田舎の実家、どうするか マイナス資産の空き家...解決策は早めの買い替え 実家かたづけ第3弾

2014.10.06

田舎の実家、どうするか マイナス資産の空き家…解決策は早めの買い替え 実家かたづけ第3弾
2014.10.10 週刊朝日


 親が亡くなったり施設に入ったりした際、直面するのが実家の扱いだ。
かつての夢のマイホームは「住まない」「貸せない」「売れない」という三重苦に陥り、負の遺産として子ども世代に重くのしかかる。「空き家」が大量発生し始めた今、私たちはどうすればいいのか。


 初夏。むせかえるような草いきれの中、腰の高さまで生えた雑草をかき分け、進む。玄関までの数メートルで汗がしたたり落ちた。

 福島県矢吹町の平屋。都内の派遣社員Aさん(42)が年数回は訪れる“実家”だ。

母亡き後に独居していた父が他界して無人になった4年前以降、どんどん荒れていく。

来るたびに草を抜いたり、いつのまにか散乱するゴミをかたづけたりするが、焼け石に水だ。屋内のかたづけもままならない。

 「私のために残してくれたはずなのに、こんなに苦労するなんて想像もしていませんでした」

 Aさんは独身で、生まれ育った東京をほとんど離れたことはない。

一方、両親は23年前に故郷の矢吹町へ戻り、二人で暮らした。Aさんは数カ月に一度赴く程度で、「あくまで親が住んでいる家で、自分とはあまり関係ない」と思っていた。

 それが“自分事”へと変化したのは、父ががんで亡くなった直後から。約100坪の土地と家の相続人はAさん一人だが、地縁血縁が薄い上、仕事もない田舎暮らしなどできるはずもなく、「土地を手放すしかない」と考えた。

 地元の不動産業者に相談し、登記簿上の所有者確認、隣家との境界線の確定、土地測量などの手続きを済ませ、いざ売却と思いきや、「全く売れなかったんです」とAさんは振り返る。

 そのまま4年。家は廃れていくばかりだ。

 例えば更地にすれば売りやすいと聞いたが、家屋解体に100万~200万円かかると知って断念。

不安定な収入の中から毎年8万円弱の固定資産税を出すのは痛手で、一昨年は納付時期が失業と重なり、分割支払いでしのいだ。

 隣家に譲ろうとしたこともあったが、「うちと似たり寄ったりだったのか、そのうち空き家になってしまった」。最近は町への寄付を検討しているが、「派遣切りに遭った後、やっと新しい仕事が見つかったばかりで、平日に福島へ行ける状況じゃない」と肩を落とす。

 7年前に亡くなった母は常々「困ったときには、家を売ってお金にしなさい」と口にしていた。でもAさんは時々、こう愚痴を言いたくなる。

 「お母さん。申し訳ないけど、家があるから私、お金に困っているんだよ」

 こうした光景は今、全国に広がっている。


 ●無人7軒に1軒、売れぬ賃貸住宅

 総務省が今年7月末に発表した「住宅・土地統計調査」によると、2013年の全国の空き家数は820万戸で、過去最高となった。総住宅数に占める割合も13・5%で、5年前の前回調査時より0・4ポイント上昇。7軒に1軒が空き家の計算だ。

 もっとも高いのは山梨県(22・0%)、次いで長野県(19・8%)、和歌山県(18・1%)。人口減少や高齢化が進む地方が上位を占めている。

 その数字の裏に見えるのは、高齢の親が亡くなったり施設に入ったりして、誰も住まなくなった実家の扱いに苦慮する中高年の子どもたちの姿だ。

 戸建ての実家ばかりではない。相続税対策目的で建てられた賃貸住宅も空き家となり、子ども世代に金銭的負担を強いている。

 「どうすることもできないので『塩漬け荘』って呼んでいます」

 親から受け継いだ愛知県内のアパートをそう表現して苦笑するのは都内在住の雑誌編集者Bさん(49)だ。7年前に最後の住人が退去して以来、空き家になっている。目隠し代わりの植栽の枝は道にせり出し、看板は大きく傾く。錆びて腐食した外階段。駐車場の脇では雑草が伸び放題で、ヤブ蚊がやたらに多い。

