門誌では数年前から、企業から研究費の提供を受けた場合、それを明記することが決められている。研究費の提供動機がクリーンなものであっても、人間の心理は弱いもの。研究者が企業側に有利なように論文データを解釈してしまうおそれもある。そうした疑いを払拭するためにも金銭提供の事実を明記するようになったのだ。

 それは臨床の現場も同じ。特定の製薬企業と関係が深ければ、その会社の医薬品を集中的に使っているのかもしれない。治療の透明性や客観性を保つために、医師と製薬企業との関係を明らかにするルール作りが各国で進んでいる。

講演会で年1000万円 企業が医師に近づくわけ

 米国では2010年に成立した医療保険改革法で、医師などの医療関係者に10ドル以上の資金や物品、サービスを提供した場合、個人名、金額、時期、その内容などを政府に報告することが製薬企業に義務づけられた。「太陽の下にさらす」意味合いからサンシャイン条項と呼ばれる。報告しなければ罰金の対象になる。一連の情報は政府によって、14年9月からウェブ上に公開されている。

 国際的な流れに逆らうことはできず、日本でも日本製薬工業協会(製薬協、加盟72社)が医師や医療機関への資金提供を明らかにするガイドラインを策定。13年度から、前年度分の資金提供について各社が開示することになった。

 公開対象は、「研究費開発費等」(臨床研究の費用など)、「学術研究助成費」(奨学寄付金など)、「原稿執筆料等」(講師謝金、原稿執筆料など)、「情報提供関連費」(後援会、説明会費など)、「その他の費用」(接待費など)の5項目だ。

 デリケートな項目が冒頭で紹介した、金銭の受け渡しが個別にわかる「原稿執筆料等」だ。研究費と違い、そのまま医師の収入になる。

 日本医学会などが「拙速」であるとして開示の先延ばしを求めたため、製薬協が延期を決め、2年目の14年度から開示(13年度提供分)された、曰(いわ)くつきの項目だ。

 これを見ると、有力教授にとって製薬企業からの報酬がおいしい副収入になっていることがわかる。左ページ表は外資系を含む有力10社の医師への謝金(講演会や研究会での講演者や座長への謝礼)の支払額上位4人を、企業ごとにまとめたもの。

 武田薬品工業が順天堂大学の河盛隆造・特任教授に支払った金額は1306万円。年間65回も武田薬品の講演会に登壇した。ノバルティス ファーマは816万円を支払っている(同社向けの講演は49回)。

 河盛氏は日本糖尿病学会総会会長を務めたこともある糖尿病治療の権威。ほかの企業からの分も合算すると、謝金だけで3000万円前後の収入があるとみられる。

 一つの企業から1000万円以上を受け取っていたのは、伊東市民病院の八森淳・臨床研修センター長と、近畿大学の宗圓聰教授。八森氏はエーザイから1044万円、宗圓氏は第一三共から1024万円を受け取っている。

 八森氏は、エーザイの屋台骨を支えてきた認知症薬「アリセプト」が属する神経・認知症領域の専門家。宗圓氏は関節リウマチや骨粗鬆症が専門で、特に骨粗鬆症では各種診断基準やガイドラインの作成にもかかわっている有力者。第一三共は13年6月に新規骨粗鬆症治療剤「プラリア」を発売したばかりだ。

 本業である診療や研究以外で1000万円を超える収入があるというのは、まさに医師ならではの役得で、普通のサラリーマンにはうらやましい限りだろう。

 ある製薬企業によると「謝金は1回につき教授15万円、准教授10万円など社内的なランクづけがあるが、先生のキャリアや講演時間などによって若干変動させる」そうだ。「最高でも20万円以内」が業界内の相場観だという。

 製薬企業からすれば、関連病院にまで影響力が及ぶ有力教授とコネクションができれば、自社製品の「処方増→売り上げ増」が期待できる。開発中の新薬候補を実際に使ってみる臨床試験の患者(被験者)集めでも、協力を得やすくなる。そうした期待から、事あるごとに講演を依頼し、それぞれの疾病分野のキーパーソンとの関係を深めようとしているわけだ。

一部医師は公開に猛反対 「コピーもメモもダメ」

 表を見ると、糖尿病領域の専門医が多いことに気づく。10社の上位40人中7人、延べ9人が糖尿病関連の医師だった。

 14年度からの医師ごとの個別開示をめぐっては、こんなことがあった。

 一部の糖尿病の専門医が、ウェブでの情報開示に激しく抵抗。希望者が手続きをして、直接、製薬企業に出向かなければ閲覧できない「来社方式」を関係各社に要請したのだ。ウェブに比べて格段に不便だが、数社は医師からの圧力にあらがいきれず来社方式を採用した。

 関係者によると、「来社方式で、コピー不可、写真不可、メモ不可でないとダメだ」と、およそ公開とはいえない方法まで強硬に求める医師もいたという。

 もちろん「高額謝礼=悪」ではない。「総額が多いということは、それだけ信頼が厚いドクターということの証明だ。薬の効能や使い方を熟知し、地域医療の普及啓発に努力している先生ともいえる」(製薬協の田中徳雄常務理事)との主張も、かなりの程度そのとおりであろう。

 資金提供が、処方薬選びや研究の中立性に影響を与えていなければ、何も問題はない。だが患者や社会からの信頼を得るには、できるだけ透明性を高める工夫が必要となろう。

 現在の公開方法は、ウェブであっても印刷できなかったり、個別の人名を調べようとしても検索が簡単にできなかったりと、およそ閲覧者に優しいシステムにはなっていない。

 医師が受け取る謝礼も製薬企業の利益も、本を正せば、国民の税金であり社会保険料である。