病院がREIT を利用する場合のメリット・デメリットを検討する。

2014.11.21

病院リートについて

平成25年度
厚生労働省医政局委託
調査研究報告書(抜粋) 


病院がREIT を利用する場合のメリット・デメリットを検討する。

①一般に指摘されるREIT 利用のメリットに関する検討

一般に指摘されるREIT 利用のメリットとしては以下6 点があげられる。

本節では、これら6 点におけるREIT 利用上のメリットを病院経営にあてはめた場合、どれほど享受できるのかを考察する。

ⅰ)資金の固定化の回避
ⅱ)小資本でも急拡大が可能
ⅲ)固定費の変動費化による効率化
ⅳ)経営介入の排除
ⅴ)個別の事業リスクと事業者全体の信用リスクを切り離して資金調達できる(特定資産を母体企業から分離し、当該資産に関わる事業のキャッシュフローに依
拠して資金調達できる)
ⅵ)不動産管理から解放される



ⅰ)資金の固定化の回避
企業経営において、最も気をつけねばならないのは資金の固定化(投下資金の回収長期化)だと言える。
その理由は、企業では一般に設備投資後の事業展開に
は高い事業リスクが存在するからである。
それは、自己の商品もしくは事業に対する需要予測が困難だからである。
一般にどの事業においても、設備投資を行って事業を展開する際は、事前調査等を実施して、相応の見通しを立てて始めるものであるが、当該商品、事業に対する需
要があるのか否か、またどの程度の需要量なのかは、実際に事業を開始してみなければ分からない。
需要自体に確信は持てたとしても、競争他者の技術開発力、コスト競争力、景気動向等自社のコントロール外の要因で、自社がその需要をキャッチできる保証がない。
このように、一般企業では諸々の要素から事業リスクが存在するので、これに備えるため資金の固定化を回避するメリットは大いにあると言える。

これに対して病院は上記の事業リスクは相対的に少ない。
医療ニーズは景気に左右されることもなく安定的に存在する。
しかも、購買力は公的保険によって下支えされており、ニーズは実需として顕在化しやすい。このため、需要の有無に対するリスクは一般産業ほどではなく、むしろ医療需要は確実に存在すると言ってよい。

また、競争他者との間で、激しい技術開発競争や価格競争、新商品開発競争に晒される度合いは少ない。
そのため、先の事業リスクは他産業ほどに高くない。
したがって、資金の固定化に伴うリスクは病院事業にも当然生じるものの、一般企業ほどには高くないと考えられる。



ⅱ)小資本でも急拡大が可能
スーパー、コンビニ、レストランなどに代表されるいわゆる多店舗展開型事業、チェーン展開型事業において、これをすべて自己所有で行っていては膨大な資金を要し、それだけ上述のリスクが高まる。
これが資産流動化を利用すれば、リスクを排除しつつ小資本で急拡大が可能となる。
これに対して病院の場合、ごく一部のチェーン展開型病院以外、多店舗展開型は少ないので、このメリットを享受できる病院は多くはないと思われる。


ⅲ)固定費の変動費化による効率化
これは施設所有により生ずる固定費、つまり減価償却費+金利分を賃借料という変動費に換えることの効果を指すと思われる。
例えば他の一般産業では、ある事業を展開するために、工場の建設や店舗の開店を行ったとしても、仮に予期した成果があがらなければ直ちに撤退できる。
したがって、REIT を採用していれば設備所有に伴う減価償却費も発生しないし設備投資に要する借金も生じないので、借入金が残るということもない。
また、変動費たる賃借料は事業を止めれば当然に賃借料支払いはなくなる。
事業の進出・撤退が自由な一般事業においては、この効果は非常に大きいと言える。

これは例
えばレストランチェーンやファーストフード等の新規出店、撤退の激しさを見れば明らかだろう。

しかし、病院や介護施設の場合は、供給責任あるいは安定供給という重大な使命を課せられている。
やむを得ず撤退せざるを得ない場合には、患者の行き先を確保してからとなるなど、ひとたび事業を始めれば、患者がいる限りサービスを継続することが必要であり、他産業のような安易な撤退は出来ない。
したがって、病院に関しては、たとえ賃借料化しても実態は固定費である。
むしろ、供給責任を負い、事業の継続性を責務とする事業においては、賃借料化した方が経費の固定度は高まるとさえ言える。

なぜなら、資産を所有する場合、賃借料に該当する固定費は金利と減価償却費である(無論このほか固定資産税、修繕費等の各種雑費が加わる)。

自己所有であれば、何らかの事情で収益が予想したほどあがらない場合は、金利部分は外部への支払いなので支払いを止めるわけにはいかないが、減価償却費部分は外部流出を伴わないだけにその処置に弾力的対応が可能である(もちろん一時的に償却不足を招くが、外部取引先から支払いを強要されることはない)。
賃借料の場合は、減価償却費分を含めて支払いを止めるわけにはいかず、止めれば不渡りで倒産となりかねない。
また、賃借料化した場合は、当然のことながら自己所有に比べてコスト高は避けられない。
資産所有の場合、賃借料に該当する固定費は既述のとおり金利と減価償却費だが、賃借料はこの固定費にREIT 関係者への各種手数料、投資家へ配当財源、所有リスク対応分が利益として上乗せされる。そのため、賃借料化すれば日常経費としてコスト高となる。

