特報=救急対策、悩む玉名 1割が熊本市へ長時間搬送 常勤増も専門医不足 公立病院

2014.12.12

特報=救急対策、悩む玉名 1割が熊本市へ長時間搬送 常勤増も専門医不足 公立病院
2014.12.09熊本日日新聞社 


 県内で救急車の長時間搬送が増えている。高次医療機関が集まる熊本市に運ぶケースが多いためだ。

玉名郡市は医療や行政、救急関係者が対策を検討しているが、救急態勢の整備は容易ではない。(梅野智博)

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 総務省消防庁によると、2012年の県内の救急搬送数は7万3821件。
このうち119番通報から病院収容まで1時間以上掛かったのは約5・5%の4027件に上る
。03年は1668件で、この10年間で約2・5倍に増えた。

 長時間搬送は患者の負担も大きい。
08年の夜には県北の女児が重いけいれんを起こし、自宅近くの医院に駆け込んだ。
しかし、発作は治まらず、救急車で熊本市の熊本赤十字病院に搬送。小児科医が診た時、女児は呼吸不全を起こしていた。

 「けいれん発症から1時間半は過ぎていたと思う。県北に小児救急の拠点病院があれば、こんなに苦しまずに済んだはずだ」。男性医師は不安に震え、涙を流す母親の姿が忘れられないという。

 玉名郡市と荒尾市を管内とする有明広域消防本部によると、管内の13年の救急搬送は7379件。うち熊本市に搬送したのは784件で全体の10・6%を占めた。玉名消防署の救急車の走行距離は年間約3万キロにもなる。

 玉名郡市には3救急病院があるが、その核となるのが公立玉名中央病院(玉名市)だ。玉名市と玉東町で運営し、常勤医を5年前の30人から42人に増やして年間約1万5000人の救急患者を受け入れる。

 しかし、脳卒中などに対応する脳外科医は不在、小児科の常勤医も3人で深夜の救急治療は難しい状況だ。同消防署の滝本昭光救急係長(44)は「脳卒中は一分一秒が大切だが、仕方なく管外に搬送している」と話す。

 同病院は5月から病棟建て替え計画に生かそうと、行政や消防、医師会などと地域医療の課題を探っている。玉名市と玉東町の住民計3千人を対象にアンケートを実施。「夜間・休日の医療」に対し、53・1%が「整っていない」と答え、「充実してほしい医療」では66・1%が「救急医療」を挙げた。

 同病院の田邉信愛事務長(60)は「長洲、和水、南関の3町のアンケートでも同じような結果が出ている。救急医療の充実は急務だが、医師不足もあり進まない」と悩む。郡市の5市町は小学生や中学生の医療費を無料化し、子育て世帯の転入促進を打ち出すなど、地域づくりにとって医療の充実は欠かせないキーワードだ。

 玉東町の前田移津行町長は「病院運営にコスト意識は必要だが、救急や小児医療のためなら少々の赤字でも住民は納得してくれるのではないか。行政の責任として拠点病院の整備は取り組みたい」と語る。

 玉名郡市医師会の平山晴章会長は(65)は「どの市も町も財政は厳しい。玉名郡市の1市4町が一体となって地域医療を支えるシステムをつくりあげたい」と話す。

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 ●県立大・石橋敏郎教授に聞く 「医師確保へ公的調整必要」

 地域の安全はだれが担うのか。医療制度に詳しい県立大の石橋敏郎教授(社会保障法)に聞いた。

 -玉名地域で救急医療の充実を求める声が上がっています。

 日本の医療は自由診療制を理念に運営されており、民間の病院は都市部に集中するものだ。特に救急や小児科は医師が不足しており、都市から離れるほど空白地域になりやすい。このことは玉名に限らず、全国共通の傾向だ。社会保障の審議会に出席すると感じるのだが、玉名の医療者は地域を守ろうという意識が強い。だからこそ課題が浮き彫りになったのだろう。

 -地域の医療はだれが担うのでしょう。

 一般の診療はかかりつけ医、救急などの政策的な医療は市町村などが運営する公的病院が担うしかない。ただ、どの公的病院も慢性的な医師不足に悩んでいる。医師も人間であり、先端技術を学び、都市部の病院で活躍したいという思いがある。病院や自治体の努力だけでは医師の確保はもう限界だろう。私は公的なコントロールが必要だと考えている。地方の公的病院に医師が安定的に赴任するような仕組みを、国は早急につくるべきだ。

 -市町村の財政は緊縮が続いており、公的病院にも経営の自立が求められています。

 収益性が低いとされる産科、小児科を廃止する病院もあるが、そんな消極的な姿勢では公的医療は担えない。住民は身近で受診できる「地域完結型」の医療を望んでいる。市町村の福祉部門や地域の医師会と連携し、在宅医療や福祉、介護など幅広い分野で収益事業を見つけてほしい。

 -地域住民に求めることは。

 救急医療の仕組みを理解してほしい。急な発熱や軽いけがは、かかりつけ医などの1次医療施設へ。入院が必要な重い病気やけがは公的病院などの2次医療施設へ。命に関わる重篤な場合は集中治療室(ICU)を備えた3次医療施設へと役割分担がある。治療する病気の程度が違うだけで医療技術に大差はない。大病院志向は間違いで、救急医療を守るためにも適切に利用してほしい。

熊本日日新聞社