〔「貧困老後」がやってくる!!〕もはや避けて通れない 年金・医療・介護、「負担増」「給付減」の無情

2014.10.30

 

〔「貧困老後」がやってくる!!〕もはや避けて通れない 年金・医療・介護、「負担増」「給付減」の無情
2014.11.09 サンデー毎日 


 ▼後期高齢保険料「特例廃止」で保険料3倍に

 ▼来春「マクロ経済スライド」発動でますます減る年金


 今年4月、70~74歳の医療費負担が1割から2割に引き上げられたばかり。
今度は所得の低い後期高齢者(75歳以上)の保険料軽減措置の廃止、年金抑制策が浮上した。
「給付減」「負担増」のドミノで「老後破産」がますます現実味を帯びる。もはや人ごとではない。

「年金下げるな!」「消費税上げるな!」

 10月17日、全日本年金者組合などが主催する「怒りの年金者一揆」が全国で行われた。年内にも決まる消費税率10%への引き上げを巡る政権内の攻防が激しさを増す中、年金削減や社会保障切り捨てに、高齢者の怒りが日増しに強まる。

 2日前の10月15日。厚生労働省は、75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療制度で、所得の低い人の保険料軽減措置を段階的になくす方針を打ち出した。

 社会保障に関わるコスト抑制は財政再建を目指す国の課題。だが、少ない年金を減らされたうえ、保険料の天引き額が増えると生活はどうなるのか─。現役世代にとっても「老後」を視野に入れた生活設計が当たり前の時代だからこそ、今の高齢者の生活を直視する必要がある。

 ◇      ◇

 横浜市内に住む秋本英子さん(76)=仮名。30代で離婚し、子育てしながら電話のオペレーターや清掃などの仕事を続けてきた。年金額は月額12万円。

 秋本さんは、新聞で読んだ後期高齢者医療保険料軽減の特例廃止が気がかりという。月560円の保険料が倍の1120円になる。年間6720円の負担増だ。

「年寄りも甘えていないで払わないといけないとは思う。でもカツカツの生活をしているので、これ以上保険料が上がるのはキツイ。最近は通院も控えています」

 白内障の手術を2年前に受けた。定期的に病院に通う必要があるが、目薬代もかかるのでなるべく行かない。毎日飲むように言われている高血圧の薬も、2日に1回に“間引き”して長持ちさせている。

「預貯金もだんだん減っていくので長生きするのが怖いね(笑)。埼玉に40代の息子がいますが、息子にも家庭があり、決して余裕はない。息子には迷惑かけたくないから、自分で頑張れるところまで頑張る」

 東京都足立区の都営団地の3階に住む斎藤彰さん(77)を訪ねた。

 斎藤さんは現役時代、製造業の仕事に就いていた。途中で辞めたりして保険料を払っていない時期もあり、年金は月額約10万円。

「若い頃は老後なんて考えもしなかった。手取りが良ければそれでよかったけど、今はキツイね。減免措置を受けていて、家賃8000円程度ですから助かっている」(斎藤さん)

 元看護師の妻(79)の年金を合わせると約19万円。妻は最近、特別養護老人ホーム(特養)に入ったため、2世帯分の出費が家計に重くのしかかる。特養に入るまでに5年も待ったという。その間は、病院や自宅を行き来して介護した。

 出来合いの総菜や外食はほとんど利用せず、食事は自炊して節約に努める。週に何回か、近くの銭湯に通うのが楽しみだ。月4回、100円で入浴できる券が区から配布される。

「怖いのは病気だ」と斎藤さんは何度も繰り返した。

「子どもがいないので、自分が倒れたら妻の面倒を見る人がいなくなる。入院するほどの病気になったら、医療費で生活が立ちゆかなくなる」

 受給者になって初めて年金の大切さが身に染みる、とも繰り返した。

「年をとっても人間らしい生活をしたい。生きるだけで精いっぱいの生活になると気持ちが死んじゃう。ゆとりがほしい」

 斎藤さんは大学病院の献体に申し込んでいる。医学の発展に役立てたいという思いももちろんあるが、献体すれば火葬費用などは大学が負担するため、弔いの費用が“節約”できるからだ。


