クローズアップ2015:医療事故調、検討会 報告書提供、結論出ず

2015.02.27

クローズアップ2015:医療事故調、検討会 報告書提供、結論出ず
2015.02.26毎日新聞



 医療死亡事故の原因究明と再発防止を目的とする「医療事故調査制度」の運用指針を議論する厚生労働省の有識者検討会が25日、開かれた。

同省から原案が示され、再発防止策を院内調査などの報告書に記載することについてはほぼ合意にこぎつけた。だが院内調査の結果の遺族への説明を「報告書を提供するなど遺族が納得する方法で行う」とする案については意見がまとまらず、結論を先送りした。今後、検討会の座長が案を出し、さらに異論が出れば議論を再開するとしている。【桐野耕一、金秀蓮】

 ◇再発防止策記載、合意

 検討会は医師、弁護士、医療事故の遺族など24人の委員で構成。最大の争点は、医療機関が院内調査の結果を遺族に説明する際の、書面の提供についての是非だった。遺族側の委員らは書面の提供が必須だと主張。これに対し、医療側の一部の委員からは民事・刑事裁判の証拠などに使われる可能性があるとして反対する意見が出ていた。

 25日の会合で厚労省は、「遺族が納得する適切な方法(口頭または書面もしくは双方)により行う」との原案を提示した。遺族が求めれば、報告書か説明用の資料を医療機関が遺族側に提供することを示す文言だ。一部の委員がこれに強く反対した。

 しかし別の委員は「日本病院会の会員アンケートで約7割の659病院が報告書を手渡すべきだと回答している」と主張。この争点は決着がつかなかった。座長の山本和彦・一橋大教授は「再び検討会を開いても、調整がつかなければ、両論併記になる」と述べた。

 もう一つの争点は、調査報告書に再発防止策を盛り込むかどうか。この問題では、日本医療法人協会が「再発防止策を記載すればミスがあったと疑われる」として再発防止策の記載に反対していた。厚労省は原案で「院内調査で再発防止策の検討を行った場合は記載する」との文言を示した。「医療事故調査・支援センター」の名称で民間組織から指定される第三者機関が遺族の申請で行う調査の報告書にも、再発防止策を記載するとした。この点について25日の会合では反論はなく、原案の方向でまとまる見通しが強まった。

 制度は10月にスタートするが、都道府県の医師会や大学などが支援団体として第三者機関と連携し、院内調査に関与する仕組みについても課題が残る。院内調査を人員面や技術面で支援し、中立性を確保するのが支援団体の役割とされているが、調査に加わる医師が、事故を起こした医師と大学の先輩・後輩などの関係にあるケースが生じる可能性がある。「人情が入り、調査が甘くなるのでは」と心配する声もある。

 この問題について事故調査制度のモデル事業を2005年から行っている日本医療安全調査機構(東京)の木村壮介・中央事務局長は「人員の支援と評価の支援を区別して調査に協力する必要がある」と指摘。医師会などが調査に必要な人員をサポートし、原因分析を行う専門医を学会が派遣するなど、支援団体の中で役割分担を行うとの考えだ。

 また、患者の死亡事例を第三者機関に届け出るかどうかは、医療機関の管理者が「事故」と判断するかどうかで左右される。遺族が事故を疑っても、医療機関がそれを否定すれば届け出が行われない可能性が残る。木村中央事務局長は「(医療機関の届け出とは別に)遺族の相談を受け付ける窓口を、第三者機関に設けることを検討してもいいのではないか」と話している。

 ◇遺族「口頭では不十分」

 有識者検討会について、医療事故の遺族らで作る市民団体は25日記者会見し、「再発防止策を報告書に記載するとしたことは意義がある」と検討会の議論を評価する一方、「院内調査の報告書を遺族に渡せば裁判に使われるという主張があるが、逆に報告書を受けとれずに対応が不誠実だと感じれば、裁判に訴えることになってしまう」と指摘した。また、「紛争化しないためにも、事故が起きた段階から事実経過を遺族と共有することが非常に大事だ」と強調した。

     ◇ 

 運用指針の結論が見送られたことについて、東京女子医大病院の心臓手術の医療事故で2001年に当時12歳の次女を亡くした平柳利明さん(64)は、「制度の開始直前になって(医療側の)保身を主張する声が高まるなど、遺族に対する医療界の壁はまだ厚い。(院内調査の)報告書を開示しないことは医療従事者にもマイナスになる」と語る。

 次女の事故は医師がカルテを改ざんしたとして刑事事件に発展した。同病院は再発防止を約束したが、昨年2月に同病院で2歳男児が鎮静剤を投与され死亡する事故が発生。カルテの未記載や病院側の不十分な対応に、男児の遺族が不信を募らせ、刑事告訴する事態になっている。

 「医療の安全が前進するためには、裁判官ではなく、医療の専門家が原因と再発防止を分析する事故調査制度が必要だ」と平柳さんは力説する。遺族に対する院内調査結果の説明で、口頭だけで済ませるとの意見が一部委員に根強く残っていることについて、「何か隠しているのではと不信感を与えるだけ。信用されない事故調査制度になってしまう」と批判した。

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 ■ことば

 ◇医療事故調査制度

 医療死亡事故の原因究明と再発防止を目的に、昨年6月の地域医療・介護確保法成立で創設が決まった。死亡事故が発生した場合、医療機関は第三者機関に届け出をし、院内事故調査を行う。調査結果は遺族に説明し、第三者機関に報告する。遺族が納得できなければ、第三者機関に調査を申請することができる。第三者機関は「医療事故調査・支援センター」で、民間組織を指定する。第三者機関からは警察など行政機関への通報はしない。ただ同制度とは別に、医師には、死体の検案をして異状があると認めたときは警察署に届け出ることが医師法で義務づけられている。