とりわけ病院の場合は、ⅰ)撤退障壁が高い、ⅱ)転用がきかない、ⅲ)1 施設1 テナントなどの理由から、所有リスク代が他の不動産、例えばオフィスビル
などと比べて高くなるので、病院テナントとしては一層割高な賃借料を支払うこととなる。
当然のことながら、コスト高は他の産業も同じだが、他産業では先に指摘したとおり一方で多くのメリットを受けることが出来るので、このコスト高は相殺されて余りあるが、病院の場合、そうしたメリットが少ないだけに、コスト高だけが残るというわけである。


ⅳ)経営介入の排除
既述のように、一般にREIT は不特定多数の投資家から投資されるため、通常の不動産証券化と違って経営介入の怖れがないと言われているが、実際にはコベナンツによって、投資の制限、各種経営指標の維持や向上の義務化などにより経営のモニターが入り、実質経営介入の可能性がある。

ⅴ)個別の事業リスクと事業者全体の信用リスクを切り離して資金調達できる
従来の資金調達(銀行借入れ)では、企業全体の信用力に基づいて行われるのに対して、REIT のような証券化による調達では、企業が持つ特定資産(証券化の対象となった資産=病院)の信用力によって資金を調達するため、基本的にその企業全体の信用力に影響されず資金調達が可能となる。
例えば企業全体でみれば、不採算事業を抱えるため低収益であったり、借入過多で信用が不安視されている場合などでは、せっかく高収益が見込まれる事業を
開発しても、その事業資金の調達は叶わない。

REIT のような証券化による調達の最大の特徴は、企業全体の信用力から将来有望な事業(それに使用する資産)を切り離して企業全体が持つ低採算や信用不安を遮断して当該事業からあがる収益を資金提供者に優先配分することで信用力を担保し資金調達できるようにする点にある。

このため一般の事業にあっては有望事業をその時の企業体力にかかわりなく推進することが可能となり、これは
大きなメリットと言える。
しかし、病院がREIT を利用する場合には、以下の理由によりこのメリットを享受しにくい。
病院の場合、
ⅰ)撤退障壁が高い。たとえ病院側が賃借料不払いに陥っても、入院患者がおり、公共性の高い事業のためすぐには入院患者に出てもらうことはできない。
ⅱ)テナントの入替えが困難である。病院が出て行っても、施設が病院用の構造であるため、他に転用するのは難しい。
ⅲ)管理上の問題などもあり、通常1 施設1 テナント(1 病院)が利用する。
REIT 側からみると、一般的には1 施設にはいくつかのテナントを入居させ、リスクを分散させる。
1 施設1 テナントといった一括貸しは、そのテナントの経営がストレートに当該施設が生み出すキャッシュフローに影響するため、よほど信用力のあるテナントでなければリスクが高い。
このような理由により、REIT 側は病院施設に対する投資には慎重である。
REIT 側からみれば、こうしたリスクを解消してくれる病院そのものが投資対象であり、言い換えれば、経営内容の良い病院にその利用は限られると言える。
結局のところ、本来REIT は不動産が生み出すキャッシュフローにのみ基づいた資金調達ができる点がメリットであるが、病院の場合は既述の理由によりその
メリットが享受できず、病院全体の信用力(信用リスク)に基づく資金調達にならざるを得ない。

ⅵ)不動産管理から解放される
これは、不動産運用を業ないし目的としている事業会社の場合の問題で、そういう事業会社にあっては利益最大化を求めていつ売るか買うか、優良テナントをいかに呼び込むか、賃借料設定をどうするか等、いろいろと頭を悩ます問題が存在する。
しかし、病院の場合、廃業のとき―この場合は施設をどう処分するかといった問題が生じるが―、そうした特殊なケースを除いて、病院というのは、本来永続
的に使用するという前提で経営しているため、不動産管理の問題は殆どないと言ってよい。これはサ高住、有料老人ホームでも同様である。




②デメリット
上記でみてきたように、REIT の利用において多くのメリットが強調されているが、これらは病院にとって多くの場合必ずしも当てはまらない。

むしろ問題なのは、病院が資産を流動化した場合のデメリットである。
第一は、賃借料が市場リスクに晒されるということである。
賃借料は市場の相場によって決まるものなので、この市場リスクに晒される。
賃借料が長期固定とは限らない。市場動向によっては賃借料の値上げを突きつけられるリスクが伴う。
自己所有ならば、このリスクから解放される。

第二は、既述のとおりコスト高となる点である。

第三は、建替え・改修等が保証されない怖れである。これは大きな問題と言えよう。
REIT は常に自己所有している不動産の利益最大化の観点から、市場動向を睨みつつ、売り時、買い時、用途転換、賃借料設定はどうするか、長期契約にするか短
期契約にするか、用途転換は行うべきか(オフィスビルにするかマンションにする
か)等を検討している。