 ◇「茹でガエル」のようにジワジワ


 先の秋本さんも斎藤さんも後期高齢者だ。2人とも現役時代は一生懸命に働き、「自分はごく普通」と思って生きてきた。だが老後になって、思った以上に生活が苦しいことに戸惑いを隠せない─。年齢とともに体力の衰えが身に染みるだけに、真っ先に病気や事故を恐れる気持ちが痛いほど伝わってくる。

 ◇      ◇

 今回、厚生労働省が打ち出した特例の廃止によって、負担増になる高齢者は約865万人。810億円の削減を見込む。

 2008年に導入された後期高齢者医療制度は、それまで加入していた公的医療保険から切り離して別建てにしたため、“姥(うば)捨て山”批判が高まり、保険料軽減措置が取られてきた。厚労省案は、この特例措置を段階的に廃止するものだ。

 後期医療の保険料は、加入者全員が負担する「均等割」と、年金などで153万円を超える年収がある人が収入に応じて支払う「所得割」からなる。

 均等割に関しては現在、年収80万円以下の場合は9割、80万円超~168万円以下は8・5割が特例によって軽減される。厚労省はこの特例措置を段階的に廃止し、本来の7割軽減に戻す方針なのだ。

 特例措置が廃止されると、年金収入80万円以下の単身世帯は、月額370円が1120円とほぼ3倍に上がる。夫の年収が80万円以下の高齢夫婦世帯でも、現在月額740円の保険料が2240円と、こちらも3倍になる見通しだ。

 厚労省は16年度からの実施を目指している。

「80代にもなるとね、ちょっとした段差にもつまずいて転ぶ」「膝も腰も痛いところだらけ」……。高齢者を取材していると、よく聞く言葉だ。病気との付き合いは高齢者にとって切っても切れない。

 国民一人当たりの医療費で見ると、64歳以下の年間医療費は約17万7000円。これが75歳以上では89万2000円に膨れ上がる。

 当然、財源は火の車だ。75歳以上の保険料で賄われるのは医療給付費全体の1割。5割が税金で、4割は現役世代の医療保険(健保組合など)からの支援金だ。このため、赤字に陥る健保組合が続出し、「過度な高齢者優遇を見直すべきだ」との声が上がる。

 ただ、好んで病気になる人はいない。「経済的に困窮してくると、高齢者は食費を節約し、次に水道・光熱費、そして医療費の削減に動く」(ケアマネジャー)という。経済的な理由で医者にかかることすら諦めざるを得ないのは、あまりにも切ない。

  ◇      ◇

 年金についても支給額を抑制する考えが10月15日、示された。「マクロ経済スライド」という仕組みだ。社会保険労務士の桶谷浩さんに解説してもらおう。

「年金は物価や賃金の上昇に応じて額が増えますが、人口減少や平均寿命の延びに応じた一定の割合(調整率)分について増額を自動的に抑える仕組みがマクロ経済スライドです。来春から発動される予定です」

 調整率は毎年変わるが、15年度は1・1~1・3%と見込まれている。

「仮に調整率を1・2%とすると、物価や賃金が2%上がっても、マクロ経済スライドを適用すれば、もらえる年金の額は0・8%しか増えません」(桶谷さん)

 いわば“年金自動カット装置”だ。生活にどのように響いてくるのだろうか。

「(調整率1・2%がずっと続いた場合)今の受給者は10年で約10%、20年で約20%目減りするイメージです。まさに“茹(ゆ)でガエル”状態です。最初のうちは気付かないぐらい緩やかですが、『何となく昔と比べて暮らし向きが悪くなってきたなあ』と感じ始め、やがて熱くなり飛び出してしまう。10年、20年たった後でジワジワと家計に響いてくるのです」(同)


 ◇満額でも暮らせない国民年金


 現行制度では物価が下がるデフレ時には適用されないが、厚労省はこのマクロ経済スライドをデフレ下でも適用すべく見直しを進めている。そうなれば、景気に関係なく年金の実質額は毎年減らされることになる。

 わずかな年金を糧にする高齢者は、保険料アップのうえ年金カットで生活が成り立たなくなる恐れが出てくる。

 年金は老後の生活の拠(よ)り所(どころ)だ。繰り返しになるが、国民年金(基礎年金)の場合、40年間滞納せずにコツコツ払い続けても、受け取る金額は6万4400円(14年度)。統計上、6万円超は4割程度。しかも3万円以下が約2割いる。

