アジアにおける終末期医療の実態は?

2015.01.30

アジアにおける終末期医療の実態は?

DNR指示実行率は欧米より低いが国による違いも大、アジア16カ国の医師調査で判明


2015/1/30

大西淳子=医学ジャーナリスト 
 



終末期ケアに対する医師の姿勢について調べた研究の大半は、欧米の先進国で実施されたものだ。香港Prince of Wales Hospital病院のJason Phua氏らは、日本を含むアジアの16の国と地域のICUで、終末期の患者の治療に当たる医師たちを対象とした調査を実施。

生命維持治療の制限を行わない医師の割合が、欧米に比べてアジアでは高いことを明らかにした。調査結果は、JAMA Internal Medicine誌電子版で2015年1月12日に報告された。

 著者らは、アジア16カ国・地域のICU785箇所に、生命維持治療の開始を差し控える、または治療を中止することに対する医師の姿勢について尋ねる自己記入式の質問票を配布。


446カ所(回答率59.4%)で患者のケアに当たっている1465人の医師から回答を得た。

調査期間は2012年5~12月。回答した1465人のうち103人はバングラデシュ、195人は中国、45人は香港、176人はインド、51人はインドネシア、31人はイラン、224人は日本、104人はマレーシア、29人はパキスタン、22人はフィリピン、79人はサウジアラビア、49人はシンガポール、186人は韓国、35人は台湾、24人はタイ、112人はベトナムの医師だった。

 回復し再び有意義な人生を送れる可能性が無いICU入院患者に対して、1029人(70.2%)は、ほぼ常に、もしくはしばしば、治療開始を差し控える(昇圧薬の投与や血液透析は開始しないが、行われている治療は継続する)と回答し、303人(20.7%)は、ほぼ常に、もしくはしばしば、治療(昇圧薬や血液透析など)を中止すると回答した。

また、ほぼ常に、もしくはしばしば、故意に高用量のバルビツール酸系薬やモルヒネを投与して死亡するまでの時間の短縮を図ると答えた医師は、全体では2.5%にとどまっていたが、その割合は国ごとに大きく異なっていた。

 1092人(74.5%、日本の医師では71%)が、治療の開始を控えることと、治療を中止することは、倫理的に異なると考えていた。
回答者の多くが、終末期には通常、心肺蘇生、昇圧薬、血液透析、抗菌薬投与の開始を控えたり中止するが、経腸栄養、輸液、吸引は継続すると答えていた。が、やはり国ごとの差は幅広かった。

 治療開始を控えたり治療を中止することを考える場合、84.1%の医師が患者の意思を重視し、77.9%は家族または代理人の要望は重要だと回答していた。

しかし、家族や代理人と生命維持治療の制限について話し合うことが苦にならないと回答した医師は、全体の半分に満たない43.9%に留まった。

 次に著者らは、「心停止後に重症の低酸素脳症となり、機械的換気により生命を維持しているが、神経学的な回復が見込めない、身寄りのない55歳の女性患者」を症例モデルとして提示。

この患者が再度、心停止を起こした場合の対応について尋ねたところ、1201人(82.0%、国別では最低が48.4%、最高が100%、日本の医師では75%)がDNR指示を尊重し、実行するだろうと回答した。一方、この患者が肺炎と敗血症性ショックを発症した場合には、788人(53.8%、国別の最低は6.1%、最高は87.2%、日本の医師では51%)が、機械的換気を継続し、必要であれば抗菌薬と昇圧薬の投与を開始すると回答した。

 ただし、医師の回答はこの設問でも国により大きな差があり、上記の患者が再び心停止した場合のDNR指示実行率は国により48.4%~100%の幅があった。
同様に、肺炎と敗血症を併発した場合に機械的換気を続けながら抗菌薬投与などを行うと回答した医師の割合も、6.1%~87.2%と大きなばらつきが見られた。

 なお、過去に行われた欧米の医師を対象とする調査では、上記のような患者に対してDNR指示を実行すると回答した割合は国によらず大半が90%以上で、オーストラリアでは100%だった。患者が肺炎と敗血性ショックを発症した場合に機械的換気を継続し、必要なら抗菌薬と昇圧薬の投与を開始すると回答した医師は、米国が30%台、南欧が20%台、カナダが10%台で、それ以外の欧州地域とオーストラリアは10%未満だった。

 DNR指示を実行しない医師の特性として多変量解析で抽出されたのは、「患者の家族や代理人の要望を尊重しない」(調整オッズ比1.67、95%信頼区間1.16-2.40、P=0.006)、「終末期ケアについて話し合うことがやっかいだと感じている」(2.38、1.62-3.51、P<0.001)、「法的なリスクに対する懸念が強い」(1.92、1.26-2.94、P=0.002)、「低所得から中所得の国に在住」(2.73、1.56-4.76、P<0.001)などだった。逆に、医師がプロテスタントの信者(0.36、0.16-0.8、P=0.01)である場合と、カトリック信者(0.22、0.09-0.58、P=0.002)である場合には、DNR指示を実行しない可能性は有意に低かった。

 原題は「Withholding and Withdrawal of Life-Sustaining Treatments in Intensive Care Units in Asia」、概要は、JAMA Intern Med誌のWebサイトで閲覧できる。