読み解く=福岡市立こども病院 11月1日移転開業 採算、医師確保が課題 九州、全国から患者 識者「広域経営の議論を」

2014.11.20

読み解く=福岡市立こども病院 11月1日移転開業 採算、医師確保が課題 九州、全国から患者 識者「広域経営の議論を」
2014.10.28 西日本新聞


 福岡市立こども病院(同市中央区)が11月1日から、同市東区のアイランドシティ(人工島)に移転開業する。

難病や重度の障害児らに対応できる西日本唯一の小児総合医療施設として、1980年の開業以来、九州一円、全国からも患者を受け入れてきた同院。老朽化などを理由に施設をリニューアルして船出するが、高度な医療を提供するため赤字構造を抱え、採算面など課題は残る。重症児や家族を支え続ける公立病院の在り方とは-。 (森亮輔)


 13年前の冬の朝を、同市中央区の女性(43)は忘れない。長男(13)は生まれつき心臓の一部がうまく形成されず、血液が全身に行き渡らない「左心低形成症候群」。当時、生後1カ月半で既に2度目となる手術の日だった。

「こども病院でしか手術できない」と聞かされていた。手術は10時間以上かかり、長男は人工肺につながれて戻ってきた。

 自宅でも酸素ボンベを手放せなかったが今年5月、通算4度目の手術を経て「海中にいるような生活」を終えた。
「設備ではなく人材が優秀」。女性はしみじみ言う。「新病院に移っても、日本でも優秀な医師を確保し続けてほしい」

 同じく心臓病を患って生まれた長女(5)に半年に1度、同院で検査を受けさせる鹿児島市の母親(32)は「医師に話を聞けば安心できる。遠いけど絶対、定期的に通い続けます」。

 車で片道3~5時間かかる距離だが、2011年に全線開通した九州新幹線を使えば約2時間。今や入院患者の5割、外来患者の4割が福岡市外から訪れる。

   ◇    ◇

 移転に当たり、病床や診療科を増やした同院は、必要な医師数を90~100人と見込むが、現段階では78人。
全国的に小児科医が不足し、とりわけ重症児を扱う専門医の確保は難しく、当面は空き病床が出るのは避けられない。病院側は「3年かけて医師を増やし、フル稼働させる」方針だが、人件費増など、労働環境の改善は容易ではない。

 全国にある公立の小児医療拠点のうち、国立をのぞく宮城、静岡など14カ所はいずれも都府県立。
福岡市は唯一の市立病院だ。開院以来、高度医療を施す診療部門は赤字が続き、市が一般会計から毎年度5億~19億円を補填(ほてん)し続けてきた。

 市は2010年度から、100%出資する地方独立行政法人・福岡市立病院機構に運営を移管、経営の効率化を図っているが、それでも13年度の市の負担金は4億2千万円。

新病院建設に伴い、負担金は今後3年間、15億~17億円まで跳ね上がる見込み。機構側には131億円に上る建設、設備費の返済ものしかかる。

 市は毎年、福岡県に運営費の助成を要望。

これに対し、財政難を背景に07年度までに県立病院をすべて廃止した県側は、公平性などを理由に応じていない。

 同じく重症児者を受け入れる南福岡病院(現国立病院機構福岡病院)元院長の西間三馨(さんけい)・福岡女学院看護大学長は「診療圏は拡大している。

日本で誇れる病院に発展するためにも、まず福岡県、そして九州の他県からも助成を得る仕組みを、広い視野で検討してほしい」と願う。
地域医療に詳しい伊関友伸・城西大教授は「人手がかかり、赤字が避けられない高度医療の担い手として公立病院の役割は続く。
地域事情も絡むため簡単ではないが、広域経営、共同経営の論議はあってもよい」と指摘する。


 ●治療実績は国内有数 交通の便には懸念も

 こども病院の原点は約40年前にさかのぼる。身体的にも精神的にも成人とは異なる小児の専門病院を求める機運が福岡市でも高まり、1971年に元九州大学長ら小児科医、主婦らによる市民団体が設立され、開設を求めて運動を展開。80年、西日本唯一の小児医療専門病院として開院した。

 当初14科でスタートした診療科は徐々に拡大、2010年には出産前からの一貫した治療を目的に産科を新設。周産期医療の地域拠点としての役割も担う。

 九州一円、全国からも患者を受け入れ、延べ患者数は外来233万人、入院187万人。年間2千件以上の手術を手がけ、うち心臓病は400例を超し、全国随一の実績を誇る。

 新病院は敷地面積が現在の約2倍。病床数は重症系を中心に190床から233床に拡充する。

一般病床の個室数は4倍の132室となり、ソファベッドやシャワー室を完備。
手狭だった患者専用駐車場は3倍の300台分確保した。

 ただアクセスには患者家族らの間に懸念が残る。
都市高速道を人工島に延伸する計画は着工時期が未定。徒歩でも現病院は最寄りの地下鉄唐人町駅(同市中央区)から約5分だが、新病院は西鉄香椎、JR千早駅(同市東区)から30分以上かかる。

 病院側は玄関前にバス停を新設。福岡市・天神、JR博多駅、千早駅からのバスが増便される