 名古屋中心部から電車で約20分、名鉄の駅から徒歩15分ほど、県道から一本奥に入った路地にあるアパートは、両親が約40年前、祖父の遺産の土地に借金して建てた物件だ。

 00年、Bさんの両親は交通事故に遭い、相次いで亡くなった。一人娘のBさんは失意のなかで実家の整理に着手。幸い名古屋中心部の熱田神宮近くにあった実家は比較的スムーズに売却が成立したものの、アパートはいつになっても買い手が現れなかった。

 現在の物件を見た地元の不動産業者は、「アパートの空き家は難しい。人に貸すもんだで。誰も入っていないようやったらお金も生まんし。買い手がいても更地にして、という条件で言ってくるのが多いだあね」と本音を漏らす。

 何度かの転職を経て、今は契約社員のBさんには、年数万円の固定資産税だけでも負担感は大きい。坪単価二十数万円で、当初約1500万円だった売値を100万円単位で下げてでも、手放すしかないと思っている。

 「このアパートがあったおかげで私は大学まで出してもらえた。がんばって建ててくれた両親には感謝しているのに、最後がこんなことになるのは……。本当に切ないです」(Bさん)

 AさんやBさんのようなケースを「典型的な『空き家事例』です」と評するのは、不動産コンサルタントの長嶋修さん(47)だ。今年7月、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)を著した。「親は子どものために家という資産を残したつもりが、今は負の遺産になってしまうんです」と話す。

 高度成長期からバブル経済期にかけては、建物の資産価値がゼロでも、土地は2~3倍、多ければ5倍にもなった。

 「今の60~70代は土地だけで平均2千万円ぐらいの資産形成ができたはずですが、もはや、そうではなくなったんです」

 バブル後の1990年代から景気対策として拡大した住宅ローン減税も新築を優遇したため、毎年100万~150万戸ペースで家が建っていった。だが人口減社会に突入し、世帯数が減るなかで当然、家は余ることになる。

 「人が流入しづらい土地はどんどん価値が下がる。さらに団塊の世代からの遺産相続が増える20年ごろから、空き家率は急激に上昇するでしょう。『売れない』『貸せない』『住まない』家なのに、固定資産税だけはかかる。『おまえにやるよ』『いや、長男なんだから、お兄ちゃんがもらいなよ』と、今にきょうだいで親の家の押しつけ合いになりますよ」(長嶋さん)

 地方や郊外でじわじわと広がっていく空き家。民間シンクタンク・価値総合研究所が昨年実施したアンケートでは、空き家の所有者の約7割が「何もしていない」と答え、賃貸や売却などに向けて動いていない。こうした“放置状態”に、住民からも苦情が上がり始めている。

 「不審者が住み着いたり犯罪の温床になったりという治安の悪化も心配だし、倒壊や放火の危険性もありますよね。住宅政策の結果がこれなんだから、もっと行政がなんとかすべきじゃないんですか?」

 そう訴えるのは音楽プロデューサー曽根隆司さん(59)だ。今年5月、病を患う両親の介護のため、三十数年ぶりに実家に戻ってきて、周りが空き家だらけなのに心底、驚いた。

 宮城県内、最寄り駅から1キロほどの高台にある住宅地。櫛の歯が欠けたように空き家が目立ち、中には打ち捨てられて廃屋のようになっている家もあった。昔からよく知る近所の4軒も空き家に。子どもたちが自立して家を出た後、年老いた親世代が亡くなったり、施設に転居したりして、無人になったままだという。

 こうした状況に対し、自治体も何もしていないわけではない。所有者に空き家の適正な管理を促す条例や、空き家情報を集めて移住者らに提供する「空き家バンク」などに取り組む。ちなみに昨年10月現在、272の自治体が空き家対策の条例を制定している。