つまり、REIT にとって病院への投資は、多くの選択肢のうちの一つでしかないので、REIT が病院の修繕や改築などに応じるか否かは、その時の社会経済情勢、
特に不動産市場や成長分野の動向等によって定かではない。

そのため、不動産(病棟)の建替え・改修等について、病院とREIT の意見が常に一致するとは限らない。
これらを防ぐには、病院側が必要と認めた時に修繕、改築を遅滞なく行うことを契約に織り込むことが必要となるが、そのような遠い先のことを今の時点で応じて
くれるか疑問である。
また、仮に応じたとしても、リスク保全の観点から様々な条件をつきつけられる公算が大きい。
第四は、最後の安全弁の放棄である。経営では何が起こるか分からないが、資産を所有していればそれに備える道が残せる。REIT は、その万一の備えを放棄してしまうことになる。

第五は、医療法人制度の目的との適合性である。
その第一は資本集積手段の放棄についてである。医療法人は非営利性と資本集積を目的として創設されたものだが、病院が施設所有に伴うコストを賃借料に換える
ことは、内部蓄積部分(減価償却費+利益)を賃借料という形で病院外に流出してしまうことを意味する。これは、再投資するための資本集積の放棄である。
更にこのことをマクロ的に捉えれば、病院産業外に資金が流出することを意味し、医療事業で蓄積した資金は医療に再投資するという前提で成り立っている健康保
険料や診療報酬算定の基礎をどう認識するかの議論を呼び起こす。

第二は、医療経営における医師の主体制が喪失される怖れである。REIT は不動産がもたらすキャッシュフロー以外には収益を求めない。このため、キャッシュフ
ローを確実なものとするための仕組みが、投資家保護という名目で最優先される。


例えば新規設備投資の事前承認、特定経営指標について一定水準の確保義務など、経営にいろいろと枠がはめられる。
また、日々の経営においても計画の進捗状況などについてモニタリングが行われる。
要するに、REIT 関連事業者側が事実上病院経営を仕切ることになり、企業経営的な効率至上主義の経営が行われることになりかねない。

こうした措置は、投資家にとっては当然の措置であり、また一般企業にあっては効率至上主義の経営は企業目的と合致するもので、これ自体何ら問題はない。
しかし、病院にあっては、医師を主体とした経営を原則とし、その下でミッションの最大化を目指すことが期待されているので、効率至上主義の経営が前面に出す
ぎることを必ずしも良しとしていない。
いずれにしてもこのようなスキームでは医師がスキームの中で埋没してしまい、病院経営における医師の主体制が阻害されかねない。


このように、REIT は病院の非営利性、公益性、医療を理解した者による経営の確保、資本集積を旨としたわが国の医療制度と不調和な部分がある点は否定できな
い。


(4)REIT 導入の留意点
これまで指摘してきたことから、サ高住及び有料老人ホーム、病院へのREIT 導入に際しての留意点・検討事項を要約的に示すと以下のとおりである。

これらについて少なくともREIT 側に提示を求めるか、ガイドラインを設定するか等の検討が必要であろう。

① 建物賃貸借契約書、コベナンツのモデル(ひな形)の提示
② 施設利用者保護に関する具体的規定の提示(高齢者施設のみ)
とりわけ長期入所や長期安定賃借料に関する規定
③ 施設を自己所有したケースとREIT 利用のケースのコスト差シミュレーションの例示
④ 転売・転売先についての規制や転売後の契約内容についての取り決めの検討
⑤ 配当レベルについての規制の検討

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コベナンツは、本来の意味は「約束、誓約」で、金融機関(資金供給者)が融資(シンジケートローン、ノンリコースローン、LBOローン等)や社債などの取り組みにあたり、契約内容に記載する一定の特約条項(義務、制限等)のことをいう。本特約は、資金供給者側に不利益が生じた場合に、契約解除や条件変更ができるように契約条項中に盛り込まれるものである。

 例えば、銀行のシンジケートローンでは、原則、銀行取引約定書の適用対象外であり、無担保・無保証の契約もあることから、参加金融機関として融資先(資金調達先)の業況や財務内容を確認(モニタリング)することが必要になり、本条項が契約書に記載される。その一般的なものとしては、報告・情報提供義務条項、担保制限条項(ネガティブ・プレッジ条項)、資産譲渡制限条項(アセット・ディスポーザル条項)、財務制限条項、格付維持条項、事業維持条項、財政維持条項などがある。

なお、コベナンツは、大型の資金調達だけでなく、不動産担保や第三者保証に依存しない通常の融資でも活用されることがあり、これを「コベナンツ条項付融資」などという。本融資は、日本ではまだ一部の金融機関でしか取り扱われていないが、その仕組みは、借入れを希望する企業が担保や保証を提供する代わりに、一定の財務比率等について金融機関にその遵守を約束し、金融機関はそれを前提に融資を実行するというもので、もし企業がその約束に違反した場合は融資を回収するのが原則となっている。