[両立ナビ]医師らへ支援策広がる 人手不足ネック 定着には課題

2015.02.18

[両立ナビ]医師らへ支援策広がる 人手不足ネック 定着には課題
2015.02.17読売新聞



 ◎WOMEN&WORK

 ◇ON/OFF 両立ナビ

 子育てしながら働く女性の医師や看護師が増え、短時間勤務や当直の免除といった両立支援策も広がってきた。

だが、人手不足や人件費の増加などがネックとなり、支援策がうまく機能しない場合も。医療現場の女性が働きやすい環境作りは道半ばだ。(針原陽子)

 ◆手術は午前中

 「子育て中はペースダウンせざるを得ないけれど、それでも医師としてできることは多くある」。

地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院(大阪市)外科医長の河野恵美子さんは、力を込める。

 医師14年目。以前勤めていた神戸市の救急病院は、月3回の当直のほか、呼び出しも多かった。長男(8)の妊娠後に当直を免除されたが、他の若手にしわ寄せが行った。育休を取ると後任が来るかどうかわからない。「これ以上負担をかけられない」と退職を選んだ。

 勤務医の労働環境は厳しい。労働政策研究・研修機構の2011年の調査では、勤務医の4割は平均労働時間が週60時間以上。当直の翌日も通常勤務をする医師が9割近くに上った。

 長男が1歳を過ぎ、河野さんが復帰を考えた時、周囲に勧められたのがJCHO大阪病院だ。短時間勤務や勤務日の短縮、残業や当直の免除などの両立支援策を整えていた。

 復帰当初は、「子どもがいるといつ帰るかわからない」と、手術や外来を任されなかったが、手術の助手などを務め、他の医師が面倒がる仕事も引き受けた。

 今は、土日の当直の免除や担当手術が原則午前中といった配慮はあるものの、フルタイムで働き、学会にも招待される。「周囲の助けがあって働ける」と河野さんは感謝する。

 ◆辞めずに時短勤務

 女性看護師への両立支援の取り組みも進んでいる。

 川崎幸(さいわい)病院(川崎市)内科病棟の看護師、石山美知子さん(33)は、4歳と2歳の子を持つ、短時間勤務(午前9時~午後4時)の正職員だ。「ゆとりを持って仕事と子育てができます」

 上の子の出産後、同病院に就職。最初は短時間勤務で、2人目の出産からの復帰後は、日勤のフルタイム(午前8時半~午後5時)職員になった。だが、保育園の迎えにたびたび遅れるなど両立は厳しく、いったん退職し、非常勤職員になることを考えて看護師長に相談すると、短時間勤務に戻すことを提案された。

 同病院では08年、1日の労働時間を4~6時間から選べる制度を導入。期間の制限はなく、現在33人が利用する。同病院の看護師数は同規模の病院より多く、短時間職員の増加に対応できる。看護部長の佐藤久美子さんは「中堅クラスの看護師は貴重。辞められるより、短時間でも働き続けてもらった方がいい」と話す。

 ◆上司の意識改革を

 もっとも、両立支援が医療現場に定着したとは言い難い。日本看護協会が10年、看護職員を対象に行った調査では、子育て支援制度について「利用したかったができなかった」との回答が、「短時間正職員制度」で66%、「所定外労働の免除」59%、「夜勤・当直免除」44%に上った。

 支援策が進まないのは、周囲の負担が重くなる点が大きい。職員を増やせばよいが、確保が難しい、人件費の負担が大きいなどでためらう病院が少なくない。管理職に「医療職が長時間働くのは当然」との意識が根強いこともあるという。

 聖路加国際病院(東京)医師で、日本医師会の「勤務医の健康支援に関する検討委員会」委員長を務める保坂隆さんは、「管理職の意識改革をはじめ、病院は労働環境改善に本気で取り組むべきだ。特に女性医師はキャリアの断絶に対する葛藤も大きく、十分な支援が必要」と指摘する。


 ◆育児期 復職進まず

 医師全体に占める女性の割合は約2割。最近は国家試験合格者の3割超が女性だ。ただ、出産や育児のため休職・離職する女性医師は少なくない。2004年時点では、30代半ばの就業率は76%、働いていない女性医師は4500人と推計された。状況は今も変わっていないという。

 看護師も子育て期の離職が多く、資格を持ちながら働いていない潜在看護師は10年時点で約71万人とされる。

 厚生労働省は、1992年から看護師の復職支援、2006年から女性医師の離職防止・復職支援策などを講じてきた。だが、復職者の増加に結びつかず、今年1月の総務省の行政評価で「実績は低調」「実態把握などが不十分」と指摘された。


 写真=「看護師はやりがいのある仕事。長く続けたい」と話す石山美知子さん(川崎幸病院で)=青山謙太郎撮影