 ●対策悩む自治体、法制化の動きも

 だが、前出の長嶋さんは「自治体だけの取り組みでは、解決は難しい」と指摘する。例えば市町村は条例に基づき、空き家の解体を代執行できる場合があるが、多くはその費用が回収できない。秋田県大仙市はこれまで計3回の代執行にかかった約622万円が未回収だ。全国400近いとされる「空き家バンク」も十分に機能していないところが多いとも。

 「ホームページをつくって空き家情報を登録しただけではだめ。それがどの程度の物件で価格が適正なのかなどを一般の人は判断できないんです。NPOや民間団体などが間を取り持ってフォローしなければ“絵に描いたモチ”に過ぎません」(長嶋さん)

 空き家が増え続ける理由の一つが73年度に始まった固定資産税の「住宅用地特例」といわれる。住宅が立つ土地の固定資産税は、更地と比べ最大6分の1に軽減されるというもの。この特例は、今ある建物を解体して更地に戻す場合、持ち主は100万円規模で解体費用がかかる上、税金が6倍になることを意味する。だからAさんもBさんも、「仕方なくそのままにしている」わけだ。

 こうした状態を是正しようと、この臨時国会に、議員立法による「空き家対策推進特別措置法案」が提出される予定だ。成立すれば老朽化で倒壊の危険性があったり景観や衛生に問題があったりする物件を「特定空き家」に指定し、市町村が家主に除却や修繕、立木の伐採などの指導・助言、勧告、命令ができるようになる。命令に従わない場合は行政代執行も可能だ。さらに持ち主不明の場合でも、固定資産税情報をもとに所有者を突き止めやすくなる。その結果、空き家のまま放置されている現状が変わるだろうと、不動産業界も注目している。

 だが、専門家には冷ややかに見る人もいる。

 「空き家問題の責任を、所有者個人に問うだけの『ペナルティー型』施策では対症療法にしかなりません」

 そう指摘するのは『空き家問題 1000万戸の衝撃』(祥伝社新書)の著者の牧野知弘さん(54)だ。

 「法案は、空き家の持ち主に『早く更地にして手放しなさい』という趣旨。でも、土地自体の価値が下がっていたら売れない。解体費用はかかるし売れないし、税金は上がる。これじゃ持ち主はやっていられませんよ」


 ●「新たな価値を」地域拠点目指す

 牧野さんは、空き家問題を都市計画の側面からとらえ、「空き家に新たな価値を生み出そう」と主張している。例えば市街地の老朽化した木造建築の密集地で、公共施設の建設を進める「市街地再開発事業」。これを住宅地にも適用できるようにするのも空き家対策に有効な手段だという。

 「空き家の多い住宅地の地権者をまとめて自治体やディベロッパーなどに託し、高齢者のケアハウスやコミュニティーセンターとか地域医療の拠点などを整備する。空き家に別の利用価値が生まれ、市場で流通するようになります」(牧野さん)

 個人レベルで空き家に息を吹き込もうとしているのが都内在住のライターCさん(51)だ。

 「一度も資産と考えたことはない」という実家は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島にある。6年前に母が亡くなって以降、無人となった一軒家に月1回程度通い続ける。今では中高時代の仲間たちと寺でクラシックのミニコンサートを開いたり、飲み会を催したり。故郷を離れて40年近いが、地元の友人も増えてきた。

 固定資産税は姉と弟に比べて相対的に余裕があるCさんが支払う。金銭的負担は感じるものの、今は賃貸も売却も考えていない。

 「私はふるさとに根っこがある。それがなくなるのは耐えがたいので、ほかの出費を抑えてでも家を残していきたいと思います」

 Cさんの夫(53)も実家がお気に入りだ。将来はイベントスペースやカフェなどにしたいと、2人で夢見ている。

 「維持費さえ生み出せれば十分。私たち夫婦には子どもがいないので、姪っ子や甥っ子が引き継いでくれたらいいなと思うんです」

 空き家問題解消に向けての施策やアイデアは各方面からさまざま繰り出されるが、住宅問題に詳しい長嶋さん、牧野さんがともに口をそろえるのは「もう土地では資産形成できないことを、私たち自身が受け入れなければならない」ということだ。

