【特集 「医学部」「医者」ウラとオモテ】--PART2 「白い巨塔」の裏側--被災地医療は変わるか 新設医学部が対峙する東北の「医師不足」

2015.03.18

【特集 「医学部」「医者」ウラとオモテ】--PART2 「白い巨塔」の裏側--被災地医療は変わるか 新設医学部が対峙する東北の「医師不足」
2015.03.21 週刊東洋経済



被災地医療は変わるか 新設医学部が対峙する東北の「医師不足」

医師の不足・偏在解消を目的に東北での医学部新設が認められた。だが前途は多難だ。

 桜色の外壁が目を引くJR石巻駅前。旧百貨店の空きビルを活用した石巻市役所の隣で、石巻市立病院の建設工事が来年夏の開院を目指して進んでいる。

 東日本大震災では、石巻と気仙沼の医療圏内(宮城県石巻市、東松島市、女川町、気仙沼市、南三陸町)の多くの病院、診療所が被災。石巻駅の南約2キロメートル、海近くにあった旧市立病院も1階天井まで達する津波に襲われ、一昨年、取り壊された。2医療圏内で震災後に休廃止を届け出た医療施設は、病院4、医科診療所23、歯科診療所16(2014年9月時点)に上り、震災前より約14%も減少した。

 2医療圏の医師数も、震災前の10年度に444人だったのが12年度までに428人と16人減少した。10万人当たり医師数は石巻圏が167人、気仙沼圏が119・7人と、全国平均の237・8人を大幅に下回る。もともとの医療過疎に震災が追い打ちをかけた格好だ。

医療過疎に震災 深刻さ増す医師不足

 震災前の石巻市立病院は病床数206で、研修医を含め29人の医師が主に急性期医療を担っていた。来年夏からは、病床数を180に減らし、急性期以外に、回復期の医療や在宅医療・在宅支援の機能も備えた病院となる。

 ただ、再開までに必要な医師20人の確保には苦戦が予想される。伊勢秀雄・病院長は「石巻圏は元から医師数が少なく、一人の医師にかかる当直や入退院手続きの負担が重かった。以前いた医師は他病院に移籍してしまっており、戻ってもらうことも難しい」と明かす。

 背景には、全国的な医師不足と医師の偏在がある。一時期減らされていた医学部定員は、地方の医師不足問題が顕在化すると増加に転じた。来年度計画では9134人と10年前より約1500人増える。だが、長年の定員抑制によって、日本の医師数(人口1000人当たり)はOECD平均の3分の2程度と、国際的に低い水準にとどまる。

 10年以上の養成期間を要するタイムラグはあるものの、医師総数の問題は医学部の定員増で対応できる。だが、医師が地域によって偏在する問題は解決がより難しい。

 04年に始まった医師臨床研修制度の影響は大きい。研修先を自由に選べるようになったことで、都市の有名病院は潤った。代わりに地方の大学病院を中心に人手不足が発生、系列病院に医師を派遣する余力が失われる事態になった。

 東北地方の人口10万人当たり医師数は209・6人(12年)と、全国8ブロックで最低だ。ただ仙台市の人口10万人当たり医師数は333人(12年度)で、全国平均を100人近く上回る。東北地方でも医師は都市部に集中し、僻地ほど不足しているのだ。

「医師不足を助長する」地元医師会が懸念

 こうした現状を受け、医学部設置が特例として認められることになった。手を挙げたのは、東北薬科大学(宮城県仙台市)、国際復興記念大学(仮称・福島県郡山市)、公立の宮城大学医学部(仮称・宮城県栗原市)の3者だ。昨年8月、文部科学省の構想委員会は、被災地の地域医療や災害医療に配慮したカリキュラムを評価し、東北薬科大の構想を選んだ。

 1981年の琉球大以来の医学部新設に沸いたのもつかの間、東北薬科大は、茨の道を歩むこととなる。東北6県の医療行政担当者や各県の医学部、医師会ら関係者を集めた教育運営協議会の委員らは、大学側の説明になかなか納得しなかった。

 「新設医学部の教員を新たに採用することで、地域医療にむしろ支障が出るのではないか」。医師会は強く反発した。大学側は、「教員の採用予定者が特定の地域や機関に極端に偏らないよう留意する」と理解を求めたものの、懸念は消えていない。

 さらに、大学側が地元への定着促進策として掲げた「修学資金貸与制度」についても異論が噴出した。

 東北薬科大は、自治医大や、他大学の医学部地域枠が採用する修学資金貸与制度を「地元への定着策の柱」とする。宮城の場合、予定する学費(入学金と6年間の授業料)計3400万円のうち3000万円を県拠出の基金から修学資金として貸与し、卒業後10年間、指定された医療機関に勤務すれば返済を免除する。修学資金を利用してもらう“地域枠”として、宮城県30、宮城県を除く東北5県で25の計55枠を設定した。

 一方で東北5県は、各県が県外大学の医学部生に対し、卒業後に県内で勤務することを条件に修学資金貸与制度を設けている。ただ、県外医学生向け枠は計66のうち44しか利用されていない。医師会などからは、「学生は(卒業後の制約がある修学資金貸与制度の利用を)望んでいないのではないか」「使われていない枠があるのに(新設大学の地域枠は)現実に機能するのか」といった懸念の声が相次いだ。

 大学側は、地域医療教育の充実により地域でのキャリア形成を見通せるようにすることでの地元定着も狙う。1年次から、常勤医師を配置した地域医療教育サテライトセンターや、地域医療ネットワーク病院に学生を滞在させるといったカリキュラム構想を示している。ただ構想の具体化はこれからだ。

 こうして、昨年10月から6回に及んだ協議会でも医師不足解消に向けた妙案は出なかった。紛糾はギリギリまで収まらず、一応のまとめが得られたのは設置申請期限が残り1カ月に迫る3月2日だった。

被災地で学べる真の総合医療

 休止中の石巻市立病院は現在、石巻市立病院開成仮診療所を運営している。仮診療所は、石巻市開成・南境地区の約1800世帯が入居する仮設住宅団地の中にあり、1日30~40人ほどの外来患者を診療、在宅患者約70人もカバーしている。

 長野・佐久総合病院で経験を積み、地域医療のエキスパートとして知られる長純一所長は、医師教育にも力を注ぐ。「被災地で働くことで、超高齢化時代の地域ニーズに応える技術とマインドを持った医師になってもらいたい」(長所長)。

 仮診療所には昨年からの約1年間で、後期研修の若手3人を含む計5人の医師が加わった。被災地だからこそ使命感を持った医師が集まる。最先端の医療ではないが、地域の現場で本当に求められる総合的な医療を担う医師が育成できるのだ。

 仮診療所の取り組みは、医師偏在是正へ向けた一つの方向性を示しているのかもしれない