患者の期待を設定する

2014.10.11

クリーブランド・クリニックの実践 一流の医療は技術もサービスも満足させる〔Health Care’s Service Fanatics〕
2014.11.01 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 




クリーブランド・クリニック 外科医

ジェームズ I. メルリーノ

James I. Merlino

ハーバード・ビジネス・スクール 教授

アナンス・ラーマン

Ananth Raman

編集部/訳

“Health Care’s Service Fanatics,” HBR, May 2013.

(C)2013 Harvard Business School Publishing Corporation.





患者の期待を設定する


 患者が常に正しいわけではない。
患者の希望は、それがかなえられたとしても本人にとって必ずしも最善とは限らない。たとえばこんなケースがある。
当然のことながら、患者は睡眠をじゃまされたくない。しかし、投薬や何らかの処置、バイタル・サインの確認のために夜中に起こさざるをえない場合もある。
入院患者のなかにはこうした必要性を理解せず、CMS調査で夜間に病室が静かであったかという問いに厳しい点をつける者もいる。

 同様に、ナース・コールで助けを呼んでも看護師がすぐ対応しない場合、たとえ緊急の用でなくても患者は動揺することに患者体験室は気づいた
この問題をさらに探ってみると、患者自身が緊急の用事でないとわかっていても、対応が遅いと不安になることがわかった。
もし本当に緊急の場合でもだれも来てくれないかもしれない、と恐怖感を抱くのである。
患者は、ナース・コールを受けた側が依頼の緊急性に応じて対応の優先順位をつけているということを知らなかった。

 こうした問題は、クリニックでどんな体験が望めるかを入院前の患者に伝えておくことで緩和できると思われた。

そこでクリーブランド・クリニックでは、入院予定の患者用にパンフレットと双方向型のオンライン動画を作成し、病院の環境と対応内容、およびその理由を説明することにした。
また、疼痛管理やケア提供者とのコミュニケーション方法についても患者への啓蒙を図った。

 さらにメルリーノは、病院環境の改善に患者自身の協力を仰ぐことができるのではと思い当たった。

たとえば、準個室の患者に夜間は騒音をなるべく立てないようお願いするなどだ。
また、問題を発見しプロセスを改善するために、以前よりも患者に頼るようになった。

現在では、病室がきちんと清掃されていなかった場合に知らせてもらうほか、ケア提供者に手を洗ったかどうかを定期的に尋ねることも患者にお願いしている。

 こうした対策は些細なことのように思われるが、その影響は、コストの面でも患者満足度の面でも重要である。二〇一二年、クリーブランド・クリニックにおける給与・賃金・手当の合計は事業収益の五六%に上っている(消耗品は一〇%、医薬品は七%にすぎない)。コストを抑えたいなら、スタッフの生産性を上げる必要があるのは明らかだ。小売業やサービス業で成果を上げている一つの方法は、従業員が従来提供していたサービスを顧客に代行してもらうことである。航空券の予約しかり、店舗での精算しかり、他の顧客の問いに答えるなどもその一例だ。こうしたプロセスを快く受け入れてもらえるよう工夫すれば、コストの削減と患者体験の向上を両立できるだろう。

*   *   *

 病院経営者は、ここに挙げられているような施策は容認できないものと思うかもしれない。しかし、メディケアの支払いと患者満足度とを関連づけるCMSの方針を見れば、その考えも変わるはずだ。また留意すべきは、患者体験の向上を目指し文化とプロセスを変革することが、安全性と質の大幅な改善につながりうるということだ。もっとはっきり言ってしまえば、優れた患者体験の提供も含め、患者中心主義に基づくケアの取り組みは選択肢の一つではなく、必須事項なのである。

 クリーブランド・クリニックの経営陣は、これまでの成果にもかかわらず、まだ勝利宣言をする時ではないとわきまえている。従業員エンゲージメントの水準がまだ十分でないなど、明らかに改善すべき点が残っているからだ。そして根本的に考えれば、真に患者中心の組織を運営することは「施策」ではなく、当然の習慣として根づくべきものである。患者にとっての最善を尽くすとは、たえず何が改善できるか分析し、その具体的方法を考え出すことを意味する。これから先もやるべきことは常にあるのだ。