(自治の力)夕張の今:3 病床激減、「在宅」へ加速 /北海道

2015.03.11

(自治の力)夕張の今:3 病床激減、「在宅」へ加速 /北海道
2015.03.10 朝日新聞



 財政破綻(はたん)した夕張市では、医療を取り巻く環境も大きく変化した。市立総合病院は公設民営で市立診療所に縮小された。皮肉にも国が推進する「病院から在宅へ」という流れを加速させる。健康に対する市民の意識も変化を迫られている。


 ■「住み慣れた所で」支える

 夕張市南東部の楓(かえで)地区。久保ケエ子さん(79)は、肝臓の病気を患う夫の武さん(81)と市営住宅で2人で暮らす。昨夏、市外の総合病院で手術を受け、医師や看護師の訪問を受けながら自宅で療養生活を送る。

 「昨日からほとんど食べられないの」。1月中旬、自宅を訪れた看護師に、久保さんが不安そうに告げた。数日前から体調を崩して寝たきりとなり、呼びかけにうなずくだけだ。看護師は前もって市立診療所の「夕張医療センター」の医師から指示された水分補給のための点滴を始めた。

 武さんは術後の状態が落ち着くと、自宅療養を始めた。「夜、ひとりで不安なんでしょう。入院を嫌がるの。家でみられるのは助かる」。腰痛で通院中のケエ子さんが「老老介護」を続けられるように、週末は施設でのショートステイを利用している。

 市立総合病院は2006年、45億円の累積赤字で経営破綻した。市は公設民営で存続させる方針を決め、翌07年4月、夕張医療センターに生まれ変わった。病床数は171床から19床に減った。

 運営を引き継いだのは、医療法人財団「夕張希望の杜」だ。当時の理事長は、地域医療に取り組んだ経験がある村上智彦医師。診療科を減らし、ベッドが空いた場所には、介護が必要な高齢者が自宅に戻れるようにリハビリをする「介護老人保健施設」(40床)にした。

 「財政破綻した自治体の医療機関で、できる医療は限られる。なんでも病院にという訳にはいかない」。村上医師が進めたのは、医療と介護、福祉が連携し、自宅での療養生活を支援する「地域包括ケア」だった。

 夕張市の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は46・38%(14年1月)で、全国の市で最も高い。村上医師によると、総合病院の入院患者の多くは高血圧や糖尿病など、慢性的な生活習慣病を抱える高齢者だった。センターでは、症状が安定している患者には自宅療養を勧めた。在宅の患者を24時間態勢で支えるため、センターに訪問看護ステーションを開設した。

 以前は、慢性疾患を抱える高齢者が、自宅で療養したり、最期を迎えたりするための受け皿はなかった。受け入れ態勢がないために入院する「社会的入院」も多く、市民の医療費は必然的に高止まりした。

 現理事長の八田政浩医師は「夕張のように高齢化が進む地域の医療は、住民が病気と付き合いながら、住み慣れた所で生活するのを支える役割が大きい」と話す。

 センターでは現在、100人前後の患者が在宅で療養し、医師の往診や訪問看護に加え、介護士やヘルパーが協力して支援している。また、末期がんなどで自宅で最期を迎えることを望む患者の受け入れも進み、末期の患者が都市部の病院から市内に戻ることもあるという。

 一方、総合病院のころに比べ手薄になったのが救急医療だ。市によると、現在、センターを含む市内の5診療所が休日は交代で対応する。高度な医療が必要な場合は、救急車で1時間程度の距離に複数ある、市外の総合病院に運んでいる。


 ■予防への関心、低調

 受けられる医療の幅が狭まるなか、病気にならないための「予防」が重要になっている。

 市中央部の清水沢地区の集会所で、地区のお年寄り15人ほどがストレッチやゲームなどで汗を流した。昨年12月に住民が中心になって始めた運動教室だ。

 家に閉じこもりがちなお年寄りが運動の習慣を身につけることで、生活習慣病の予防につなげるのが狙いだ。参加していた女性(69)は「何でも病院に頼ることができないから、自分たちで健康に気をつけようと思って」。

 ただ、こうした活動は一部に限られ、病気の予防への関心は低い。生活習慣を改善させる目的で実施されている「特定健康診査」(メタボ健診)では、夕張市の受診率は18・7%(12年)。道内179市町村のうち159位だった。

 市民には「病院がある」ことで「安心」という意識が根強い。市は「市民の様々な医療ニーズに応える必要がある」として、診療科を充実させ、初期救急にも対応できる新たな診療所の建設も検討する。

 人口減少や財政難で、地方の自治体が抱える医療機関の経営は厳しい。夕張市の病院の経営アドバイザーを務めたことがある城西大の伊関友伸教授(行政学)は、「医療体制に限界があるなかで、病院任せでは住民の健康は守れない。市は医療機関と連携し、予防にも力を入れるべきだ」と指摘する。(鈴木逸弘)