「夫婦2人で合わせて13万円。それなら、ささやかに生活できた。でも夫が亡くなり、私一人の年金ではにっちもさっちもいかなくなった」といった国民年金受給者の声はよく聞く。

「自営業者は定年がないため、75歳くらいまで働いて収入を得ることも可能です。しかし、75歳を超えると体力的にきつくなってきます。介護が必要になった場合、6万円台の年金から費用を捻出するのはかなり厳しい」(前出・桶谷さん)

 国民年金は非正規雇用の若者らも加入する。桶谷さんはこう言う。

「暮らしていくことだけで精いっぱいで、老後のために保険料を払える状況ではない若年層も大勢います。未納にせず、保険料を免除してもらったり、納付を猶予してもらう制度もありますが、老後に受け取る年金額は少なくなる。決して安くはない保険料を真面目に納付しても、最低限の生活すら保障されない制度は時代に合っていない」

 家族との同居が前提で、年金は“小遣い程度”だった時代があった。今、年金だけで暮らす単身高齢者が急増し、消費増税、医療、介護などの負担増が暮らしを直撃する。国民年金の制度は、やはり社会構造に追いついていない。


 ◇入院給食費2倍、「紹介状なし」で大病院受診は1万円負担


 負担増は高齢者だけではない。厚労省は10月15日に開いた社会保障審議会の医療保険部会で、当面の医療保険制度の改革案を示した。

 一つは入院患者が支払う食費だ。1食あたりの自己負担額260円を、倍近い460円に引き上げようとしている。1カ月入院した場合の負担額は、これまでの2万3400円から4万1400円にハネ上がる。全国保団連事務局次長の寺尾正之氏が解説する。

「食費は3割負担とは別に払ううえ、高額療養費の対象にならず財布を直撃します。長期の入院患者は食事代を気にして退院せざるをえなくなる可能性もあります。入院期間の短縮を促す狙いでしょうが、必要な医療を受けられない事態が生じかねません」

 患者の“追い出し”を強引に進めれば、容体が悪化して、結果的に保険財政を圧迫する恐れもある。

 また、紹介状を持たずに大病院(500床以上)を受診すると、5000~1万円の追加払いを求めるという案も俎(そ)上(じよう)に上がっている。「誰もが、いつでもどこでも受診する権利が脅かされ、早期発見、早期治療の妨げになる」(寺尾氏)

 これらの改革案は審議会が来月に結論をまとめ、来年の通常国会に関連法案が提出される見込みだ。具体的な日程は未定だが、この他にも検討中の項目はある。

「75歳以上の患者負担を原則1割から2割に引き上げることや、70歳以上の高額療養費制度における外来特例(外来だけを受診した場合の負担上限)の廃止も検討されています」(同)

 介護については、既に「地域医療・介護総合確保推進法」が成立している。

 介護サービス利用料の自己負担は原則1割だが、15年8月から一定以上の所得のある人は2割に引き上げる▽15年4月以降、新たに特養に入所する人は原則、要介護3以上に限定する▽介護の必要度が低い要支援1、2向けの訪問介護と通所介護は、国から市町村へ事業を移す─などだ。

 市町村ごとに内容や利用料を決め、ボランティアやNPOにも委託できるようになるのだが、利用者は不安を募らせる。要支援2の独り暮らしの女性(68)は週3回、ヘルパーに買い物や掃除を頼んでいる。

「1年前に脊柱管狭窄症で手術を受け、家の中の移動がやっと。ヘルパーさんが一番頼れる相談相手で安心できる。ボランティアで質の良いサービスを受けられるのか不安です」

 さらに、財務省は介護報酬の6%引き下げ方針を打ち出した。ただでさえ介護現場で働く人の給与は低く、平均給与は月額21万円台。全産業平均の約33万円に比べると落差がある。

 東京五輪から5年後の2025年には「団塊世代」が75歳以上になる。3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という超高齢化が進むことになる。

「介護を必要とする人が爆発的に増えるのに、“安上がり”な医療介護体制では、ますます介護崩壊を招く」(事業者)との悲鳴も上がる。「姥捨て」は絵空事ではなくなるかもしれない。

(本誌・藤後野里子)