 東京都心の超一等地とされる麻布や広尾、六本木などは、海外マネーが流入する上、高級ブランドバッグと同様に需要があるため価値は下がりにくい。だがそれ以外の土地、大多数の人が暮らす郊外の住宅の地価下落は止められないというのが専門家たちの共通見解だ。

 「実家を空き家にして地価が上がるのを待って売ろうと思っていても無理。住み替えで段々グレードを上げる『住宅すごろく』のゴールが戸建てだった時代はもはや終わったんです」(牧野さん)

 野村総合研究所(NRI)インフラ産業コンサルティング部のグループマネージャー榊原渉さん(41)が言う。

 「極端な言い方ですが、実家が売ろうにも売れないのはそういう資産価値だということ。売れないのではなく、『あなたが売りたい値段では売れない』だけなのです」と言い切る。

 人口が減り、地価も下がる中で、これまでの「土地信仰」を捨てざるを得ない社会がやってきたのだ。

 人口が増加か横ばいの都市圏でも、空き家率は上昇傾向だ。総務省のデータによると、埼玉県(10・9%)、神奈川県(11・2%)は前回より上昇。大阪府(14・8%)は全国平均を上回った。愛知県(12・3%)も前回より1・3ポイント上昇している。


 ●戸建て売る団塊、駅前タワー完売

 牧野さんによると、首都圏でもすでに空き家増加の兆しは顕著に見えてきているという。

 「駅前のタワーマンションは軒並み第1期で完売している。だれが買っていると思います? 沿線で駅までバスで通う郊外に戸建て住宅を持っていた団塊の世代ですよ。自宅を売って、マンションに続々と引っ越してきています。今ならまだ戸建てが売れますから」(牧野さん)

 NRIはこのまま空き家が増え続けていった場合、23年には全国の空き家率は21%にまで上昇すると試算している。つまり親が住まなくなって売れない実家が、増え続けていくのだ。

 国は09年、過疎地域などに限っていた「空き家撤去費」の補助対象地域を拡大した。費用を独自に補助する自治体もあるが、効果は未知数だ。5軒に1軒の“空き家時代”はすぐそこまで来ている。処方箋はあるのだろうか。

 「郊外に一軒家を所有している人には『もし、子どもに残そうと思っているのならやめて、早めに駅近くのタワーマンションなどに住み替えたほうがいい』とアドバイスしています」

 と、牧野さんは話す。いつがそのタイミングなのか。

 「今すぐ売るしかないんです」(長嶋さん)

 (本誌・渡部薫)


 ■居場所は全国に「余ってる」空き家に暮らす つるけんたろうさん

 漫 画家のつるけんたろうさん(36)は、2008年に広島県尾道市に移住、空き家を無償で譲り受けて生活している。その顛末を8月、『0円で空き家をもらって東京脱出!』(朝日新聞出版)にまとめ出版した。

 東京でバイトをしながら漫画を描く生活を続けていたつるさんは、「モヤモヤと襲ってくる重圧と焦り」に背中を押され、妻(37)とともに移住を決めた。

 坂道と虫の襲来とに格闘しながら、自力で壁にしっくいを塗り、くみ取り式トイレを改装し、一つひとつ、暮らしを作り上げてきた。

 移住全般でつるさん夫妻を助けてくれたのが、同市で空き家を再生する活動をしているNPO法人・尾道空き家再生プロジェクト(通称・空きP)だ。

 代表は豊田雅子さん(40)。07年に「空きP」を設立、09年からは同市の「空き家バンク」も市と共同で進めている。これまでに120戸が空き家バンクに登録され、約80戸の空き家がゲストハウスやアトリエなどに生まれ変わった。

 つるさんも、今では空きPの重要メンバーだ。ゲストハウスの店長をしたり、卓球場を開いたり。自作のグッズを販売する店も開く。

 「田舎だから静かに暮らすのかなぐらいのイメージしかなかったんですけど。でも、ここへ来たら豊田さんを始め、だれも放っておいてくれなかった」と笑う。

 「住むところなんて全国よりどりみどり。居場所なんて全国どこにでも『余ってる』んですよ。都会でモヤモヤしている人には、それを知ってほしいです」(つるさん