◎少子超高齢社会へ 医療の未来像探る 第29回 日本医学会総会 2015関西 

2015.01.03

◎少子超高齢社会へ 医療の未来像探る 第29回 日本医学会総会 2015関西 2015・2・11~4・13(2ページ特集)
2015.01.01 京都新聞



 少子超高齢社会を迎える中、医療が取り組むべき課題とは、いったい何か。「医学と医療の革新を目指して」をテーマに、「第29回日本医学会総会 2015関西」が今春、京都を中心に開催される。全国から医師や看護師、薬剤師ら医療従事者が一堂に集まり、市民とともに、その未来を探る。医学会総会の顧問を務める京都府立医科大(京都市上京区)の吉川敏一学長に「医学と医療の原点」について聞いたほか、京滋の研究者2人に「教育」と「IT(情報技術)」をキーワードに総会開催への思いを語ってもらった。


顧問 吉川敏一 京都府立医科大学長


「原点」思い起こす場に


 長い歴史を誇る京都は日本の医療界をリードしてきた存在だ。今でも、その思想と伝統は受け継がれ、南北を流れる鴨川を挟み、西に府立医大と、東に京都大医学部(左京区)が世界最先端の研究を手がける。

 府立医大の吉川学長は「かつて、ここ京都の地に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の山中伸弥京大教授に匹敵するくらい、医学上、重要な研究を行った人物がいた。ノーベル賞級の成果だった」と指摘する。

 その人物とは、和歌山県出身の外科医であり、京都で学んだ華岡青洲(はなおかせいしゅう)(1760~1835年)のことだ。全身麻酔下による乳がん手術に成功し、文献で確認できる例としては世界初とされる。手術での患者の苦しみを少しでも和らげたいとする思いが、麻酔研究の原点だった。

 続けて吉川学長が重要人物として挙げるのは、イギリス人医師ウィリアム・ウィリス(1837~94年)だ。「幕末に戊辰戦争が起こり、京都が激戦地となった。大量の負傷兵を前に、日本人の医者たちは対処できなかったのに対し、ウィリスは外科手術を通して、敗血症で亡くなるような患者をみごとに回復させた。間近に見て、衝撃を受けた人びとが西洋医学に目覚めるきっかけになった」

 新しい医療を切り開くには、知識と技術の裏付けと同時に、患者を助けたいという情熱が鍵となる。明治維新から150年近い年月が流れ、大きな発展を遂げた医療であっても、本質は変わっていない。近年の例では生体肝移植がある。1989年に国内で初めて実施されてから、数々の困難を乗り越えてきた。

 吉川学長は「当時、臓器移植というだけでタブー視された。今のように保険適用ではなく、患者の経済的な負担も大きかった。それでも前進できたのは、『赤ひげ』の主人公のように温かい京都大名誉教授の田中紘一先生をはじめとする医師たちの研さんと努力の積み重ねがあってこそだろう。知識や技術はもちろん、人格、哲学、感性、体力など、すべてを兼ね備えていた。その根底には、やはり熱い情熱があった」と語る。

 府立医大でも画期的な研究が行われた。高校時代に弟を骨肉腫で亡くし、がん研究を志した酒井敏行教授だ。がん患者を救うためにはどうしたらよいのかという、縦糸のように貫かれた意志を持ち続けた。がん細胞の増殖に必要なタンパク質などを狙い撃ちする分子標的治療薬トラメチニブを完成させる原点となった。

 吉川学長にも色あせない思いがある。「とてもプリミティブ(素朴)だが、同居していて、病気がちだった祖父母の往診に来てくれるお医者さんがいた。両親は共働きで、いつも中学生の僕が対応していた。1960年代は檀家(だんか)のように地域の医師たちがお年寄りがいる家を回っていた」

 しかし、往診とは言っても、実は簡単ではない。CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)など、大がかりな医療機器は使えない。触診と視診だけで見極めるわけだ。吉川学長は「今ならば総合診療と呼ばれる分野になるが、当時はごくあたり前だった。往診は高い診断能力が求められ、地域医療の原点ではないか」と話す。

 超高齢化という21世紀の現実からみても、地域医療の重要性は増すばかりだ。65歳以上の高齢者の割合は現在の4人に1人から、2060年には2・5人に1人になる。総人口が減少するにもかかわらず、高齢化率が上昇する時代を迎え、根底からの発想の転換が求められている。

 「ここまでお年寄りが増えると、どこの誰もが病院に来てもらえる状況にはない。地域医療を充実させ、医師が病院から出て行く時代に来ている。質の高い医療を存続させるには、原点に立ち返るしかない。患者から考えても、自分の家は特等の病室にいるようなものだ」

 そんな超高齢化で最も関心が高い病気が認知症だ。臨床経験が豊富な吉川学長は独自の見解を示す。「早期発見と予防、治療が注目されるが、もう一つの視点が抜け落ちていないだろうか。目の前の患者や家族の尊厳を保ちつつ、どうしたら、共に仲良く暮らしていけるのかという視点こそ大切にしたい」

 当然ながら医療を支えるのは医師だけではない。看護師、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士、栄養士など、さまざまな専門家との連携がますます求められてくる。「医療にかかわった仕事を選んだ以上、個々の人にそれぞれの原点があると思う。医学会総会を通じ、いま一度、原点を思い起こして自らを再発見し、きずなを深める場にしてほしい」と願う。(二松啓紀)


 よしかわ・としかず 1947年宇治市生まれ。京都府立医科大卒。同大学教授などを経て、2011年から現職。専門は消化器内科学。著書は「15歳若返る 錆びないカラダのつくりかた」など多数。