分娩休止 募る不安 転院の妊婦 「何かあったら怖い」=長野

2015.02.27

 分娩休止 募る不安 転院の妊婦 「何かあったら怖い」=長野
2015.02.26 読売新聞


 ◆大町総合病院 再開めど立たず

 大町市立大町総合病院が3月上旬で分娩(ぶんべん)の取り扱いを休止する。常勤の産科医2人のうち1人が長期療養に入ったためで、代わりの医師の確保もままならず、再開の見通しは立っていない。(安藤奈々)

 分娩は、3月上旬までに予定日を迎える12人をもって当面休止となる。妊婦健診を受けている約120人は他の医療機関への転院を検討している。

 予定日が4月下旬という大町市大町の主婦石田美香さん(38)は、車で約30分かかる隣の安曇野市の穂高病院へ転院する。石田さんは2008年に長女を大町総合病院で出産した。自宅から車で5分の大町総合病院は、自身も生まれ家族の思い出が刻まれた場所だった。

 「通院にしても、病院の待ち時間を考えると、行って帰ってくるのに今までの倍以上の時間がかかる。道中で何かあったら。そう考えると怖い」と話す。

 石田さんと同じ穂高病院に移った大町市大町のNPO職員玉城美穂さん(31)も不安が募る。今おなかにいるのは待望の第1子。2年前に流産を経験した。「陣痛が来て車で移動する間、何か起こらないかと思うと不安。無事に生まれてきてほしいと願うだけ」と話す。

 助産師や看護師らでつくる大町市のNPO法人「女性健康支援SANBAの会」の太田二三子副理事長(70)は「病院へたどり着くまでに産気づいたり、出血したりするなど出産にはリスクが伴う。今はまだ雪の残る季節。道の渋滞も妊婦にとって大きな不安」と話す。

 ◆2人以上の常勤医必要

 大町総合病院は、人口6万の大北医療圏(大町、白馬、小谷、池田、松川の5市町村)で分娩施設を唯一持つ施設だ。県内10医療圏で分娩取り扱い施設が消えるのは初めてとなる。

 市や病院関係者は1月21日に休止の発表をしてから約1か月間、分娩を取り扱う松本市や安曇野市の病院に妊婦の受け入れを求めるとともに、牛越徹・大町市長らが県庁に出向き、阿部知事に産科医確保を求めてきた。

 そのかいがあってか、県のドクターバンク事業の支援により、非常勤医1人が確保でき、3月末で中止の予定だった妊婦健診の継続は決まった。

 ただ、これまで通り地域の拠点病院として多くの妊婦を受け入れるには、安全性の観点から常勤医2人以上が必要というのが、大町総合病院や県の見解だ。


 ◆産科医不足 どの地域でも 「隣県と協力・連携を」

 産科医の不足や地域偏在は、全国的な問題だ。24時間、365日対応という過酷な勤務状況が医師の負担を重くしている。訴訟リスクへの懸念もある。

 県内では、2001年に68か所あった分娩取り扱い施設が、昨年9月1日時点で44か所に減った。人口10万人当たりの産科・産婦人科医師数も、8・9人と全国平均(8・6人)をわずかに上回るものの、県医師確保対策室は「どの地域も薄氷を踏む状態。第2、第3の大町総合病院が出てくる可能性がある」と話す。

 10日に県庁で開かれた県地域医療対策協議会では、大町総合病院から産科医の派遣を求められている信大付属病院の発言も注目された。本郷一博病院長は「医療機関の一員として非常に責任を感じているが、これ以上派遣できる医師がいない」とし、「医師の養成に力を入れるとしか現段階ではお答えできない状況だ」と述べるにとどめた。

 県は、県内の医療機関で働くことを条件に医学部を卒業するまでの学費を支援する修学金制度などを設けている。しかし、「すぐ代わりの常勤産科医を紹介できるかと言えば難しい状況」(医師確保対策室)だ。

 日本医科大の中井章人教授(産科医)は「産科医は全体として微増している。もはや県や市レベルで医師数を増やすことは困難で、隣県とも協力・連携することが必要」と指摘する。